瀬戸内の図書館とアート


1.直島町役場-香川県立図書館の巡回文庫
2.宮脇書店総本店-屋上に観覧車!
3.香川県立図書館-飛行場跡地に図書館
4.小豆島町立図書館-壷井栄、二十四の瞳、自転車
5.「土と生命の図書館」-廃校の図書室
6.甲村記念図書館-時間切れで幻のまま
7.香川国際交流会館(旧・県立図書館)-会館でも月曜休館

「瀬戸内国際芸術祭2010」に行った。
いつか行きたかった犬島や、ちょっと久しぶりの直島、おおいに久しぶりの小豆島など、島めぐりをして、見そこねていた高松の見どころにも訪れた。

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第1日 直島
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* マイルの特典予約で高松行きがとれなかったので岡山行きの便にした。
羽田から離陸して西に向かったのに富士が見えないと不審に思っていたら、もっと北を飛んで、南アルプスの緑のひだを見おろしていた。
やがて琵琶湖が現れた。湖が狭くなったところに橋がかかっているのは琵琶湖大橋で、去年行った佐川美術館あたりを見おろして飛んだわけだ。(
→[琵琶湖東岸に鬼頭梓とヴォーリズの図書館を訪ねる])
岡山空港、岡山駅、宇野駅を経て、フェリーで直島・宮浦港に着いた。

□ 地中美術館・李禹煥美術館
直島には久しぶりで、前にはなかった安藤忠雄設計の「地中美術館」と「李禹煥(リ ウファン)美術館」を見る。

□ 本村・家プロジェクト
ベネッセからバスに乗り、島の東部の本村に着いたのは、とっくに昼過ぎ。バス停のすぐ前にあった店に入って
●(昼) ぶっかけうどん+かきあげ(700円)
を食べた。
「家プロジェクト」という、個人宅を使ったアート作品がいくつかあるが、杉本博司「護王神社」にひかれた。江戸時代からある護王神社を改築したもので、本殿に昇るガラスの階段は、地下の石室にも続いていて、石室から眺められる。
暗い地下から眩しい地上へ、ガラスの階段で。

●(茶) カフェまるや チーズケーキと冷たくしたカフェオレ (700円)
で一休みする。

■ 直島町役場-香川県立図書館の巡回文庫
http://www.town.naoshima.kagawa.jp/

「護王神社」への坂道から直島町役場の特異な形が見えていた。 直島町庁舎の遠景

まちづくりに建築を重視していた三宅親連・元町長が、1970年代から、建築家・石井和紘に、役場や小中学校など主要な公共建築の設計を依頼し、整備していった。
その後、岡山市に本社があるベネッセコーポレーションが、安藤忠雄の建築による「ベネッセアートサイト直島」を展開し、直島は美術愛好家が訪れるべきいわば聖地となっていくが、その前から建築的に知られた地ではあった。
それにしても「飛雲閣」を引用した外観は、こういうところに、こういう形が!というインパクトがあって、崇徳上皇が流されてきたとか、城があったとか、歴史的にさまざまな由緒がある土地であることを想起させる。

その役場に入るとロビーの一角が「香川県立図書館巡回文庫」になっていた。
役場の庁舎内なので、利用できるのは月曜から金曜の9時から5時まで。
直島には公民館内の図書室があるだけで独立した図書館はない。
国外からも来島者があるほどに、美術、建築が充実し、文化水準が高い島でも、図書館はないのかと意外だった。でも3,000人ほどの人口で図書館を持つのは難しいかもしれない。
でも本を確保するための取り組みは柔軟で積極的。
県立図書館の3カ所だけの巡回文庫の1つが町役場に置かれていて、年に4回、新しい本が配本される。
2007年には、距離は近いが隣県である岡山県の玉野市と協定を結び、利用料として年間5万円支払い、町民が玉野市の図書館を利用できるようにした。
2010年4月からは、高松市の移動図書館車が毎月1回、フェリーで海を越え、2つの公民館に巡回してくるようになった。
さすがという気がした。

