大阪のユニークな書店をめぐる


1.柳々堂書店−大阪の建築界のかなめ
2.天牛書店−安藤忠雄がル・コルビュジエに出会った
3.MARUZEN&ジュンク堂書店−安藤忠雄のまるごと本屋

小泉淳作さんが描かれた奈良・東大寺のふすま絵の特別公開を見に行った。
後半は生駒山を越えて大阪に行き、ユニークな書店を訪れた。

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 第1日 奈良
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● 志津香
http://www.kamameshi-shizuka.jp/

東大寺に行く前にまず名店で釜飯を食べる。
あいかわらず人気のある店で、僕と妻が座った席が最後で、あとからは順番待ちになっていた。震災後、外国人観光客が減っているとのことだが、相席になったのが外国人の若い女性2人。東大寺のふすま絵の特別公開の招待券を余分に持っていたので、プレゼントすると、ラッキー!と喜ばれた。
食事を終えて、僕ら夫婦が先に出た。すると南大門のあたりから行列ができていて、待ち時間が1時間とのこと。夜まで公開されているので、夜に出直すことにする。
ラッキーと喜んではもらえたけど、チケットを贈った外国人が行列に並んだかどうか。

□ 興福寺国宝館
http://www.kohfukuji.com/

阿修羅像を見に寄る。
東京での特別公開で人気を呼び、国宝館での展示もスターとしての格が上がっていた。(以前はもっとぶっきらぼうに置いてあったと思う。)
ほかにも、頭が鳥で身体は人間の迦楼羅像(かるらぞう)など異形の像があり、おもしろい。

□ 遊中川 本店
奈良市元林院町31-1 tel. 0742-22-1322
http://www.yu-nakagawa.co.jp/

猿沢池の近くの小物屋に寄る。
桐の箱に入った香が気に入った。蓋を裏返すと線香立てになる。数種ある中で、「梅の香り」を買った。20年近く前の3月に亡くなった母の戒名が「梅芳院」というのを思い出して、そそられた。

● 茶房暖暖(さぼうのんのん)
奈良市西新屋町43 奈良オリエント館内 tel. 0742-24-9081

民家の茶店に一休みに入る。しっとりした風情の中庭を見ながら、抹茶と和菓子をいただく。
菓子は「ならまちどっと」。あんこを求肥で包む、ニッキの粉をまぶす、小さなくるみ片をのせる−そう説明されれば見当がつくとおりの味だが、小粒でなごむ。歩き疲れていたので抹茶が身にしみておいしい。

□ 元興寺(がんごうじ)
奈良市中院町11 tel. 0742-23-1377
http://www.gangoji.or.jp/

前の住職が須田剋太と親しく、禅室に作品が置かれている。それが目当てで行ったのだが、禅室が国宝に指定されてからは、特別な時期以外は公開していなくて、見ることができなかった。

本尊が曼荼羅図というのが珍しかった。その中心に阿弥陀如来が描かれてはいるが、ふつうご本尊というと立体の仏像なのに、ここのは異色。
図は、時を経て、材が古び色があせ、見分けがたいが、想像図では、橋の向こうの舞台で天女が楽器を奏し、上にある(ほとんど宇宙のような)空には、ばら色の雲が左右対称に描かれる、華やかな極楽浄土図。

屋根の一部に、丸瓦と平瓦が重なり合って葺かれた飛鳥時代のものが残っている。色合いが一様でなく、リズム感があって、クレーの絵を見るようだった。

■ 奈良市立中央図書館
目当ての店が開く時間まで、図書館で時間調整した。

● 酒肆春鹿
奈良市今御門町27-4  tel. 0742-26-4703
http://www.harushika.com/

民家が居酒屋になっていて、奥が深いらしいのだが、入ってすぐのカウンターに座る。奈良の酒「春鹿」を飲んでほろ酔いする。

□ 東大寺 聖武天皇・光明皇后御詠並びに東大寺本坊襖絵一般公開

東大寺に戻る。小雨が降る夜。さすがに行列はなく、すぐに入れた。
小泉淳作さんが描いた襖絵は、鎌倉のアトリエで制作途中のときに見かけ、昨年、東京で公開されたときにも見ていたが、収まるべきところにおさまって、一段と輝いているように感じた。
桜と富士は描かないと言われていた反骨の画家が、おびただしい数の花びらをもつ桜を描いたこと。
70代に建長寺の天井画から始まり、80代半ばの東大寺襖絵で集大成するまでの、命を賭けるような制作。
会場には小泉さんの今の心境を書いた文章が掲げられていた。
「あとは冬に蕪、夏には茄子をかく生活に戻る」
襖絵はみごとだし、画家の生き方にも思いがいって、涙ぐみながら圧倒された。

「本坊」は南大門を潜ってすぐ右手にある。大仏殿や二月堂には何度か来ているが、本坊の存在は意識にまったくなかった。
天皇殿、持仏堂も特別公開されていた。庭には一番星画廊の星忠伸さんがプロデューサーされたろうそくを仕込んだ竹の照明が並んで、幻想的な眺めになっていた。
その庭で星さんにもお会いした。星さんのおかげで、こういう場、こういう作品、こういう人に出会うことになった。

● ホテル アラマンダ
奈良県奈良市法華寺町1857-3 0742-33-3366

近鉄奈良駅のコインロッカーで荷物をとり、タクシーに乗って、新大宮駅の北にあるホテルに向かった。
広くてすっきりしたデザインの部屋。庭がついていて、翌朝、露天のジャグジーにはいる。
朝食つき。
快適だった。

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 第2日 大阪
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朝、ホテルで朝食。とてもいい感じ。
新大宮駅までタクシーに乗る。「今日はどちらへ?」と聞かれて、「大阪に行って友人と会う」とこたえたら、もう奈良を出てしまうのかと残念そうな口ぶりで、何だか申し訳ない気分になる。
佐保川を渡るところでは桜がみごと。思わず桜がきれいなことを言うと「ここからずっと桜並木が続いている。桜を見ながら法隆寺まで行きませんか?」ということを、奈良ふうの穏やかなアクセントで勧められる。つい川の話になり、佐保川はやがて大和川に合流し、大阪と堺の間で大阪湾に注ぐと教えられる。川をたどって下ったらおもしろうそうだと、とてもそそられるが、友人と約束をしているので、真剣に迷わずにすんだ。

奈良から近鉄奈良線で生駒を越えて近鉄難波に着く。地下鉄四つ橋線に乗り換え、肥後橋で降りる。土佐堀川畔の土手を歩いて今夜予約してあるリーガロイヤルホテル に行き、荷物を預ける。
最初の目的地はそこから5分ほどの国立国際美術館。

□ 国立国際美術館
大阪市北区中之島4-2-55 tel. 06-6447-4680
http://www.nmao.go.jp/

地上にはパイプが強い方向性を持ってうねっていて、展示室は地下にある。
『風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから』を公開中。
コレクションを展示する部屋では、並行する展示にあわせて、黒い服を着た看視の女性が5,6人だったか、壁を背にした椅子に腰掛けている。白い展示壁が並行する脇に黒い服が規則的に並んで、それ自体が現代美術の展示作品のようだった。

展示を見終えて、大阪に住む友人の橋本博行さんとロビーで待ち合わせ。
僕は昨年の奈良−和歌山の旅と、神戸の旅にも同行してもらって会ったが、妻と会うのはほんとうに久しぶり。静岡の浜岡原発の近くの海岸を散歩して以来だろうか。

● 玄米かりい オーガニック米野
大阪市西区土佐堀1-1-4 山内ビル2F
http://www.satoyamalife.org/satoyamacafe/

肥後橋駅からホテルに向かうとき見かけて気になっていたレトロなビルに食事に行った。
ビルは土佐堀川に面していて、対岸は中之島。有形文化財に指定されていて、穏やかな色調のタイルの壁面や、アールヌヴォーの玄関屋根など、見て楽しい。
無農薬有機野菜を作る農園が経営していて、1階が里山カフェ、2階が玄米かりい。
玄米はよく噛んで食べるようにと注意書きがある。

■ 柳々堂書店
大阪市西区京町堀1-12-3 tel. 06-6443-0167
http://www4.osk.3web.ne.jp/~ryuryudo/

南に下って10分ほど、2階か3階の小さな商店やビルが並ぶ一画に本屋さんがある。
シャッター2枚のうちの左はおろしてあり、右のもやっと人が通れるくらいにだけ、部分的に上げてある。
休みかと思ったが、「どうぞ」と言われて入る。

行ったのは土曜日の午後早い時間だった。
書店のホームページに、土曜は午後3時まで、日曜は休みとあったから、今日逃すと明日は大阪を離れるから行き損ねることになる。
今日は書店主催の講演会を別会場でしていて、女性ひとりを残して、あとの人たちは出てしまっていて、早じまいするところだった。あぶなく間にあってよかった。
そんなタイミングではいりこんだのだが、親切にいろいろな話をきかせていただいた。

見かけはよくある町の小さな本屋さんだが、建築専門書店。ふつうの雑誌や地図もわずかにあるが、あとは建築書。もう手に入りにくい建築雑誌のバックナンバーや、海外で出版された大きく厚く重い建築写真集も並んでいる。外見と内部のミスマッチがすごい。

でも実は店の核心は、店自体というより、ネットワークにある。
4人の店員が自転車で営業していて、設計事務所や建築会社に本を届けている。竹中工務店や日建設計などの大手も古くからのつきあいで、あてにされている。
それrにアーキフォーラムという催しを1997年から実施している。 
年ごとにコーディネーターを委嘱し、そのコーディネーターが1年のテーマを決め、毎月講師を選んで講演会を開催する。講師には、建築に限らず、美術や哲学やランドスケープなど、いろいろな分野の人が招かれる。
会場は、97年から05年までINAX大阪で、06年より、TOTOテクニカルセンター大阪。
講師の謝礼も会場使用料も、今までの信頼関係から安く引き受けていただいている。

今日はアーキフォーラムとは別の催しが開かれているらしい。電話がかかると「おばあちゃんがひとりで留守番してるねん。せやから...」と大阪弁の明るいノリで話していられる。
僕のウチの設計をお願いした難波和彦さんも、前に大阪大学で教えていたことがあるので、ご縁がありかと思ってきいてみると、「アーキフォーラムでも話していただいたし、やさしい先生で」といわれる。

柱にいびつな円形をした白い紙が貼りつけてあるのに気がついて、よく見ると白い棒が2本とびだしている。時計らしい。
きいてみると、柳原照弘さんというデザイナーの作品で、近くに柳原さんが設計した老舗の和菓子店「日月餅」があるとすすめられる。

『弔ふ建築 終(つい)の空間としての火葬場』(日本建築学会編 鹿島出版会 2009)
という本を買い、「TOTOトイレ川柳大賞」が印刷されたトイレットペーパーをおまけにもらった。

小さな書店が、大きな言い方をすれば、大阪(あるいは関西)の建築界のかなめになっている。
売り場面積や選書の目利きとかより、(比喩的な意味もこめて)自転車の走行距離に存在価値があるような、こういう本屋さんのあり方もあるのかと感じ入った。

2時4分前 僕らが出てまもなく
シャッターが閉まる

柳々堂書店を出てから淀屋橋の方に歩いた。淀屋橋は1935年に武田五一が関わってできた。
そこから堺筋を南に下って、大阪ガスビル(安井武雄 1933)など、1920年から30年代にできたオフィスビルを眺めていく。
高麗橋野村ビルディング(安井武雄 1927)の角に入っているサンマルクカフェで一休み。
離れすぎたのでタクシーを拾って日月餅に行った。

● 日月餅
大阪市西区新町1-17-17 新町ハウス1階
http://nichigetsumochi.jp/

柳々堂書店できいた、柳原照弘さんがデザインしたという店。
看板が外に大きくでていなくて、見つけるのに苦労した。
内部もミニマルアートのように禁欲的。並べられた菓子だけが際立つ。

(柳々堂書店で「日月餅」の名をきいたとき、妻が、京都の聴竹居(藤井厚二 1928)に行ったとき用意された菓子がそこのだったのではないかと言う。
帰ってから2009年のメモを見ると、
『栗本夏樹・漆芸展』にあわせて、栗本さんが作った、ケナフに漆をかけた薄い皿に、菓匠日月餅の、この展示にあわせた特注の和菓子をのせ、お茶をいただいた−
とあった。食べ物関係の妻の記憶力はすごい。)


□ 大丸心斎橋店
大阪市中央区心斎橋筋1-7-1
http://www.daimaru.co.jp/shinsaibashi/index.html

御堂筋にでて大丸に寄り道。
本館はウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計で、「日本におけるDOCOMOMO100選」に選定されている。
エレベータ前のステンドグラスなど、夢見心地にさせてくれる。かつてのデパートでの買い物は特別に心がはずむことだったのだろうと思う。
隣にあった村野藤吾のそごう百貨店(1935)は改築され、2009年から大丸の北館になっている。

□ ユニクロ心斎橋店
大阪市中央区心斎橋筋1-2-17

御堂筋から1本裏側の心斎橋筋に入る角に、2010年10月にオープンしたユニクロの旗艦店がある。
設計者は、武蔵野美術大学 美術館・図書館を設計した藤本荘介さん。

ビル全体が2.7m角の格子状のETFEフィルム素材というもので覆われている。内側にLED光源があり、夜にはビル全体が光の塔になり、格子ごとに異なる色で点滅までする。道頓堀につながる賑やかな商店街の角で、よく目立っている。

内部は商品を置いた棚のほかはすべて鏡で、エスカレータの斜め天井まで鏡にするという徹底ぶり。
「効率よく見つけることと心地よく彷徨うこと。つまり合目的性と脱目的性が同居すること。」これは図書館と店舗に共通するし、ほかの人間が活動する場所にも展開する根源性があると設計者がいう(新建築2010年11月)。
でも、商品が積まれた棚が四方八方に見えることになるから、視界すべてがチラチラしてしまって、めあてのものを「効率よく見つけること」は難しいのではないか。
さっき寄った日月餅とは対照的。
エスカレータを2階まで上がってみただけでクラクラしてきた。1日歩き回って疲れて着いた夕方にはきつい。すぐ外に出た。

→[武蔵野美術大学 美術館・図書館−書架の森]

● だるま
大阪市中央区道頓堀1-6-4
http://www.kushikatu-daruma.com/

旅に出る前に、道頓堀あたりチラチラ行ったことがあっても、夫婦善哉を一度も食べたことがないから、今度は行ってみようね、なんて話していた。でも、やはりここに着くのは夕暮れになってしまって、ここでぜんざいを食べたら、酒をおいしく飲めなくなる−ということになって、また夫婦善哉の前を通り過ぎた。

串揚げの店に入る。
おまかせで数本の串揚げがでてくる道頓堀コース1400円を3人とも注文。あとはそれぞれに、はもや餅や玉ねぎなんか追加する。
大きな缶にソースが入っていて、「ソースの二度付けは禁止やで」と注意書きがある。
壁に面したカウンターで、一見狭苦しい感じがしたが、意外に落ち着けて、のんびり話し込んだ。

友人は大東市の自宅に帰り、僕らは中之島のホテルに。

● リーガロイヤルホテル
http://www.rihga.co.jp/osaka/index.htm

吉田五十八が意匠設計に加わった繊細で優雅なホテル。
1階ロビーには彫刻家の多田美波がデザインしたバラ色の雲のようなシャンデリアが浮かんでいる。なだ万で朝食をとったあと通りかかると、ロビーが朝日を受けてすがすがしく、しばらく見とれた。

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 第3日 大阪
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□ 大川の花見
ホテルの送迎バスで大阪駅に向かう。(送迎バスがあるようなホテルに泊まるのは珍しい。)
荷物をコインロッカーに預けて、環状線で桜ノ宮駅に降りる。大川(旧淀川)の両岸は桜が満開。花を見る人、ブルーシートを敷いて、昼か夜かの場所とりをする人でにぎわっている。
川沿いの花見はのどかでいい。
日本経済新聞の『私の履歴書』に安藤忠雄が連載した(11.03.01-) なかに、桜の会を作って「平成の通り抜け」と名づけ、すでにある4800本に3000本の桜を加えたとあった。
帝国ホテル前の広場では野外コンサート。
次の桜宮橋まで歩くと、桜の通り抜けで有名な大阪造幣局があるが、あいにく実施日は翌週の週末。
通りの向かい側には、ウォートルスの泉布観があるが、こちらも改修中でフェンスで囲われて入れなかった。

□ ダイコクドラッグ
天満駅でふたたび友人と待ち合わせ。
駅の真正面のドラッグストアが「とても安い!」というので寄り道。ちょうど10日だったもので、「毎月10日は10日市」という宣伝文句が、『故郷の空』の「夕空はれて秋風吹き」のメロディーにのって繰り返し流れていた。

□ 玉出
http://www.supertamade.co.jp/

2600mある日本一長いという天満橋筋商店街を南に向かう。
まもなくあるのがスーパー「玉出」。ひと昔前のパチンコ屋のようなにぎやかさ。
こちらも店内に入ってみると、中でも明るくハデな照明が壁に並んでいる。友人によれば、チェーン店のなかでは、まだおとなしいほうとのこと。
勢いのとおり、たしかに安い。
こういう店に次々に目が向くのも、地元の友人が案内してくれるいいところ。

● 大清堂
川が埋め立てられ、上を高速道路が走っている。東京の日本橋のよう。
夫婦橋という橋桁がモニュメントとして道の両脇にあるのを、(仮想として)渡る。
近くに「浪花夫婦橋岩おこし」という菓子屋さんがある。立派な店構えだが、売っているのはほとんどおこしだけという潔さ。10個入りで525円を買う。
おこしの包み紙には夫婦橋が描かれていて、右脇には「全国菓子大博覧会大臣賞受領」、左脇には「特殊銀紙完全衛生防湿包装」とある。

■ ふるほんや天牛書店
大阪市北区天神橋3-7-28 tel. 06-6242-0155
http://www.tengyu-syoten.co.jp/

これも日本経済新聞『私の履歴書』に安藤忠雄が書いていたなかに、大阪の老舗の古書店の天牛書店でル・コルビュジエの作品集を買ったとあった。これが安藤とコルビュジエの出会いで、僕が天牛書店の名に出会ったのは、その日経の連載による。

目指す書店は、長い長い天満橋筋商店街の、ほぼ中ほどにあった。
古ぼけた木造の店に乱雑に本が積み上がっている−というのが、僕にはふつうの古本屋のイメージとしてあるが、ここは、コンクリートと鉄骨でデザインされたスタイリッシュなインテリアで、本もきれいに整理して並べられている。

友人は古本屋をめぐっては、ちょっと興味を覚えれば買いまくり、家に書庫を増築したというほどの人で、この古書店が前は道頓堀にあったこと、本店は吹田にあることを教えてくれた。

道頓堀あたりでは、角座(かどざ:寄席の定席)の近くに天牛書店、日本橋(にっぽんばし)に天牛本店があったという。友人の父も古本屋によく行く人で、「天牛本店というからにはほかにも店があるのかきいたら、本店−支店の本店ではなく、本を売る店だから本店だと言われた」と話していた、というのがおかしかった。

今度の大阪行きでは「夫婦善哉」の店に行こうと思ったものだから、この機会にと織田作之助の『夫婦善哉』を読んでみた。蝶子が苦労して食べさせているのに、柳吉はふしだらな行状を繰り返すというしょうもない話だが、大阪に実在する(いくつかは今もある)店がポンポンでてくる。
最後の一節に古本屋がでてきて話がしめくくられる。

 蝶子と柳吉はやがて浄瑠璃に凝り出した。二ツ井戸天牛書店の二階大広間で開かれた素義大会で、柳吉は蝶子の三味線で「太十(たじゅう)」を語り、二等賞を貰った。景品の大きな座布団は蝶子が毎日使った。

