東京都立中央図書館 −公園の中にある首都の中央図書館

■ 東京都立中央図書館
東京都港区南麻布5-7-13  tel. 03-3442-8451(代表)
http://www.library.metro.tokyo.jp/

東京都立の図書館は3館から2館に減った。

日比谷図書館:
 1908年(明治41年)、東京市立日比谷図書館として開館
 100年を超えて、2009年3月31日に休館し、千代田区に移管
中央図書館:1973年(昭和48年)に開館
多摩図書館:1987年(昭和62年)に開館

中央図書館がこれから重点をおこうとしているサービスは以下のとおり。
1.政策立案支援
2.新しいニーズへの対応
 −都市・東京情報 ビジネス・法律情報 健康・医療情報
3.学校支援サービス
4.区市町村立図書館支援

中央図書館は新装工事をして、2009年1月4日に新装開館したが、主な変更点は以下のとおり。
1.1階で資料の相談、受け渡しができるワンストップサービス
2.都市・東京情報、ビジネス情報など重点情報を1階に集中
3.開架区域を増やす 25万冊→35万冊(全蔵書は166万冊)
4.新たに企画展示室とセミナールームを設置

       ◇       ◇

新装から半年ほどたった夏に都立中央図書館に行った。新装前を含めて初めてなので、前後の比較はできない。
日比谷線広尾駅から有栖川宮記念公園に入る。意外に起伏のある公園で、図書館は坂の階段を上がって高いほうの位置にあった。

入館すると番号のついたカードを渡される。
リクエストした本やコピーが用意できると、持っているカードの番号が電光掲示板にでる。
国会図書館方式で、都立多摩も同じやり方をしている。

1階にある「都市・東京情報」が気に入った。
荒川とその下流の隅田川あたりをときどき散歩するので、こういう視点で本を集めておいてもらうのはいい。
「江戸明治東京重ね地図」がパソコン上にあるのも便利だった。紙の本も出版されているが、パソコンだと時代を簡単に切り替えられ、同一地点の変遷がなめらかに比較できるのがおもしろかった。
(できればその散歩のついでに寄れる所に図書館があるといいのだが、僕にとっては不便な地にある。)

3階には「美術情報コーナー」がある。
東京都美術館、東京都現代美術館の図書室も充実していて、ときたま利用するが、ここも豊富で、低い開架書棚にある大型の美術書だけでも1万冊あるという。

資料の質・量はかなりのものだが、首都東京の中央図書館がこんなもんでいいのかと、ちょっと寂しい気もする。
建物はただのビルディングで、重厚な歴史性を帯びるのでもなく、新しい創造性もない。中で本を読んでいて、集中する感じ、高みに高揚する感じ、深みに沈潜する感じなどを誘う精神性がない。
新装時に書架の側面を多摩産のひのきの板にしたが、明るく、ツルっとしていて、これも表面的な印象を強めているようだ。

       ◇       ◇

この図書館には、僕が尊敬する加藤周一が1988年から1996年まで館長でいた。
加藤周一は、晩年、朝日新聞に『夕陽妄語』を連載していた。読むたびに論理の展開にほれぼれしながら、もう高齢なので、いつかその思考、言葉、文体が失われることを怖れていたが、2008年12月5日に亡くなった。(論理の展開にひかれることにホレボレという感情的な言葉をつかうのもどうかと思うけれど... )

その連載の2005年10月24日の回は、『廃墟から』と題して、建築評論家・宮内嘉久が記した建築家・前川國男の評伝についてだった。
「私はここで東京文化会館から京都会館へ、さらに埼玉会館へと発展した前川の道程を、宮内氏の案内で辿ろうとは思わない。」
そうではなくて、15年戦争の焼け跡の廃墟を出発点とした戦後の前川の生き方を、焼け跡が端的に象徴する「人生のはかなさ、人間の仕事の空しさ」への抵抗だととらえる。
宮内によれば、前川が「美しい言葉」としてよく覚えていたのは、フランス18世紀のモラリスト、セナンクールの渡辺一夫訳の文だったという。
「人間は所詮滅びるかもしれず、残されたものは虚無だけかもしれない。しかし抵抗しながら滅びようではないか。そして、そうなるのは正しくないと言うことにしよう」
こんな言葉を胸に刻んで設計にあたっていた建築家がいたということに感銘を受ける。
また、前川設計の建築のかなりの数を見、その建築のなかで働いていたことさえあって、前川國男は僕にとっては親しい建築家だが、前川がそのような建築家であったことにも。
加藤周一は、宮内が書いた前川の評伝のただ1つの結論は、前川がその抵抗のあかしとして「建築における精神性」を信じていたことだと要約する。

□ さいたま文学館 映画『母のない子と子のない母と』
埼玉県桶川市若宮1-5-9 tel. 048-789-1515
http://www.saitama-bungakukan.org/index.html

都立中央図書館に行く前に、午前中、さいたま文学館に行って映画を見た。
壷井栄原作の『母のない子と子のない母と』で、DVDになっていないし、あまり上映されることがないので、いい機会だった。
壷井栄には、埼玉県立熊谷図書館の近くに妹の家があり、しばしば訪れていたことを最近知った。
物語は、熊谷で空襲にあった母と子が、父の故郷の小豆島に移って暮らす様子を描いている。舞台は小豆島だが、しばしば熊谷のことが語られる。
映画は1952年制作で、ほぼ原作にそって作られていた。
戦後まもない頃の質素だが素直な空気が漂っている。
若い宇野重吉が父親役ででていた。

□ 高輪画廊『三岸好太郎展』
東京都中央区銀座8-10-6 MEビル1F tel.03-3571-3331
http://takanawagallery.com/gallery/home/index.htm

都立中央図書館をでたあとは、六本木まで歩いて、新橋行きのバスに乗り、新橋駅から近い高輪画廊に寄った。
三岸節子のアトリエの収納棚から好太郎の最晩年の油彩画が発見され、画廊で展示されているという報道があったので、どんなものか見てみたかった。

縦33センチ、横24センチの板に描かれた小品。砂浜を貝殻が覆う幻想的な作品で、絶筆とされる「貝殻」(34年)と構図も大きさもほぼ同じ。
他にも小さめの作品が展示されていて、やさしい色で描かれた幻想的な世界がとてもいい。でも僕が欲しいと思うような作品はどれも赤い丸いシールが貼られて先約ありで惜しかった。(というのは負け惜しみで、シールがなくてもちょっと届きにくい額だった。)

(2009.7月 no.3)

参考:

  • 『廃墟から』 宮内嘉久 晶文社 1976
    『建築ジャーナリズム無頼』 宮内嘉久 晶文社 1994
    『前川國男 賊軍の将』 宮内嘉久 晶文社 2005