宇部市立図書館 3/3


第3日は、宇部港近くのホテルを出て、まず北部の秋吉台に行き、ふたたび宇部に戻って市内を回り、山口宇部空港から帰った。

[山口大学図書館・山口市立中央図書館 1/3]
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[山口県立山口図書館 2/3]
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■ 山口きらら博記念公園スポーツライブラリー

[宇部市立図書館 3/3]
■ 宇部市立図書館>−石炭の遺産


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第3日 秋吉台から宇部の川沿いレストラン
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□ 秋吉台展望台

2月の曇った朝の秋吉台はさむざむした風景だった。
秋芳洞は、地下の洞内を急流が音を立てて流れていて、迫力に圧倒された。
時間の蓄積、自然の大きさに感じ入る。
こういう厳しい条件のところに遊歩道を作る意志の強さのことも思う。

写真は、川が洞窟から外に流れ出るところ。 秋芳洞から川が流れ出る

□ 秋吉台国際芸術村
山口県美祢市秋芳町秋吉50番地 tel. 0837-63-0020
http://www.aiav.jp/home.php

音楽、美術、ダンス、演劇など、アート全般を対象にした施設で、アーティスト・イン・レジデンス(滞在型創作活動)を可能にする宿泊施設もある。
磯崎新の設計で1998年にできた。
2002年、山口市に情報芸術センターを建築中に見直しの動きが起きたが、設計者が同じ磯崎新でもあり、こちらの建設費や稼働率がしばしば引き合いにだされた。

滞在型、広いアートを対象にしている、磯崎新の設計といったことから、開館のころから、アート関係ではしばしば話題にのぼり、注目されていて、僕もいつか行こうと思っていた。
ようやく実際に来てみてわかったことの1つは、「遠い」こと。
山口にも宇部にも遠い。大観光地の秋吉台から4kmほどだったか、遠いとまではいわなくとも、ついでに気軽に寄ってみるという距離ではなかった。
周囲を歩き回ったわけでもなく、土地勘もないから、これも不確かだが、谷間に位置して閉じた環境にあるようだ。アーティストにとって、滞在のための条件は整備されているとしても、魅力的な土地に感じられるかどうか。

建築の見学がOKで、受付で手続きをすると簡単な資料を渡される。
鍵がかかっているホールだけは職員が同行してあけてくれる。
薄黄色で、秋芳洞の千枚田をイメージした座席に、上から垂れる鍾乳石をイメージした照明具。何だか絵解きみたい。
このあとは自由に施設内を見て回る。
スタジオでは楽器の練習をしている人がいた。
カフェでは、「いただ着ます」という展示をしていた。食材をイメージする服を作るワークショップの発表展示で、ちょっとおもしろい発想のがあった。

他にほとんど人がいなかったし、何だか寂しいところだった、という印象が残った。

□ 宇部市渡辺翁記念会館
山口県宇部市朝日町8-1 tel. 0836-31-7373

1937年に竣工した村野藤吾の代表作の1つで、国の重要文化財になっている。
「渡辺翁」と冠した公共施設名も風変わりで、ずっと見に行きたいと思っていた。
「渡辺翁」というのは、宇部市の発展の根幹となった宇部興産の前身となる沖ノ山炭鉱、宇部新川鉄工所、宇部セメントなどを創業した渡辺祐策(わたなべ すけさく1864 - 1934)のこと。
この会館は「渡辺翁」が関係した7事業各社の寄付で建てられた。

宇部線の線路のそばの公園の中に悠然とあった。
こういうホールならコンサートでもしていれば入れることもあるが、この日は政党の集会があり、残念ながら中に入れなかった。い

■ 宇部市立図書館−石炭の遺産
宇部市琴芝町1-1-33 tel. 0836-21-1966
http://www.city.ube.yamaguchi.jp/kyouyou/toshokan/index.html

広い通りを南東に進んで真締川(まじめがわ)の橋を渡ると、右側に市立図書館がある。

ここにも宇部興産の恩恵が届いていて、「渡辺翁記念文庫」と「渡辺翁絵本文庫」がある。
「記念文庫」は高価な美術関係図書が中心、「絵本文庫」は幼稚園や保育所を対象にした読みきかせのための図書で、2006年に一括寄贈されたあと、毎年それぞれに50万円ずつの購入費が贈られている。

