秋田の図書館 (1/3)


[第1日 秋田の図書館 1/3]
1.国際教養大学図書館
2.秋田市立新屋図書館
3.秋田公立美術工芸短期大学図書館
4.秋田市立土崎図書館
[第2日 秋田から盛岡へ 2/3]
5.秋田市立中央図書館明徳館
6.岩手県立図書館
[第3日 東日本大震災後の石巻と仙台の図書館 3/3]
7.石巻市図書館
8.せんだいメディアテーク 9時から22時まで

東北を2泊3日で旅した。
1日目は、秋田県南部の蚶満寺(かんまんじ)に寄ってから、秋田空港近くの国際教養大学、雄物川河口近くの秋田市立新屋図書館などを見て秋田泊。
2日目は、北に向かって、男鹿半島と八郎潟を回り、再び秋田市内に戻ってから、盛岡に移動して泊まる。
3日目は、東日本大震災のあとの石巻と仙台の図書館に行った。


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 第1日 秋田の図書館
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秋田でレンタカーを借り、南に向かった。
道路にときたま現れる距離表示で、いつか行った山形県酒田までの数字がどんどん小さくなっていく。(→[酒田市立図書館・酒田市立光丘文庫])
山形県境に近い象潟に着き、蚶満寺(かんまんじ)の駐車場に車を置いた。

□ 蚶満寺
秋田県にかほ市象潟島

景勝の地、象潟のこの寺に、『街道をゆく』の「秋田県散歩」で、司馬遼太郎と須田剋太が1986年に訪れている。
司馬と軍隊でいっしょだった人がここの住職をしていて、司馬は秋田の旅のはじめに古い友人を訪ねた。それでゆっくり過ごしたためもあるか、須田剋太はこの寺で挿絵用の絵を10点も描いている。
1カ所でこんなにたくさん描いたのは珍しい。

● にかほ温泉 旅館いちゑ
秋田県にかほ市三森字大苗代 tel. 0184-37-2000
http://nikaho-ichie.jp/

蚶満寺に向かって国道7号を走っていたとき、右側にかわった建築をみかけた。
和風のつくりを、そっくり鉄骨とガラスで覆ってあるようだ。

旅館いちえの広いロビー 秋田市街に戻る途中で駐車場に入ってみると、旅館で、昼はランチもだしている。
高い吹き抜けの下の席で、気持ちよく昼を食べた。
温泉入浴のサービスつきなのだが、時間が惜しいのが惜しい。

秋田空港に近い国際教養大学に向かう。

■ 国際教養大学図書館
秋田市雄和椿川字奥椿岱193-2
http://web.aiu.ac.jp/

今回の秋田行きは、この図書館に行きたいというのがそもそものきっかけで思い立ったのだが、写真を見て惹かれていたとおりの、期待どおりの、すばらしい図書館だった。

国際教養大学の図書館の閲覧室

平面図でいえば半円形の場に、立面図では階段状に書架と閲覧席が積層していく。
直径30cmの秋田杉の丸太が6本立ち、堂々として、ダイナミックで、気持ちも広々してくる。
高いところに窓を巡らし、外光がおだやかに館内に入っている。
それだけではやや暗いが、書架ごとに人工の光があって本を読むには十分。
節電で照明をいくらか落としているらしいが、全体の控えめな外光と、必要な部分への人工光のバランスが、むしろこれでちょうどいいくらいに感じる。

円弧の通路を歩いたり、階段を上がったり降りたり、本を探しているふりをしながら散歩するにもいいと思う−もちろん座って読んでいる人の邪魔になってはいけないけれど。
半円形なので、歩いていると体の向きが変わっていく。
階段を上下すると、体のレベルも上下に揺れる。
固定した1方向に考えるのではなく、違う角度から考えたり、見おろしたり、見上げたりする。それはものを考えるのに基本的に必要な態度で、この図書館内の散歩は思考のメタファーでもある。
それに、ものを考えるには、座ったままより歩いたほうが頭が活性化する。

円形の図書館は、本に囲まれた美しい空間を作るが、方角がわからなくなるという宿命的な欠陥がある。
半円という解決は巧みだと思う。
しかも閲覧席からの視線が向かう不在の半円側は、緑の芝生にし、樹木が並ぶ。ほんとうによく考えられている。

図書館にこんなのありかと思うような赤い床が、ちっとも目障りではない。
箱型のサインなど、案内表示のデザインもいい。
書架の案内に箱型の表示を使う

しかも大学内で図書館だけがデザイン的に突出しているのではない。
図書館に入るまでに、キャンパス全体が落ち着いて配置されているのを見てきた。塀がなく、外からゆるやかにつながる。外来者も紹介や予約なしに利用可能だし、学内の寮で多くの学生が生活しているに対応して学生は24時間利用できる。

公立大学法人国際教養大学は、2004年4月開学。
この新図書館は、2008年4月開館。
プロポーザルで設計者に選ばれたのは仙田満氏。
「人が集まる建築ではトイレの数と質がだいじ」と強調される建築家で、それが理由で僕は前から信頼している。
この図書館で第24回村野藤吾賞を受賞された。

この図書館も立ち去りがたいところだった。
蚶満寺とこの図書館とで、今日はもうたっぷり満ち足りた。
これでもう日が暮れてもいい。
一日を楽しく思い出しながら、一杯飲みたいような気分だ。

参考:
「新建築」2009.5
「大学図書館研究」no.88 2010.3


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■ 秋田市立新屋図書館(旧・国立新屋倉庫)
秋田市新屋大川町12-26  tel. 018-828-4215
http://www.city.akita.akita.jp/city/ed/al/default.htm

雄物川の河口近くの左岸に、1935年に建った米の倉庫が並んでいる。
最上川の河口にある酒田の山居倉庫と同様、米どころの重要な施設だった。
1990年に米の倉庫としての役を終え、解体されそうになった。ちょうどそのころ開学を予定されていた秋田公立美術工芸短大の一部に取り込まれ、生き残ることになった。

8棟あって、美大のアトリエや市関係の街おこし施設があり、南端の1棟が市立図書館の分館の1つの新屋図書館になっている。
(写真左にあと6棟の倉庫が並んでいる。)
米の倉庫を転用した図書館

図書館としては、倉庫南端の1棟のさらに南に現代建築の1棟を加えてある。
平屋だが、平面形としては国際教養大学図書館と同様、孤を描いている。
円弧が向かう先には新屋倉庫の南端の1棟の図書館棟がある。新しく加えた図書館は、自己主張的な形態ではなく、古い建築へのオマージュになっていて、穏やかで感じがいい。

新棟(本館)は通常の蔵書だが、旧棟(倉庫棟)には郷土資料や、秋田の酒に関する図書や資料の展示があり、地域色をいかしたいい図書館だった。

■ 秋田公立美術工芸短期大学図書館
秋田市新屋大川町12-3 tel. 018-888-8105
http://www.amcac.ac.jp/

広い広場に面して図書館がある
キャンパス内に市立図書館があるが、もちろん大学そのものの図書館もある。
こちらは円形・透明の現代的建築。

中に置かれている椅子は名作のコレクション。椅子は、用途としては人ひとりが座るだけのものだけれど、奥が深い。ほんものがこんなにたくさんあるのは、美大には何より。

円筒内の明るいガラス壁にそって、階段がゆるやかに上がっている。フェルトを貼ってあって、わずかに弾力があるふみごこちがいい。図書館に軽快な気分で上がっていけて、いいものだと思う。 ガラスの壁面に沿った階段

□ 河口ウォッチング− 雄物川

秋田美術工芸短期大学から、雄物川左岸の道を下って河口に出る。
風力発電の風車が1基回っている。
砂浜をたどって川岸に向かうが、景色は荒涼として、もうほとんど海辺に向かっている感じを受ける。

