武蔵野美術大学 美術館・図書館−書架の森


■ 武蔵野美術大学 美術館・図書館−書架の森
東京都小平市小川町1-736
http://mauml.musabi.ac.jp/

「新しい時代の図書館研究会」の第5回研究交流会が、武蔵野美術大学で開催され、参加した。
これまでの開催地は、第1回が、この回を主宰されている神戸芸術工科大学。
その後、多摩美術大学図書館、せんだいメディアテーク、奈良県立図書情報館とあって、今回が5回目。
先日、この設計者の藤本荘介さんとお話しして、ぜひ見に行きたいと思っていたところなので、絶好の機会が得られた。
→[藤本荘介展 トーク・セッション 東浩紀+藤本壮介

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らせん形に書架を置いていることは予備知識として知っていたが、行ってみて、らせんが外にまではみだしているのには驚いた。
書架をガラスで覆った「壁」というのか、「塀」というのかが、渦巻き星雲のように外部にとびだしている。
知が無限に広がることの象徴ということだろうか。

中に入ると大きな階段がある。その両側も書架で、高くそびえている。

2階が主な閲覧室で、ここにらせんの書架がある。
でも、らせんの書架となると、まず「探す本に簡単に行き着けるのか」ということが懸念される。

そこで書架には開口部が作られてあり、2階に上がったばかりの出発点になるところに、図書分類の0から9までの数字が書かれ、方向と長さ(距離)が示されている。開口部を抜けて、ほぼ直線的に目的の書架に行き着けるようになっている。

この図があれば、目的の本のおよその位置が、直感的にわかりそうだ。書架が直線的に並行しているのよりわかりやすいのではと思うが、このへんは人による方向感覚のとらえ方とか、慣れとか、個人差があるかもしれない。
サイン計画が重視され、床の第1段階の方向指示のほか、壁(の書架)には大きな分類数字が白いさまざなデザインで示されている。さらに近づくと書架から横にはりだす旗に「哲学」とか「文学」とか表示されている。

何カ所かにあるブックタッチがおもしろいものだった。
書架の脇にあるパネル型の装置に、蔵書の1冊を触れさせると、「関連図書」、「同じ著者の他の著書」、「同じテーマのおすすめ図書」が表示される。

購入履歴からおすすめの本が表示されるamazonと同様なシステムを、図書館の中で実現している。表示されるのは図書館で所蔵している本だから、興味があればすぐ手にとることができる。
紀伊国屋のbook webの協力によりできたシステムとのこと。

高い天井からは、ポリカーボネートのトップライトから淡い光が降りてくる。
人工照明も何通りかのデザインの光源が使われていて、それぞれにいい。
開口部があって視線が透るので、圧迫感がない。
書棚は天井まで届いて壁面全体をおおうが、棚板は薄い木製だし、上部には本がないので、手作りの途中の段階にいるような、開放的な印象がある。
階段から上の階を見上げたり、端末が並ぶ空中回廊のような通路を歩いたりしていると、とても気分がいい。

設計者の藤本荘介さんのコンセプトは「書物の森」ということだが、僕はひとことでいえば「書架の森」だと思った。

館内には各所に椅子のコレクションが置かれている。

研究会は、説明、見学、質疑という順に進行した。
参加者は、建築家、美術館や図書館の人、インテリアデザイナーなど多彩で、とうぜんに質問も多様でおもしろかった。

説明では、武蔵野美術大学ならではの図書館、「どこにもない図書館をつくる」ことが主要課題だったと言われた。
意匠もシステムもよくできた図書館ではあるが、「どこにもない」となると、僕はやや肯定しがたいと思った。

大きな特徴の「らせん」ということでいえば、たしかに平面図ではきっちりとらせん形が見えるが、実際には大きな開口部がいくつもあり、通り抜けてしまえる。意識しないと体感的にはらせんを感じにくい。

高い壁面を書架で満たす意匠も大きな特徴だが、この点では安藤忠雄に先行例がある。司馬遼太郎記念館や安藤自身の設計事務所には高い壁面書架があるし、階段と書架の組み合わせという眺めは、ぐんま昆虫の森やTOTOシーウィンド淡路で見覚えがある。

完成した図書館の隣では、旧美術資料館を美術館に改築する工事が進んでいる。
新しい図書館の完成を機会に、もと「武蔵野美術大学美術資料図書館」から「武蔵野美術大学 美術館・図書館」に改称した。
美術館開館後に、複合して本来的・本格的な活動が始まっていくのだろうと思う。

あれこれの感動を受け、あれこれの課題もありそうに思ったが、最大の感銘は、美大では制作が最重点で、図書館は脇役的存在かと予想していたのだが、キャンパスの正面・中心に大きな面積を占め、大学の中心的役割を担っているらしいことだった。

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図書館には小展示室があり、「コドモアサヒの時代展」を開催中だった。
『コドモアサヒ』は1923年から1942年まで刊行された子ども向けの月刊誌。
関東大震災の3か月後に、大阪で創刊された。
43冊が展示されていたが、貴重な本で手にとっては見られない。
でも「タッチパネル式画像閲覧システム」により、全ページを見られるようにしてあった。
大スクリーンに触れてめくっていけるし、巻ごと、作家ごとに検索もできる。
[サトウハチラウ文−武井武雄画]などはありそうとして、[小川未明文−寺内萬次郎画]なんていう意外な組み合わせもあった。
のどかに始まるが、しだいに軍事色が強まっていく。こんな小さな子ども向けの本にまでとおそろしく、いたましく思う。

(2010.12月 no.53)
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参考:

  • 『別冊KALEO DOCUMENT MAU M&L/L 武蔵野美術大学 美術館・図書館 図書館落成記念』本庄美千代ほか/編 武蔵野美術大学 美術館・図書館/発行 2010
  • 『藤本荘介 武蔵野美術大学 美術館・図書館』藤本荘介/著 阿野太一・石川直樹・笹岡啓子/写真 INAX出版/発行 2010
  • 『コドモアサヒの時代』森克之/編 武蔵野美術大学 美術館・図書館/発行 2010