バスを乗り継いで、石井和紘の小学校、中学校を見ながら、宮浦港に戻った。

□ 直島銭湯「I♥湯」(アイラブユ)
大竹伸朗のアート作品は銭湯!
廃材やら何やらを、色とりどり、にぎやかに組み立ててある。唖然とし、ほれぼれとしながら眺めていたら、前の家のおばちゃんがパンフレットを渡しながら説明してくれた。
僕はリノベーションかと思っていたが、かつてあった家を壊して駐車場になっていたところに、新たに作った新築物件なのだという。
湯船の底のタイルまでアートだというから入ってみたいところだが、とにかく暑い日で、でたあとの汗を思ってひきさがってしまった。

□ 海の駅「なおしま」
建築界のノーベル賞を受賞した妹島和世・西沢立衛が設計した港の待合所。
細い柱、透明な壁。穏やかな瀬戸内の港に似つかわしい。

* 宮浦港から高松港に渡る。
高松港に入るあたりで、左に観覧車が見える。宮脇書店総本店の屋上にあるもので、このあと行ってみようと思う。
宮脇書店の観覧車

●(夜) 豚のスペアリブ 冷や奴 生ビール(2,700円)
三越の近くにあるホテルに荷物を置いて、近くの店で食事をした。
鶏の店が多いのに、なんとなし豚の店に入った。
冷えた生ビールを飲み、小石大にカットされたうまいスペアリブを食べながら話を伺うと、高松はうどんが安い-生活費がかからない-貯蓄率が高い、のだそうだ。
つまり市民は金をつかわない。
さらに、支店経済の街なのに、瀬戸内海を渡る橋ができて、阪神から楽に日帰りができるようになった。東京あたりからでも、阪神に支店を置けば、四国に拠点を置かなくてもすむ。日本一のアーケードがあるが、ファッション系の店から飲食系に転換するところが多いという。
でもあちらこちらで寂れたシャッター街を見た覚えがあるなかでは、高松は元気がいいように思う。

■ 宮脇書店総本店
香川県高松市朝日新町3-4 tel. 087-823-3152
http://www.miyawakishoten.com/

暑い中を動いてきた疲れが回復したので、(それでもバス路線を調べたりする元気はなく、タクシーを拾ってしまって)、夜9時まで営業している宮脇書店総本店に行った。
本屋の屋上にある観覧車はカラフルな照明が回転していたが、さすがに運転は夕方で終えていて、屋上には出られなかった。残念!

3階まである店舗はゆったりしている。
6000㎡超に60万点。
中央部に分野別の書棚がある。それを取り囲むようにして周辺部に出版社別の小区画が並んでいる。探しやすいし、さらに検索システムもあって、総本店の在庫状況と棚番号が表示される。
書棚の間隔も十分広く、ストレスなく本を探せる。
いい本屋だと思った。
「ゼンリン住宅地図センター」という部屋があった。こういう需要もあるのだろう。
香川県内の図書館数館に納本しているほか、香川県立図書館のカウンター業務や装備、修理を受託してもいる。

僕が暮らしている近く、埼玉県熊谷市の国道17号沿いに宮脇書店がある。
もとは熊谷名物の五家宝の老舗、水戸屋がドライブインを経営していた。都内発北行きのバスツアーはここで休憩したもので、僕も草津のテニス教室に行くのに寄ったことがある。
今は、高校のときの同級生が経営するがってん寿司の経営拠点が同じビルに入っている。何かとなじみがある場所だが、その書店の発祥の地で総本店があるのが高松だということは、最近初めて知った。

市街に戻るのに、店員さんに朝日町というバス停を教えてもらった。
たぶん埋め立て地の工場・倉庫地帯で、フェンスと大きな建物群に囲まれた、人けがない道で不安になりながら最終のバスを待つ。
やがて奇蹟のようにバスが現れて市街に戻れた。

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第2日 高松と犬島
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* 高松駅前でレンタカーを借りて、市街からやや離れたところを回った。

□ 瀬戸内海歴史民俗資料館
香川県高松市亀水町1412-2 tel. 087-881-4707
http://www.pref.kagawa.jp/setorekishi/

高松市街を西へ30分ほど走る。
瀬戸内海にせりだした半島状の五色台という景勝地にある。
香川県建築課の山本忠司が設計し、1975年の建築学会賞を受賞している。
工事中にでた安山岩を積み上げた石垣で、土地の斜面に応じた小平面を作っていく。それぞれに展示室を配置し、階段状の通路でつなぐ。複雑な山城のような構成で、沖縄のグスクを思わせる。最高部の展示室の屋上からは、瀬戸内の穏やかな海を眺められる。
建築が土地に薄くかぶさったかのように作られていて、いい感じだ。

名建築という評価はきいていたが、内部の展示もすばらしかった。
モノがゴロっとある感じ。
ミュージアムに展示すると、きれいにおさまって、現物も資料写真も等価であるかのように平板になってしまうことがよくあるが、ここではモノがいきいきとしていて、見る者の好奇心を呼び覚ましてくれる。

最初の展示室には数艘の舟が並んでいる。壁は斜めに傾いていて、天井は木材を格子に組んでいる。内藤廣の「海の博物館」(1992)は、この資料館から大きなヒントをえていたろうかと思う。
天井には雨乞いの龍が、自然系博物館の恐竜の展示みたいに長くくねる形で吊されていて、階段を上がる途中でギョロっとした目玉で迎えられるのがおかしい。
瀬戸内の海底からは、ナウマン象の化石も出れば、沈没船から備前焼もでてくるとか、わくわくさせられた。
新しいミュージアムでは当たり前のような映像やコンピュータによる仕掛けは、ここにはない。それでもこんなに魅力的な展示ができるものかと、新鮮な感慨を受けた。

■ 香川県立図書館
香川県高松市林町2217-19 tel. 087-868-0567
http://www.library.pref.kagawa.jp/

高松に来る前に、埼玉県立熊谷図書館で、『空港跡地遺跡 9 (空港跡地整備事業に伴う埋蔵文化財発掘調査報告) 』という記録書を見かけた。
一瞬、「空港遺跡」が発掘されたのかと錯覚した。新橋駅が発掘されるくらいだから、空港が発掘されることも全くありえないことではないだろう。でも、廃止された空港の土地に、もともと埋蔵文化財があり、その調査報告だった。
高松市街の南部にあった高松空港は、戦時中に作られた軍用飛行場を改装した空港だったが、滑走路が短いことと、市街地・畑地に隣接していることから、1989年に、さらに南方に移転した。
移転であいた土地には、1993年に香川県立図書館が市街中心部から新築移転したほか、香川大学工学部、企業の研究所などが建てられた。
今でもGoogleの航空写真を見ると、図書館周辺の土地は長方形にくっきりと滑走路の形を残している。
戦中には、地中の文化財への配慮の余裕もなく飛行場が建ってしまったのだろう。
周囲の状況から、空港跡地に文化財があることが予想され、実際に、弥生時代の竪穴住居跡や土器、奈良・鎌倉期の掘立柱建物跡などが発掘された。

SF的空想の話だが、やがてやがて数十年とか、数百年とか経ったとき、図書館が解体されるとか何かの都合で地中を掘ったら、ふたたび空港が遺跡として発見される、なんていうことがあるかもしれない。滑走路が何mだったとか 管制塔の基礎の鉄骨が何本、何mの間隔で置かれていたとか。ここから当時の飛行機の滑走距離、性能が推定されるとか。
2010年3月の教育委員会では、香川県立図書館長が出席して、図書館は「30年間の設計となっており、15年経過しているので、あと15年は対応できる」と発言している。資料を後世に残していくべき図書館にしては、ずいぶん想定の年数が短い。空港が発掘される日はそう遠くないかもしれない。

柴川敏之さんというアーティストは時間に関わるアート作品を作っている。
今の暮らしにある日常品を石膏で作り、古びた着色をすることなどで「化石」にする。その化石を2000年後の「わたし」が見る、という遊びで、あらためて「現代」を考え直す。
柴川さんが図書館を会場にして、現図書館を化石にしたり、旧空港を化石にしたりというプロジェクトをしてくれたらとてもおもしろい。新図書館になってから15年たち、ここに空港があったことを知らないとか忘れているという人も多くなっているだろうから、図書館とか地域の歴史をふりかえる、インパクトのある企画になりそうに思う。

       ◇       ◇

現実の図書館は、香川県立文書館と同居していて、入口ロビーを入ると、左に図書館、右に文書館がある。
バブル期に計画された建築らしくといっていいか、広いロビーが大理石で作られている。
全体にオーソッドクスで重厚。
図書館内部も静かに上品にできていて、使い心地はよさそう。
市街から離れている点は大きな不便だと思う。