奥に郷土資料・参考資料の区画があり、一般書とここの境に、本の盗難防止用のゲートがある。それだけ貴重書が多いということなのだろうが、その区画内の閲覧机は、ほとんど学生の自習者が占めている。ちょっと奇妙な風景だった。

ここで『ときわ公園物語 常盤湖築堤三百年』という本を見つけた。ときわ公園は今の宇部市創成に関わる場所で、耕作に適しない土地の改良、石炭の発見、彫刻によるまちづくり、黒い石炭と対比した白鳥を中心にした動物との関わりなど、宇部に関わる物語が集約している。この本ではそうした章立てをして、縁の深い人が執筆している。こういう本は外にいてはなかなか目に入ってこないが、図書館の書架でいい本に出会えた。
レストランを予約した時間が迫っていて、読んでいる時間はなく、書名をメモして図書館を出た。
(あとで古本サイト経由で手に入れた。
『ときわ公園物語 常盤湖築堤三百年』ときわ公園物語編集委員/編 宇部観光コンベンション協会/刊 1998)


● ノエル
山口県宇部市小串402 BOX2 101 tel. 0836-31-1118

真締川をさかのぼった次の橋の角にレストランがある。
ここの目当てはテーブル。
デザインしたのは石上純也で、このレストランのテーブルを作ったのをきっかけに妹島和世の事務所から独立。注目作を次々に作って2010年には、ヴェネツィア・ビエンナーレの国際建築展で金獅子賞を受けている。
テーブルの天板は、真横から見たら一本線に見えるほど薄いし、脚もとても細い。合板と鉄板という固い素材を使っていても、これだけの大きさになるとへこんでしまう。構造解析をして天板も脚も曲げて作っておいて、置いたときに水平と垂直になるように作られている。単純で複雑、モノの驚きがあるのに、モノのぼってりした存在感がない。
ずいぶん念が入っているが、建築家の意識では、天板は屋根、脚は柱に見立てることができるから、テーブルは原初的な建築なのだという。

今は料理を食べるのには使われていなくて、ワインの瓶や、グラスや、パスタをのばす器械などが置かれている。こういうテーブルを機縁に建築家が巣立っていくことがあるのかと感慨する。 レストランのテーブルの風景

そんなわけで、食事については(失礼なことだが)ついでにそこですませようくらいの感じだったのだが、料理を目当てに来てもいいほどにおいしいものだった。
手長えびのシンプル焼き。
マッシュルームのスープ。
下関ふぐにシナモンほかのソース、つぼみ菜・菜の花添え。
デザートに、妻はチョコのムワール。
僕はクレームブリュレ。
素材をシンプルに生かしていて、味わいが深い。

サーブされる奥さんは好感だし、テーブルを見たいので遠くから来たことを話すと、料理を作るご主人もでてこられて、このテーブルについての大きな特製の図版集まで見せていただいた。
石上純也とは、東京で料理の修行中に親しくなり、宇部に戻ってレストランを開くのにあたってテーブルが作られたとのこと。
図版集には、そのMotonori Hirataさんへの謝意が記されている。
期待した以上の、楽しくたっぷり満ち足りた時間になった。

近くに犬彫刻があると教えられたので、橋を渡って対岸に行ってみた。
山口大学医学部と川を隔てた反対側が公園になっていて、大きな犬の首があった。
作者は犬の作品で知られる吉野辰海だが、これほど大きな首だけというのは他にあまりないのではと思う。ちょっと不気味だが、真っ直ぐ遠くを見つめてりりしくもある。
首から上だけの大きな犬の彫刻

□ 興産大橋
  (河口ウォッチング−厚東川(ことうがわ))

秋芳洞を流れる川は、やがて厚東川となってで周防灘に注ぐ。
河口の両側は宇部興産の私有地で近づけない。
両端を結ぶ興産大橋も私道であり、渡れない。
そもそも北部の石灰岩産地とここの工場を結ぶ「宇部興産 宇部・美祢高速道路」が、30km近い私道で、とにかく私企業のスケールが大きい。
旅先では、できるだけ河口を見にいきたいと思っていて、こんな珍しい河口はぜひ見たいのだが、近寄りがたい。
朝、宇部海員会館の受付の人に教えてもらったところまで車で行ってみた。地図上では妻崎開作という地名になっている。
水門の先に、ゆるい勾配の橋がかすかに見えただけだった。
明治30年の地図で見れば海岸線だったところに立っていることになる。
宇部は(宇部興産が、といってもいいのだろうが)海に向けて土地を広げてきた土地だということをあらためて実感する。

□ ヒストリア宇部(旧宇部銀行本店)
宇部市新天町1-1-11 tel. 0836-37-1400
http://www.historia-ube.jp/

また真締川沿いに戻って、ヒストリア宇部に行く。
渡辺翁記念館と同じ村野藤吾設計による旧宇部銀行本店(1939)が、ホールとカフェになって公開されている。
でもホールは講演会で使用中で見学できなかった。受付にいる人が「平日には見られますよ」と簡単に言ってくれるのだけど、飛行機に乗ってきた身には、そう気軽に出直せないのが残念。
今回、村野藤吾の建築には2つ空振りになった。

□ ときわミュージアム

もうひとつ残念だったのは、ときわ公園が鳥インフルエンザの発生により閉鎖され、行けなかったこと。
公園内のミュージアムでは、「UBEビエンナーレ物語」という企画展を実施中のはずで、ひとわたり歴史をたどれるかと楽しみにしていた。
市民に親しまれていた鳥たちは殺処分されたようだ。鳥もかわいそうだが、市民にもいたいことだろうと思う。

□ 山口宇部空港・羽田空港国際線ターミナル

山口宇部空港から羽田空港に帰る。
途中、半年ほど前に開業した羽田空港国際線ターミナルに寄って食事をした。

       ◇       ◇

山口の旅は楽しかった。
県庁所在地の山口市の特異な風景。
宇部市も、市内をやしの木が並ぶ広い通りが走り、市街の近くで高い煙突から煙がでていて、独特な都市の表情をもっていた。
旅に出て満足しても、まだまだ見たことがないところがたくさんあるから、「よかった。でもこれでもういい。」と思うことがほとんどで、同じ所に2度行こうという気にはあまりならない。
でも、山口、宇部には、もう一度来たいと思った。
その機会があったら、山口市立図書館に行って閲覧室にひたり、トラットリア・アンコーラでケーキを食べ、ノエルで食事をして、松田屋ホテルに泊まることは、そっくり繰り返したい。
旅はいつも楽しいが、こんなに「もう一度」と思わせるところがいくつもある地は珍しい。

2泊3日の行程(…は徒歩)
第1日 山口宇部空港−ピッツェリア・アンコーラ−山口大学学生食堂(昼)・
山口大学図書館−山口情報芸術センター・山口市立中央図書館・トラットリア・アンコーラ…袖解橋…山口情報芸術センター−中原中也記念館−松田屋ホテル(泊)
第2日 常栄寺雪舟庭−瑠璃光寺−憲政資料館(旧山口県庁)…山口県建設技術センター(
旧・山口県立山口図書館)防長先賢堂…山口カトリック教会サビエル記念聖堂…山口県立美術館…めん房だしまる(昼)…御堀堂…クリエイティブ・スペース赤れんが(旧県立図書館書庫)…山口県立山口図書館…山口県警察体育館…憲政資料館(旧山口県庁)−山口きらら博記念公園スポーツライブラリー−きららガラス未来館−デル・ソル・ポニエンテ−真締川河口・宇部海員会館(泊)
第3日 秋吉台・秋芳洞−秋吉台国際芸術村−宇部市渡辺翁記念会館−
宇部市立図書館−ノエル(昼)−興産大橋・厚東川河口−ヒストリア宇部(旧宇部銀行本店)−山口宇部空港・羽田空港国際線ターミナル

(2011.2月 no.63)

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参考:

  • 『写真集明治大正昭和 宇部』上田芳江/編 国書刊行会 1979
  • 『宇部興産創業百年史』百年史編纂委員会/編 宇部興産 1998
  • 『ちいさな図版のまとまりから建築について考えたこと』石上純也 INAX出版 2008