天牛書店のホームページにも、店の沿革が記されているなかに、「100畳敷の大広間があり、そこを「道頓堀倶楽部」として 舞のおさらいや素人浄瑠璃などに貸す演芸会場を開いていました」とある。
ユニクロと図書館が類似のものと比較されたり、書店の2階が演芸場だったり、大阪では固定観念を揺すぶられる。

この店では、さっき歩いてきた通りのビルのことを書いた
『ガスビル食堂物語 モダンシティー大阪の欧風料理店』大阪ガス株式会社 KBI出版 2004 (定価1000円→売価1500円)
を買った。地元でもないと手に入りにくそう。

3人でトボトボ歩いて、阪急梅田駅の東、安藤忠雄設計のチャスカ茶屋町に2010年12月にできたばかりの本屋に入る。

■ MARUZEN&ジュンク堂書店
大阪府大阪市北区茶屋町7-20 チャスカ茶屋町 地下1階〜7階
tel. 06-6292-7383 

駅から近い再開発地区らしい。
阪急の地下街から上がっていくと、NU茶屋町とか、ロフトとか、大きく新しいビルがいくつも建っている。あいまにポツンと古い花屋さんが混じっていたりするとホッとする。

チャスカ茶屋町は、耐震補強のようにコンクリート柱が斜めに、上すぼみに伸びている。
上のほうは、小ぶりで高級なホテルと結婚式場のアルモニーアンブラッセ大阪、それに賃貸マンションのチャスカ茶屋町レジデンス になっているらしい。
地下1階から地上7階に、丸善&ジュンク堂書店が入っている。ごく一部に文具売り場があるくらいで、あとは書店なので、雑居的なわかりくさがなく、すっきりしている。

7階 - 学校参考書・語学・児童書・ギャラリー
6階 - 洋書・医学・理工
5階 - 芸術・人文
4階 - パソコン関連 社会
3階 - 地図・旅行・実用書
2階 - 文庫・文芸・文具
1階 - 雑誌・新刊・話題書
地下1階 - 漫画・コミック

フロアは三角形。中央のエレベータ室を囲むように書架があり、周囲を回遊式テラスが巡っている。
眺めがいいとはいえるが、何か中途半端な感じがする。初めスーパーやレストランやフィットネススタジオなどを想定していたのに、わけあって途中で本屋に変えたということらしい。

検索用のパソコンがあって、在庫の状況と、あるとすればどの位置にあるか、調べることができる。ためしに建築家、難波和彦さんの著書を検索して、場所を調べ、行ってみると、簡単に探し出すことができた。
画面で確認できたら所在位置などを紙に印刷できるシステムになっているが、震災による紙不足で、使い古しの紙と鉛筆とが置いてあった。

安藤忠雄は水の教会、光の教会なんて作ってきたが、ここの最上階にあるのは結婚式用の「天空の教会」。見てみたいが、チャンスはなさそう。わずかな可能性としては、友人の年頃の娘さんがここで式を挙げる、くらいだが、そうなっても僕が招待されることはないしな。

■ 阪急古書のまち
http://www.hankyu-kosho.com/

阪急電鉄の高架の下、1階なのに地下街のような雰囲気のところに、古書店が10軒以上並んでいる。
駅に付属するような商店街に古書店がいくつも並んでいるのは全国的にも珍しいだろうと思う。

● 燦宮(さんぐう)

阪急をくぐって梅田駅の西側に出て、地下道を潜り、大阪駅近くのランドマークの梅田スカイビルに上がり、39階の中華料理の店に入る。
丸い窓から見おろす風景は格別。淀川がゆったり流れ、自動車や電車が渡る橋があり、高速道路も越えている。

□ 梅田スカイビル(河口ウォッチング−淀川)
大阪市北区大淀中1-1-88
http://www.skybldg.co.jp/skybldg/

展望台に上がる。大阪駅がすぐ下にある。方向は違うが、淀川河口も近い。大阪駅はこんなに河口に近く、つまり海に近い位置にあるのかと地理的新発見をした。

大阪駅で友人と別れる。
僕と妻は、このたびも弁当を買って新幹線で食べながら帰った。

(2011.4月 no.66)

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