和歌山県立図書館・和歌山市民図書館


1.和歌山県立図書館−天童木工、南葵文庫、トルコの軍艦
2.和歌山市民図書館−有吉佐和子文庫、紀ノ川
3.和歌山県立近代美術館−『ソイルライブラリー/和歌山』

奈良で2日にわたって開催された全国図書館に参加したあと、3日目は大阪、4日目は和歌山市内の図書館に行った。
大阪では府立中央図書館と熊取町図書館を見て、3日目の夕方に和歌山に向かった。


□ 雑賀崎(さいがさき)の番所(ばんどこ)庭園 
(熊取町図書館から南西31km)

歌人・道浦母都子が、ハナフリのことを書いていたのが気にかかっていた。和歌山市の西岸、雑賀崎という岬の先端にある番所(ばんどこ)庭園では、春秋の彼岸の中日には、沈みかける夕日の回りから、さまざまのかたちの光が、花が降るように海に舞い散るのを見られるという。
たまたま和歌山に行ったのが秋の彼岸の中日の5日前。そういう自然現象なら、5日の誤差なら見られなくもないだろうと考えて、熊取町図書館を出てから番所庭園に向かった。
日没時間も事前に調べてあって、今日の和歌山は18時03分。
ところが、その日になってなぜか18時20分だと勘違いして熊取の図書館を出発し、おまけに和歌山i.c.を降りると、市街に向かう道が渋滞している。
鉄道を越える跨線橋で西の眺めが開けて、オレンジ色のまるい夕日が、もう地平線間近に迫っているのが見えた。

番所庭園に着くと、薄暗くなっていて、庭園も開園時間を過ぎ、入口の扉が閉まっている。坂道からみおろすと、庭が海に突き出していて、そこに立ったら眺めがよさそうだとそそられる場所だった。
いつか出直してくる機会があるかどうか。

● BKウィークリーマンション&ホテル
和歌山県和歌山市北ノ新地1-45 tel. 073-423-3020

ウィークリーマンションに1泊でも宿泊可というのがあって泊まってみた。もともと暮らせる広さがあるうえにロフト付き。費用対体積比は、これまで泊まった宿のなかでも一番ではないか。
台所があり、熱源も冷蔵庫もある。(お湯をわかしたくらいきり使わなかったけれど)
端の部屋だったので、窓から和歌山城がライトアップしてるのも見えた。
夕飯は外に出て和歌山名物のラーメン。
朝食は部屋まで運んでくれて、さっぱりと手頃。
この旅は、国際奈良学セミナーハウス6200円(朝食つき)、伊勢屋4000円(素泊まり)、ここが5800円(朝食つき)。平均5300円ほどで、それぞれに特徴があり、少ない経費で十分に快適だった。

□ 紀ノ川河口

和歌山での河口ウォッチングはもちろん紀ノ川へ。
でも港やら工場やら倉庫やら、大きな建物が入り組んでいて、もともとの自然の地面はどこまでなのか、判然としない。
フェリー乗り場からは徳島行きの船が出ていくところだった。

有吉佐和子の『紀ノ川』では、最後近く、「新築されたばかりの和歌山城」から、10円を入れて眺める望遠鏡で景色を眺める場面がある。

紀ノ川が、まるで流れているとは思えぬほど静かに平面的に、翡翠と青磁を練りあわせたような深い色をして横たわっている。川上から、川下へ、ゆっくり望遠鏡をまわして、その色がどこにも濃淡を見せていないのを半ば感心して眺めているとき、河口に近く林立する煙突が見えた。大阪資本による住友化学の大工場が、河口の北部に蜿蜿(えんえん)と建ち並んでいるのだった。

紀ノ川河口大橋を左岸から右岸に渡ってみる。友人の車のナビでは有料のはずだが、実際は無料になっていた。ただ越えてみて、また橋を渡って引き返したので、無料はありがたい。 紀ノ川河口大橋に向かう道

左岸で、川を一部細く区切るようにして細い土手が長く続いているのが、不思議な眺めだった。

□ 紀三井寺

階段を上がった境内から海が見える。
尾道でも丘の斜面に寺があって、海が広がっていた。
同行の友人によれば、紀三井寺は3つの井戸(吉祥水・清浄水・楊柳水)を有することが寺の名前の由来とのこと。
大津の三井寺のほうは、境内に天智・天武・持統の3帝の産湯に用いられた井戸があることによる名で、2つの「三井寺」に直接の関係はないらしい。
「日本最大の観音様」という金ぴか像があった。

■ 和歌山県立図書館
和歌山県和歌山市西高松1-7-38 tel. 073-436-9500
https://www.lib.wakayama-c.ed.jp/

インテリア:
県立図書館は、もとは和歌山城の一角にあった。
1993年、和歌山大学の経済学部の跡地に、図書館、文書館、文化情報センターの複合施設「きのくに志学館」が作られ、移転した。
図書館は1階にあり、中に入ると、シックで上品。
椅子などの備品類がすてきなデザインなので、尋ねてみると、天童木工への特注品とのこと。さすがに出来映えがみごと。
パソコンの前にあるスタイリッシュな椅子は、もとはカフェにあったものを、閉店して自習室にしたとき、館内に転用したという。

和歌山は「きのくに」なので、「木の資料」を集めた書架があるが、実物の木材見本も置いてある。これはおもしろいアイデアで、たとえば埼玉の図書館なら、実物のサイを飼ってみたら迫力がある。 木の資料が並ぶ書架の向こうには、実物の木材見本が置かれている

郷土資料:
郷土の作家を集めた書架に、野尻抱影とか大岡昇平とかあって、関係がわからずに、これも尋ねてみると、どちらも父が和歌山の人とのこと。
この程度の関係の人まで相当に集めてあるのに、まさに地元の有吉佐和子の本が意外にさっぱりしていると思ったら、このあと行った市民図書館に手厚くあった。

南葵文庫:
この図書館は1908年の開館で、歴史は100年を超えた。
もう少し由来をさかのぼれば、紀州徳川家第15代当主徳川頼倫(よりみち)が、1898年に南葵(なんき)文庫を設立している。ケンブリッジ大学で学んで図書館の必要性を知り、帰国後、都内麻布飯倉町6丁目に洋館を建て、紀州徳川家の書籍2万余冊を収めた。1923年の関東大震災で東京帝国大学の図書館が壊滅すると、南葵文庫は東京帝国大学に寄贈された。
南葵文庫としては、わずか25年で歴史を閉じたが、資料はその後に伝わっている。また、そこに勤務した喜多村進司書が、1933年に県立図書館に移り、和歌山県立図書館の運営に大きな影響を残したというから、蓄積は十分に生きたことになる。
南葵文庫の洋館は、今は熱海の海岸に移築され、高級ホテルになっている。僕には、いつか泊まってみたい憧れの宿として、しばらく前から文庫の中身より気になっている。

*麻布の南葵文庫の跡地に、今は外務省外交史料館がある。→ [ 松竹大谷図書館・外務省外交史料館 ]


トルコ、アタチュルク、タウト:
正面入口前のロビーには、「トルコの人々とのかけ橋 エルトゥールル号事件〜県立図書館の資料からみる〜」と題して図書資料や参考写真を展示してあった。
1890年に串本沖でトルコの軍艦エルトゥールル号が遭難し、580人の死者がでたが、串本の人たちが69人を救った。生存者は日本の軍艦でトルコに送り、「土国軍艦遭難之碑」という慰霊塔を串本に建てた。(それから120年経った2010年は、「トルコにおける日本年」になっているという。)
解説パネルによると、近代トルコの初代大統領ムスタファ・ケマル・アタチュルクが新しい慰霊碑の建立を決め、委託を受けた和歌山県が設計・施工・監理にあたり、1937年に除幕式が行われた。
また僕の関心に即していえば、アタチュルク大統領は、ナチスから逃れて日本に滞在していたブルーノ・タウトをトルコに迎えた人。1937年は、タウトがトルコに渡った翌年、アタチュルクの期待に応えて精力的に設計にあたっていた頃になる。こちらにまかせないで、タウトの設計案を送ってきていたら、日本では設計の機会が少なかったタウトの作品をもう1つ見られたろうにと、勝手な想像をした。

* 南葵文庫があったのは、飯倉町6-14。現在は麻布台1丁目で、外務省外交史料館が建っている。2週間後、たまたまそこに資料調査に行った。→[松竹大谷図書館と外務省外交史料館](準備中)
* 日本におけるブルーノ・タウトについては、[山を歩いて美術館へ]


□ 和歌山県立近代美術館
http://www.momaw.jp/

黒川紀章:
和歌山大学の教育学部の跡地には、美術館が建った。(図書館は経済に、美術館は教育に役に立つから、と考えたわけではないだろう。)

僕が前に勤務していた埼玉県立近代美術館と同じ黒川紀章が設計していて、なんとなし親近感がある。
1982年の埼玉県立近代美術館は、黒く重厚に閉じていたが、1994年の和歌山県立近代美術館は、白く明るく開いている。
美術館のインテリア

地下駐車場から上がっていくと、庭で結婚式の準備中だった。レストランも貸し切り。こういう建築で結婚式をできたらすてきだ。
美術館での結婚式を見るのは、水戸芸術館以来。
図書館で結婚式といったら、「SATC〜セックス・アンド・ザ・シティー」のニューヨーク公共図書館が思い浮かぶけれど、日本でもあるだろうか?
僕があそこならどうかと思いつくのは、磯崎新の大分県立図書館の階段つき大ロビー、中央に階段がある安藤忠雄の新潟市立豊栄図書館、ヴォーリズの神戸女学院くらい。

栗田宏一:
「瀬戸内国際芸術祭2010」に行ったとき、小豆島で栗田宏一の『土と生命の図書館』という作品を見た。瀬戸内海に流れ込む川の流域から土を採取して並べてあった。
こちらでは『ソイルライブラリー/和歌山』という作品が展示されていた。「美術館にアートを贈る会」が2年以上かけて募金活動をして手に入れ、美術館に寄贈した。
こういうあり方っていいと思う。

山本鼎:
特別展として 「日本近代の青春 創作版画の名品」を開催中だった。この美術館では版画のコレクションに重点を置いていて、その中からとくに1920年からの創作版画に焦点をあてた企画。
前日に行った大阪府立中央図書館国際児童文学館でも山本鼎に出会ったが、ここでも、創作版画といったら山本鼎は欠かせない人。メモをとりながら見ていたが、結局300ページをこえる厚い図録を買ってしまった。旅先で重い本を持つのは避けたいが、最終日だし、欠かしにくい本で、思い切る。

図録では、1918年に創作版画協会を結成したひとりだった山本鼎が、翌1919年に『みづゑ』に書いた意見が紹介されていた。
協会が達成すべき3つの目標を掲げていて、1−版画の技法書を発行する、2−文部省美術展覧会に版画を受理させる、3−東京美術学校に版画科を新設させる。
1,2は実現した。3も1935年に臨時版画教室という形で実現し、1944年には戦時の影響もあってわずか10年で閉じるのだが、駒井哲郎など戦後活躍する版画家を育てた。
『みづゑ』でそうした方向性を示した1919年は、山本鼎が一方では児童の自由画運動を始め、農民美術の振興も企てているころだった。
この春に、うらわ美術館で『再発見!クレパス画』とう展覧会が開かれた。1921年、山本鼎は使いやすい画材の開発について画材の製造者から助言を求められ、クレパスの誕生となって普及していったという。(これは僕には新知見だった。)
山本鼎の運動家的な特質がこうした動きによくでている。そんな活発な動きをしている時期に、井上房一郎は軽井沢の別荘が近くにあった縁で、山本鼎に出会っている。
のちに井上房一郎は、自分が経営する会社の1室にギャラリーを設け、美術への関心を広めることで、群馬県立近代美術館の設立に結びつけていく。草の根の音楽活動から、交響楽団や音楽堂の誕生にもっていく。
そうした現実的、実際的な指向性は、山本鼎のスタイルを受け継いでいるといっていいだろう。既存の文化をひとりで味わっているのではなく、世間に広く関心を高め、個人の余裕資金だけでは不可能な大きな達成をした。そういうダイナミックは発想を山本鼎から得ている。

僕にとっては、うらわ美術館と和歌山県立近代美術館の展示、大阪府立中央図書館国際児童文学館での『コドモノクニ』に山本鼎がかいた絵と文、軽井沢高原文庫の星野温泉をめぐる企画展など、このところ山本鼎に関わる収穫が続いている。
山本鼎は、もっと評価されていいアーティストだと僕は思っている。山本鼎の多方面の活躍の全体像を一気に示す企画展を、どこかの美術館で開催してくれるといいと思う。

■ 和歌山市民図書館
和歌山市湊本町3-1 tel. 073-432-0010
http://www.lib.city.wakayama.wakayama.jp/

最終目的地に着くと、和歌山市民会館が管理している駐車場には10台ほど並んでいて、なかなか動きそうにない。飛行機の時間が近づき待ってられないので、コイン・パーキングに置く。

2階の区切られた一角に「有吉佐和子文庫」があり、カウンターの司書に話して鍵をあけてもらう。 有吉佐和子文庫には鍵がかかっている

有吉佐和子が所蔵した本が書架にぎっしり詰まっている。蔵書を見るのは、作家の脳のなかを眺めるようにおもしろい。こんなのがある!とか、あれはないのか?とか。
多くの古典籍に混じって、珍しくカタカナの書名が見えたのは『マルクス・エンゲルス全集』。『有吉佐和子の中国レポート』という著作もあるが、中国の作家と長くつきあううえで、マルクス、エンゲルスまでさかのぼって読んでいたようだ。

* →[精華大学図書館−老舎のSFをめぐって]

図書館の設計は岡田新一設計事務所で、竣工は1981年。同じ設計事務所が2010年に新潟市立図書館で日本図書館協会建築賞を受賞している。比べてみると、時代の変化を映してか、やはり前者は重く厚いつくりをしている。そのうえ機能や書架や備品の配置を当初と換えているのか、ややしっくりしない感じがした。

図書館の裏手を紀ノ川が流れている。今朝、河口を見に行って、2つの流れを作るように並行して土手があるのが気になっていたのだが、もうそこまで歩いていく時間がなくなってしまっていた。

□ 関西国際空港−羽田空港

友人に空港まで送ってもらった。交通の不便な目的地もあったので、車に乗せてもらってあれこれ回れて助かった。
関西国際空港を飛び立つと、南に、和歌山方向に飛ぶ。では、やがて左(東)に旋回するかと見ていると、右(西)に旋回する。ぐるーともう一度関空上空まで戻ると、すぐ目の下に関空があり、海を隔てた先に神戸空港が見えている。
仁徳天皇陵の少し南をかすめ、海に出ると、中部空港が見えてくる。
ラグーナ蒲郡の砂州だか、防波堤だかが、海方向に突き出しているのが見えた。
伊豆半島、伊豆大島の滑走路、海ほたる、タンク群を眺めて、羽田に着陸した。

(2010.10月 no.44)
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参考:

  • 『花降りの海』 道浦母都子 日本経済新聞 2003.9.28
  • 『紀の川』 有吉佐和子 中央公論社 1962
  • 『和歌山県立図書館百年の歩み〜そして、次の一歩へ〜』 和歌山県立図書館 2008
  • 『日本近代の青春 創作版画の名品』 和歌山県立近代美術館 2010 2500円
  • 第1・2日 全国図書館大会
  • 第3日  大阪東部の大図書館と南部の小図書館