雄物川の河口 水辺に出ると、左手に日本海が広がる。
向こう側(雄物川右岸)では10基ほどの風車が回っている。
川の中央部では水が海に向かって流れているが、足下では波が砂浜に打ち寄せてきている。

かつての雄物川は土崎港で海に入っていた。
1938年に、今、目の前にある放水路ができた。こちらが雄物川になり、元の流れは旧雄物川または秋田運河とよばれる。
ふつうの感じでは、'旧'が自然な感じで、'新'が人工的になりそうだが、旧・雄物川は港の施設があって人工的で、新・雄物川のほうが自然な景色にみえる。これは旧・荒川(隅田川)と新・荒川も同じで、川ではこういうあり方が一般的といっていいようだ。

□ 秋田市体育館
秋田市八橋本町6-12-20 tel. 018-866-2600

新旧の雄物川を渡って、ようやく秋田市街に戻る。
秋田市体育館に寄り道する。
国道7号の東側に怪奇な建築が現れた。

街の中心部にあるこういう建築があることがすごい。

異様な姿をした秋田市体育館 インパクトはある。
今の街と調和しているとはいいがたい。
この建築の評価は、この存在、この衝撃がほかにどう影響するかにかかっているかもしれない。

中では高校バスケットボールの試合をやっていた。

■ 秋田市立土崎図書館
秋田市土崎港中央六丁目16-30  tel. 018-845-0572
http://www.city.akita.akita.jp/city/ed/tl/default.htm

旧雄物川に沿うように北上して、奥羽本線土崎駅前の土崎図書館に寄る。

土崎は1921年に日本で最初のプロレタリア思想の雑誌「種蒔く人」が発行された所で、図書館の前に雑誌の表紙のレリーフがある。
(『蟹工船』の小林多喜二も、すぐ北の大館の人。)
土崎図書館の前に雑誌「種蒔く人」のレリーフ

関連資料が見られるかと思ってカウンターで尋ねると、
「2階に『種蒔く人資料展示室』があるが、きょうは4時で閉めた」
とのこと。
明日の開館時間までホテルでじっと待ってる余裕もないので残念。

● ホテルルートイン秋田土崎
http://www.route-inn.co.jp/

宿にチェックインする。
7階の部屋の窓から見おろすと、秋田港と旧雄物川河口が眼下にある。
こういう景色を見るために、市街から離れたところまできた。


□ 河口ウォッチング− 旧・雄物川
□ 秋田市ポートタワーセリオン
http://www.selion-akita.com/

ホテルのすぐ前、港近くに展望のためのタワーがあり、夕景色を見に上がる。
旧雄物川の対岸では、夜になっても製紙工場から白い煙が上がっている。

旧・雄物川河口の夕景色 北のほうに向かっている川は、両岸ともコンクリートで、港の設備や物流の倉庫など、人工的なものばかり。さっき見てきた新・雄物川の河口とは対照的な眺めになっている。
北の方の水平線に光が並んでいるのは、男鹿半島南岸のあかりのようだ。

展望台へのエレベータは無料で、他には男女のペアや、親子連れなど、数組出会った。

● すごえもん
秋田市土崎港西1-10-45 tel. 018-845-6831

土崎の街まではやや離れているし、店の数もあまりなかったようだから、すぐそばのベイパラダイスという商業施設に入った。
かなりの広さがある和食の店で、秋田のお酒を飲みながら夕飯をとる。
その1時間弱ほどの間、客は僕ひとりだった。金曜の夜でも、とても静か。市街から離れているから、車でないと来にくいところだ。
ポツンポツンと観光施設を点在させるより、ウォーターフロント一帯を面的に整備するのがよかったのではないかと思う。
かなりの距離を移動して、たっぷり見てきたから、僕としては静かに食事できたのはいいことではあった。

(2011.7月 no.72)
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