金沢海みらい図書館と西田幾多郎記念哲学館


東海道新幹線の米原経由で敦賀に行き、福井~金沢と北上し、ほくほく線・上越新幹線経由で帰る旅をした。
いちばんの目的は、『街道をゆく』の「越前の旅」をたどることと、友人が出品している金沢21世紀美術館の展覧会を見ることだったが、金沢市と、その北のかほく市に、忘れがたいライブラリーとミュージアムがあった。

1.金沢海みらい図書館
2.西田幾多郎記念哲学館

1.金沢海みらい図書館
金沢市寺中町イ1番地1  tel. 076-266-2011
http://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp/umimirai/

金沢市内に昨年(2011年)新しく開館した図書館。
カーナビで電話番号で検索しても該当がない。近くまで着いたところで道を聞こうかとユルユル走っていると、穴のあいた大きな四角い物体が見えて、あれだ!と向かった。

これより大きな建物はいくらもあるが、この図書館は1個の箱のようなので、大きい!と感じる。
壁の継ぎ目線では4層ありそう。
金沢海みらい図書館・外観

入ってみると、1階+2·3階の吹き抜けだった。
1階はふつうに1階。
2階に上がると1部3階がある吹き抜けになっている。
3階に立って眺めると、さえぎるものがないみごとな大空間で、気持ちが晴れ晴れ広々してくる。
45m×45mの空間を、5×5=25本の柱が支えている。
柱は細いし、白い壁の中にあって白く塗ってあるから目立たなくて、ただただ広さ高さを感じられる。

金沢海みらい図書館・内部 金沢海みらい図書館・内部

全部で6000個ほどという丸穴から入ってくる光の具合が柔らかくてとてもいい。
壁の下方は不透明ガラスで、人の背丈より上あたりからは透明ガラスにしてある。

設計者は、アンリ・ラブルーストのフランス国立図書館の魅力が念頭にあってこの図書館を構想したという。
「この大きな空気のボリュームと質感こそ、多くの人が同時に読書する本と人のための空間には必要なものだろう」(堀場弘 『新建築』2011.7)
単純に真似るということではないが、ある憧れを持って作ってこそいいものができるというお手本のように思う。(裏返していえば、そういう憧れや理想や持たずに金太郎飴のように作られた、類型的で怠惰な図書館が他にたくさんある。)

丸い窓は開閉しないから、密閉状態で大きな室内に快適な環境を維持するための空調の経費が気になる。図書館の職員におききすると、市内のほかの図書館より低くすんでいるという。
外壁を一見すると薄い1枚板のように感じられるが、断熱材を入れてあるようだ。丸窓は間に空気層を挟んだいわばペアガラスだし、全面ガラス壁にした建物に比べたら断熱効果は高いかもしれない。
詳細はわからないが、密閉大空間を経済的で快適に維持するために智恵を注いでいることがうかがえ、たいした技術だと思う。

金沢海みらい図書館・透明な書架 金沢海みらい図書館・閲覧席

図書館のパンフレットやwebページは、丸い穴のあいた箱という図書館の特徴を生かして、すてきにデザインされている。
金沢には、すでに玉川図書館のようないい図書館があり、金沢21世紀美術館や、もちろん古くからの都市的蓄積も多様にある。この図書館がいっそう都市の魅力を高めている。市民にとって誇らしいことだろうと思う。

→[金沢市立玉川図書館}

2.西田幾多郎記念哲学館
石川県かほく市内日角井1番地 tel. 076-283-6600
http://www.nishidatetsugakukan.org/

国道159号を北に向かって走っていると、左手、海岸方向の丘に、ガラスを多用して淡い緑色をした大きな建築が見えている。「哲学館」という名称から何となしこぢんまりした施設と思っていたのだが、着いてみると、さっき遠くから認められた大建築が、目当ての哲学館だった。高台にあるから目立つという面もあるが、建築そのものも大きい。

西田幾多郎記念哲学館・展望室からの眺め 西田幾多郎記念哲学館・廊下

館内を見ていくと、あらためて展示物その他の必要以上に空間が広く用意されていると感じる。したがって使われるコンクリート量も多い。
淡路島の夢舞台などでも感じたことだが、安藤忠雄が設計する建築のコンクリートの使用量に「そこまでやるか」と感じ入る。
1個の哲学者の頭脳がこれだけの大建築を生み出したとすれば、それもすごいことだと思う。

高台から周囲の風景を眺められるようにしたスケール感、その一方で地下に降りていく階段や、その地下への光の降らせ方、コンクリートとガラスが作る空間に外からの光が射してつくる陰影の印象深さ美しさなど、安藤建築の美点がみごとに揃っている。安藤忠雄としても思う存分にその特質を発揮して満足できる建築になったのではないか。

西田幾多郎記念哲学館・地下 西田幾多郎記念哲学館・地下の階段

そもそも安藤忠雄の建築は、商業施設などより、哲学に相性がいいように思う。(安藤忠雄の商業建築では気持ちがはずまなくて、買い物なんか楽しむ気分ではなくなることがある。)
数日間移動し続けてきたので、じっくり哲学の展示に見入る気がしなかったが、書がとてもよかった。独学という。柔らかく、自在な線の動きに魅惑された。

書というものも何らの対象を模するというのではなく、全く自己の心持を表現するものとして、音楽や建築と同じく全くリズムの美をあらわすものということができるであろう。その静的な形のリズムという点においては建築に似ているが、建築の如く実用に捉われたものでなく、全く自由なる生命のリズムの発現である。そういう点においては音楽に似ている。つまり建築と音楽との中間に位するとでも考うべきであろうか。(『書の美』西田哲学選集第6巻 燈影舎 1998)

書の展示室の先に「空の庭」がある。コンクリートの高い壁に囲まれた小さい庭で、天井はなくて、青空がある。金沢21世紀美術館にあるジェームズ・タレルのブルー・プラネット・スカイみたい。
日が射す角の写真を撮って、あとで見直したら、駒井哲郎の「束の間の幻影」のようにも思えてきた。
西田幾多郎記念哲学館・空の庭

小さなライブラリーもあって、哲学関係書を置いてある。
全集を収めた棚の表示がユニークだった。背表紙が並んでいなくて、白い箱のふた状のものに全集名を記して、本の並びにいわばふたをしている。
書架と閲覧用机があり、窓からの眺めも悪くないが、ここはさらっと力を抜いてデザインされたようだ。

西田幾多郎記念哲学館・ライブラリーの書架


(2012.4月 no.96)
ページ先頭へ

参考: