大阪東部の大図書館と南部の小図書館


1.大阪府立中央図書館+国際児童文学館
2.熊取町立熊取図書館

奈良で2日にわたって開催された全国図書館大会のあと、3日目は大阪、4日目は和歌山を回った。

全国図書館大会の2日目が終わって、大阪の東部、大東市に住む友人が迎えにきてくれた。車で西に向かって生駒山を越える。
以後、大量の蔵書を収めるために書庫を建てるほどの友人と、図書館を回り、関西国際空港まで送ってもらう。
気楽で愉快な車旅になった。


○ 茶屋宿 伊勢屋
大阪府四條畷市南野2-18-3 tel. 072-876-0960

2日目の宿は、四条畷神社に上がる参道の階段が始まる角にある。
友人と食事をしてから車で送ってもらって宿に向かうと、階段で猫が両手を揃えて迎えてくれた。
茶屋宿、伊勢屋

河内にあるのに「伊勢屋」なのは、もとは伊勢参りに行く人の宿だったから。
簡素だが、心づかいが行き届いたとても居心地のいい宿で、よく眠れた。

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大阪−全国図書館大会参加後の第3日
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□ 四条畷神社
朝、宿のすぐ裏に控えている神社にお詣りした。
楠木正成の子で、四條畷の戦いで敗死した楠木正行を主祭神とする。生駒山系北部の中腹にあり、大阪市街の見晴らしがいい。かつては大阪湾や小豆島も見えたという。

□ 野崎観音
友人に迎えに来てもらい、友人宅から近い野崎神社に行った。
江戸の頃から参詣の人でにぎわった名高いところで、関東に住む僕にも「野崎小唄」の歌詞にうっすらと覚えがある。今は住宅密集地になっているが、かつては堤防の上の道と、川とが並行していた。歩く人と、船で行く人が口げんかをして、勝ったほうが運が強いとされ、「野崎詣り」という落語にもなっている。

友人の話では、そんな観音さまを祀る寺が、隠れキリシタンが寄進して建てられたものという説を、すぐ近くの野崎キリスト教会の牧師が唱えて、本もだしているという。
あとで大東市史などを見ると、城主がすぐ裏の飯森山で洗礼を受けていたり、長崎で殉教して24聖人と呼ばれることとなったひとりはこの地の出身だったり、濃厚なキリシタンの地だった。
生駒山は谷ごとに宗教があるといわれるほど、宗教色の濃いところだが、北にきても宗教的に深い。

『大東市史』 大東市教育委員会 1973
『野崎観音の謎 隠れキリシタンの寺か!?』 神田宏大 文芸社 2008


■ 大阪府立中央図書館+国際児童文学館
東大阪市荒本北1-2-1 tel. 06-6745-0170
http://www.library.pref.osaka.jp/central/index3.htm
(野崎観音の南西5.6km=直線距離)

地下の書庫はあまりに広いので、本の出し入れのために司書が自転車で走っているという。
ふつうは屋内を自転車で走ることはありえないのに、幼少時に渋沢龍彦は広い家の2階で走っていたというのでビックリしたことがある。この図書館のことは、それ以来の驚きで、ぜひ見てみたいと思った。
この図書館では見学申し込みの手続きをきちんと定めてあるので、まず電話で申し込んだ。すると、国際児童文学館の開館記念のイベントがあるので、今日は対応できないとのことだった。僕のほうでも日の変更は難しい。すまながっていただいたが、本当に残念だった。

大阪の府立図書館は、ここと大阪府立中之島図書館の2館ある。
こちらはもと「大阪府立夕陽丘図書館」が1996年に、大阪市内から東大阪市に移転して、「大阪府立中央図書館」となった。
もとあったところを地図で見ると、通天閣とか天王寺動物園が近い。小さな建物が密集する、猥雑といっていいほどの地域にあった。
今の図書館は、生駒山を越えて奈良に向かう軸線上を東に、奈良方向に移動した。自動車道が交差する東大阪ジャンクションの近くにあり、周囲は物流倉庫や市役所や高層団地で、前の図書館とは対照的な立地になる。

広い地下駐車場に車を置いて、エレベータで1階に上がる。
内部は豪華な材料を使って広くゆったりと配置され(ちょっとバブルっぽい)、一部に屋上庭園まで作ってある。
大阪府立中央図書館のロビー。天井が高く、豪華

僕は、図書館の内部はキラキラしたのより、渋め、抑えめのが好みで、ここはほぼそんな感じで落ち着いていいのだが、かすかにユーウツな印象がある。本を読んでいても、思いがとんでいきにくいような。

野崎観音=隠れキリシタン説がおもしろそうなので、その説を書いた牧師さんの著書『野崎観音の謎』を検索したら、中之島だけで所蔵していた。郷土資料は中之島に集中しているとのことで、これも残念だった。

     ◇     ◇

今年(2010年)5月5日に移転してきた国際児童文学館に寄る。
ここで所蔵する『コドモノクニ』から選んで名作選として復刻されたという報道があったので、ここならあるはずと楽しみにしてきた。
上下2巻。当時のシュンの画家や詩人が、オールスター戦のように並んでいる。今見ても新鮮なセンスに、きれいな色。懐かしい風俗。こうしたものが、今いったいどうしてなくなってしまったのだろう?

井上房一郎と出会った軽井沢の別荘を、先日ようやく発見できた山本鼎も、1つ収録されていた。

野菜の歌 山本鼎/絵と文

玉ねぎ ・僕は牛肉と仲よし
馬鈴薯 ・わしも牛肉と仲よし
くわい ・あたいは鳥肉
にんじん・わたしも鳥肉
さつま芋・ところが俺にゃ
     相手がねえ
なつぱ ・ほんとに何も
 ないわねえ
 でも偉いわよ
 独立独歩で
 すてきだわ


   (1937年4月号に掲載)

おかしな文だが、独立独歩への思いがジワっと伝わってくる。

『コドモノクニ名作選−大正・昭和のトップアーティスト100人が贈るワンダーランド!』 アシェット婦人画報社 2010
→[避暑地の出会い]

□ 小阪城  東大阪市下小阪1-12-29
(大阪府立中央図書館の南西2.6km=直線距離)

高知に行って自作巨大マンションを見たからには、河内ではお城を見なくては。(→[土佐に坂本龍馬と司馬遼太郎の足跡をたどる])
数年前に河内小阪駅から歩いて司馬遼太郎記念館に行ったことがある。そのときは気づかずに通り過ぎてしまったのだが、小阪の商店街には手作り城郭がある。
細い、にぎやかな商店街の向こうに。小さな天守閣をのせた店が見えた。
店主の磯野健一さんは、のどかな時代劇にでてくるお殿様のような、すてきな笑顔の方で、快く内部を見せていただいた。

ふすまには、めでたい鶴や松の絵がかいていある。
ふすまの1つを開けると、遠近法を極端にきかせて大広間が描かれている。歌舞伎の舞台のようだ。
庭も自作で、実面積としては狭いけれど、立体的に、迫力を感じさせる。
「憩渓亭」という庭園の名を記した銘板は、よく見れば段ボールにかいてある。

ふすまの絵も、透かし彫りの欄間も、奥の庭も、すべて手作り。
身近な、安価な材料を使っていて、30年かけて築いた城の制作費は5万円くらいとのこと。
小阪城の座敷

理容店の店のほうもさまざまに意匠をこらしていて楽しい。
刈られる椅子に腰掛けると、うしろの壁に描かれた庭が鏡に写って見え、客は庭を眺めてリラックスすることになる。
自分の世界を表現し、積み上げていく人生の幸福を思った。

かつて店の前を司馬遼太郎が散歩に通ったという。毎日、正確に同じ時簡に通るので、司馬先生を見かければ時間がわかった。
その散歩のときに寄ったろうか、愛用の店の1つのとんかつ屋に昼食に行った。

● とん文
河内小阪駅の北側に行き、商店街の中ほどにある店に入った。
おすすめ、定番の、ひれかつ定食をとる。860円。
柔らかな肉、さくさくと軽いコロモ、深みのあるタレ。さりげないが満ち足りる。

□ 近つ飛鳥博物館
大阪府南河内郡河南町大字東山299 tel. 0721-93-8321
(小阪城の南南東18.6km=直線距離)
http://www.chikatsu-asuka.jp/

丘陵地帯にコンクリートの大階段が表れる。建築自体が風景を作っている。
展示に仁徳陵古墳の模型があった。大きな前方後円墳の周囲に、比較してとても小さな古墳が散在する。仁徳陵だけ強調して大きく作ったのかと思いこんでしまった。
(次の日の帰りの飛行機、窓から見おろしていたら、仁徳陵の上を通った。実際に周囲に小さな古墳がある。勘違いが翌日には訂正できてよかった。
それにしても、この大きさの違いはすごい。)

吹き抜けに鹿谷寺(ろくたんじ)の十三重塔の復元模型を置いてある。高さ約8m。
それよりさらに高い天井から自然光が射し込む。
近つ飛鳥博物館。高い吹き抜けに日が射す。

■ 熊取町立熊取図書館
大阪府泉南郡熊取町野田4-2714-1 tel. 072-451-2828
http://www.town.kumatori.lg.jp/shisetsu/tosyokan/index.html
(近つ飛鳥博物館の西南西28.3km=直線距離に移動する)

1歩館内に入ると、すっと、体がか、気持ちがか、溶けこんでいくような感じがして、感動した。
いい空間だ。
ほぼ1室の大空間で、天井の高さ、縦横比、自然の光の入り具合と人口の照明のバランスなど、いろんなことがきれいに調和している。
とりたてて強い造形性などなくて、穏やかな、ひかえめなデザインなのに、絶妙に居心地よくしてくれる。
ただ1つ造形的に特徴があるのは、コンクリートとガラスの建築に、レンガの壁面を混在させるデザインくらい。鬼頭梓設計の琵琶湖東岸の図書館建築によく見られた手法だが、数館の経験を生かし、異質な材質がごく自然につながっている。
2階から見おろすと、線対称に書架が並んでいて、リズム感がある。

熊取町図書館の美しい閲覧室

こども室だけが、基本の長方形の外にはみだしている。明るくて気持ちいいのだが、西向きの大きなガラス面から、西日が強く入りすぎるのが難点。
この日射しを和らげようと、外にゴーヤを植えてある。ひもづたいに葉が伸びて日陰を作るように考えたのだが、今年は猛暑で、ゴーヤ元気に育たなくて、十分な影ができなかったという。

図書館が誕生するにも、その後の成長にも、住民が関わってきた。住民が職員といっしょに図書館を育てている感じがある。
小さな町で財政は豊かではないが、図書館が1つの誇りになっているように感じられる。
「この図書館があるから」と移転してくる人があるという。ふつう、公立の図書館と小中学校は好きなようには選べないものだが、引っ越してまで選ばれるというのは、最高の評価といっていいだろう。
埼玉県宮代町に、象設計集団の設計による笠原小学校がある。竜宮城という評判のユニークな学校で、見学に行ったことがある。
校長先生に話を伺うと、この学校に子どもを入れたいと引っ越してくる家族がいる。卒業生が婚約者を連れてきて、「ここが僕が卒業した学校だよ」と案内していたこともあるという。
熊取町図書館でも「この図書館でいつも本を読んでたんだよ」と恋人を連れてくる人がいそうな気がする。

旅に出て、移動し続けた1日の最後に、いい図書館にめぐりあって疲れを忘れるということがある。琵琶湖東岸の東近江市立八日市図書館がそうだったし、岩手県立図書館がそうだったし、ここでもあった。こういう感じっていいと思う。

日暮れ近くなって、和歌山に向かう。


(2010.9月 no.43)
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参考: