熊谷市立妻沼図書館


□ 妻沼聖天山歓喜院
http://www.ksky.ne.jp/~shouden/

妻沼聖天の8年間13億円の時間と経費をかけた修復が完成し、6月から一般公開が始まった。
7月の暑い日に見に行った。観光ボランティアのサービスがあって、何人かずつまとまったところで解説しながら案内してくれる。
修復前は、風雨にさらされてくすんだ印象だったが、カシっときらびやかで鮮やかに一変していた。

本殿の周囲の壁面を飾る彫刻が豪華。大きな画面を1枚の板材から彫り上げている。畳1枚ほどもありそうな大きな板を何枚も用意する贅沢と、複雑で立体的な彫刻と彩色の技術に圧倒される。
北面に盤双六をしている場面がある。盤双六は、2人で対戦するゲームで、白と黒、それぞれ15個の駒を持ち、2個のサイコロを振って駒を進める。とったりとられたりという戦いも絡む。サイコロの目の運だけでなく、2個のサイの目の確率をみこんで戦術を組み立てる数学的で知的なゲーム。
西洋では同じルーツのゲームをバックギャモンといい、僕は一時熱中した時期がある。碁や将棋のようにジワ〜〜〜と考え込まずに、早くするのがエチケットというスピード感が気に入った。全国大会に行って1日に何人もの相手と何戦もしてきて、夜になって寝床で目をつむってもゲーム盤が見え、サイの目が2−4だの、5−6だのと自動的に頭に現れてまいったことがある。
世界大会もあり、室内のゲームや、屋外のスポーツも含めて、当時、時間あたり賞金額は最高だときいたことがある。
ギリシャに行ったとき、ひなびた通りに、日本でいう碁会所のようなところがあり、男達が集まって対戦しているのを見かけた。それほどなじまれていて、僕は質素なボードをみやげに買ってきた。

2006年に熊谷の八木橋デパートで修復の途中経過を紹介する展示があった。
彫刻の復元のための下書きの中で、盤双六の場面で駒がありえない配置に描かれていた。白が17個もあり、5個だけある黒は1カ所に固まっている。熊谷市の文化財課にいる今井宏さんにまずいのではないかと知らせた。

修復工事が大詰めに近づいた2010年の春、埼玉新聞に修復の様子が連載された。
その連載を担当した米山記者から、修復を指揮する人と飲みにいくから一緒に行こうと誘われ、「石だるま」という店で飲んだ。
修復にあたっているのは、公益財団法人文化財建造物保存技術協会というところで、妻沼聖天の修復にあたっては「重要文化財 歓喜院 聖天堂 設計監理事務所」というのが設置されている。所長の内海勝博さんは、肩書きに並ぶ漢字の文字数が多いものだから、名刺にもこんなふうに半角のスペースを入れてあった。

内海さんが「大詰めにきたけど、盤双六の絵が残っている。下書きの絵を見て駒の並びがおかしいと意見を言われた人もある。どう置いたらいいか、決め手がない」と言う。
「その意見を行ったのは僕です」
「ええっ!」
人生がある程度長くなると、ええっ!という偶然に、そう珍しくなく出会うことがわかってきた。かつては小説や映画にそういう偶然があると、出来過ぎたつくり話だと冷めた感じにさえなったものだが、実際にこんなことがよくある。何がどうつながっていくかわかないから、1つ1つの出会いを大切にしなくてはと思う。

どう駒を並べるか相談されて、すると気楽に「まずいのではないか」といってたのと事情がかわってくる。
僕はバックギャモンのルールを前提にしているが、日本では別のルールで遊んでいたかもしれない。
埼玉県立熊谷図書館のレファレンスで調べてもらった。バックギャモンと同じルールと考えていいようだった。将棋に対するはさみ将棋のような簡易版がいくつかあるようだが、基本のルールは同じ。
大量に用意された参考文献の中から、必須と思えるものを選んで、(それでも両腕にひとかかえほど)、妻沼聖天の本殿の脇に構えるプレハブの作業所にお持ちした。
内海さんの仕事は、ベースの建物から小さな装飾に到るまで、すべての修復をどうのようにするか指揮することだから、文献調査も欠かせない。いつも自分でされているのだろうが、図書館にひとこえかければこんなに資料が揃ってしまうのかと驚かれた。

本殿の彫刻には碁の場面もある。そちらは江戸時代の棋譜が残っている中から、熊谷出身の熊谷本碩が1手勝っているところを写している。
盤双六では棋譜のようなものは残っていないし、もう時間も迫っているので、勝負開始前の最初の配置を描くことにした。
プレハブの事務所の1階では作業中。台に固定し、照明をあて、彩色の作業が進んでいる。盤双六の盤面には、そのときはまだ駒がなかった。

完成した彫刻を見上げると、作業場で目の前にしたときよりいくらか小さく、迫力が減じてみえてしまうのが惜しいが、みごとにしあがっていた。
図書館のレファレンスが文化財の修復に役に立ってよかった。

妻沼聖天の彫刻の、ばんすごろくの場面

妻沼聖天には北斗七星の天井画があり、前に天文民俗学の研究者、茨木孝雄さんと見に来たことがある。そのときは、騎崎屋(きざきや)で雪くまを食べた。
今日は1軒おいた丸岡堂で、雪くま「氷あずき」にした。真っ白な氷にあんこがのっている。250円というのは雪くまのなかで最安値だと思うが、シンプルでうまい。
雪くまに詳しい人が、妻沼聖天の近くなら、あと「茶の西田園」の抹茶とほうじ茶のもおいしいという。また行かなくては。

■ 熊谷市立妻沼図書館
熊谷市妻沼東1-1 tel. 048-588-6878
http://www.kumagayalib.jp/
もと大里郡の妻沼町立図書館。2004年の合併で熊谷市立図書館の1館となった。
町の北側を利根川が流れていて、その先は群馬県太田市になる。
妻沼は妻沼聖天を擁して独特の文化があるところで、郷土資料が充実していて、聖天関係の資料もそろっている。

(2011.7月 no.76)
ページ先頭へ

参考:

  • 『よみがえる極彩世界 復元なった妻沼聖天堂』 米山士郎 埼玉新聞社 2010