静嘉堂文庫−岩崎弥太郎の遺産


今年(2010年)の大河ドラマ『龍馬伝』はおもしろい。福山雅治の坂本龍馬がほれぼれするほどいいが、物語の半分は三菱の創業者、岩崎弥太郎みたいなもので、香川照之が演じる、はちゃめちゃで強烈な個性もすごい。
春の彼岸の墓参りのあと、弥太郎の弟、三菱2代目の岩崎弥之助が創設した静嘉堂文庫に行った。
家族3人なのでお寺の近くからタクシーに乗って直行したが、ふつうには二子玉川駅からバスに乗り、やや歩くことになる。あまり行きやすいところではないし、庭の散策にもまだ寒い時期なのだが、かなりの入りだった。大河ドラマ効果が及んでいるだろうか。

■ 静嘉堂文庫美術館「茶道具名品展 国宝・曜変天目と付藻茄子」
東京都世田谷区岡本2-23-1 tel. 03-3700-0007
http://www.seikado.or.jp/index.html

国宝の「曜変天目」を見るのは10年ぶり。
闇のような地肌から浮かぶ釉薬が変化した粒々を眺めていると、宇宙的視点から星座を見渡しているようでもあり、飛行機から島を見下ろしているようでもあり、猫の足裏の肉球パターンのようでもある。さまざまに思いを誘って深い。

展覧会のタイトルにある「付藻茄子」は、茄子のようなふくらみを帯びた茶入。手のひらに軽く乗るほどの小さな容器が、見るものの集中力をすっと吸収してひきこむ存在感をもっている。

松花堂昭乗が小堀遠州にあてた手紙もよかった。するすると記された墨跡を目でたどるだけで快感!

「静嘉堂」は、三菱創設者である岩崎弥太郎の弟、岩崎弥之助(1851-1908 三菱第2代社長)が1892年頃、自邸内に創設した文庫で、国宝7点、重要文化財83点、20万冊の古典籍、6,500点の東洋古美術品を有する。三菱の財は岩崎弥太郎を源にするから、この高雅なコレクションも、あのはちゃめちゃな岩崎弥太郎を発祥とするといってもいいだろう。
美術品は1992年に建った静嘉堂文庫美術館で公開されている。
隣に1924年、桜井小太郎の設計で建設された本体の静嘉堂文庫がある。

スクラッチタイルの茶色みを帯びた壁が、空に向かって立ち上がっている。そこからゆるやかに広がる屋根は銅板葺きで淡く緑色で、壁との色の対比がやわらかで美しい。

戦後の財政難のため、1947年に同じ三菱系の私立図書館である東洋文庫(創設者は岩崎弥太郎の子で三菱第3代社長の岩崎久弥)とともに、国立国会図書館の支部図書館となった。図書と施設は財団の所有に残したまま、図書館の運営を国会図書館に委託する契約だった。
1970年には三菱グループの援助を受けて国立国会図書館との契約を終了し、三菱グループ経営の私立図書館となった。

この図書館は文書を特定して予約する必要があり、ただ中を眺めるわけにはいかない。いつか入ってみる機会があるといいと思う。

● 玉川高島屋S・C南館 カフェ ジュヴォー プロヴァンス
http://www.tamagawa-sc.com/home.html

バスで二子玉川駅に行き、玉川高島屋S・C南館で昼食にした。
玉川高島屋は壁にがっちり囲まれていなくて、スカスカと明るい。ほとんどのレストランに外を眺められる席があるので、どうしてもこの店でこれを食べる!と限定しなければ、窓際の席に座れる確率が高い。

で、窓際どころか、9階の外ににはりだしたテラス席があるレストランに入った。
佐賀産みつせ鶏のハーブ焼き、1,680円。さっくりとした歯ごたえの鶏がおいしい。
多摩川の眺め、河川敷、橋の向こうは川崎市。
グラスワイン1杯だけで、ゆらゆらととても満ちた気分になれた。

□ 東京大学総合研究博物館「命の認識」展
東京都文京区本郷7-3-1 東京大学本郷キャンパス内
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/index.html

ついでに寄るには距離があるが、気になる展示を見にいった。
大きな台に大量のほ乳類の骨が並んでいる。中央に大きなクジラが置かれ、あとは多種多数の骨が、分類もされず、説明もつけられず、ただ1方向を向いて並んでいる。
フランスの国立自然史博物館には、大空間に大型ほ乳類の剥製が1方向に並ぶ「進化の大ギャラリー」といわれる展示があって圧巻だが、こちらは小型の骨の大行進。
かつては命があったものだが、骨だけになると死体のなまなましさはない。生命体を支える構造の造形的美しさがある。
図書館には、いわば名づけられたものが収蔵されるが、ここには名づけられない原物が並んでいる。

部屋の隅に白い箱が置かれている。説明なしに置いてあるから気づかない人もあるが、開いてみると鳥類の死体が数羽、ビニール袋にくるまれてあった。
僕が前にいた自然史博物館でも、車にはねられた小動物や、窓ガラスにぶつかって死んだ鳥など、とりあえず引き取って冷凍庫に入れておくことをしていたから、こういうのはおなじみではあるが、博物館の展示室にこういうものまで説明なしに置いておくのは珍しい。
原点を示す、モノの力を示す、ここから何を始めるか、何を読み取るか、どう名づけられたものしていくかが始まる、そういうことを思わせる展示だった。東京大学のコレクションは並外れているが、それで圧倒するだけでなく、博物館とか展示とかの理念を問う企画もしばしばあって、考えさせられる。

(2010.3月 no.28)
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