竣工 1993年 地下1階 地上4階
収蔵能力 開架22万冊 書庫100万冊
敷地面積 19,396㎡ 建築面積 6,422㎡
延床面積 14,120㎡(図書館9,562㎡ 文書館4,558㎡)
香川県立図書館の閲覧室

□ 高松市美術館
高松市紺屋町10-4 tel. 087-823-1711
http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kyouiku/bunkabu/bijyutu/

市の中心部に戻り、有料駐車場に車を置き、美術館の隣のうどん屋で昼食をとる。
●(昼) ざるうどん あじ天 ごまむすび(550円)

美術館では、企画展『森村泰昌モリエンナーレ まねぶ美術史』を開催中だった。
有名人にアーティスト自身が扮して撮る写真作品で知られる人だが、それ以前には、美術史をたどるように特徴ある作家の作風をまねた絵を描いていた。まねられた作家とまねた作品を並べて展示してあり、おもしろい企画だった。

* レンタカーを返して、高松港近くにある「瀬戸内国際芸術祭2010」作品に行った。

□ 椿昇「ピー・アール・オー・エム」

高松港のもとの待合所 かつて高松港の管理事務所だった建物の正面外壁の一部がミラーパネルで覆われている。写真を撮ってみると、周囲の風景を映してしまって、建物の存在が見えなくなってしまう。

もとは1927年に竣工した香川県高松港港務所で、県営桟橋の待合所であり、券売所であり、事務所であった。
壺井栄の『二十四の瞳』で、大石先生が松江と涙の再会をする「桟橋の待合所」はここのこと。
2001年に、高松港旅客ターミナルビルが完成し、こちらは閉鎖された。

* 高松港から犬島に高速船で渡る。所要30分。(維新派の公演を見るには、往復の特別便をあわせて予約してある。)

□ 「瀬戸内国際芸術祭2010」犬島地域
建築家・妹島和世が設計し、キュレーター・長谷川祐子がアートディレクターをした「家プロジェクト」を見て歩きながら、途中にあった民家兼食堂にような店で、
●(夕) サラダうどん(600円)
をとる。

□ 犬島アートプロジェクト「精錬所」


かつての銅の精錬所の遺構を保存、再生したアートスポット。
三分一博志の建築と柳幸典のアートワークが結んで希有なアート空間ができた。
犬島の精錬所。廃墟に高い煙突が立つ。

ここを見て歩いていると、他ではえたことがない新鮮で強烈な感覚があり、空間的にも時間的にもはるかな思いに誘われた。
柳幸典は国際的に活躍しているが、あちらこちらに制作機会を与えられて漂うだけでなく、確かな根拠地を得たいと思っていた。予感があって瀬戸内の島を巡っていて、この精錬所跡に行き着いたという。探検家がアンコールワットを発見したような感動だったのではないかと思う。

□ 維新派公演 『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』
http://www.ishinha.com/index.php

その犬島精錬所跡に野外特設劇場を設けて維新派の公演があった。
入口付近には屋台村ができている。アジアか中近東のバザールのような、わい雑な雰囲気で、熱気がむんむん。
長いスロープを上がって客席に向かう。

「《彼》と旅をする20世紀三部作#3アジア篇」という位置づけ。
近代日本のアジアでの足跡がたどられる。
明快な話の筋はない。音楽に乗り、ダンスのように演じる役者たちから、年表的な事項が、断片的に発せられる。物語ではなく詩。正史ではなく拾遺。連続ではなく断片。
こういうのは、ノルかハズレルかだが、今日はハズレた。

18時30分に公演が始まるときには、まだ昼間の明るさ。
やがて煙突の向こうに日が沈み、舞台にいくつも立つ街灯の明かりがくっきりしてくる。
煙突のてっぺんあたりに見えてきた星は、公演が終わる頃には、半ばくらいの高さまで沈んでいた。
装置は魅惑的だった。

* 犬島港を20:45発、公演用のチャーター船に乗って高松港に戻った。

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第3日 小豆島
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* 高松港7:50発の船で小豆島の東部にある草壁港に渡る。4時間1000円の貸自転車を借りる。

□ 岬の分教場・二十四の瞳映画村・壷井栄文学館
http://www.24hitomi.or.jp/

内海(うちのみ)湾をUの字形にぐるりと回って、草壁港の対岸に向かう。
9kmというから、僕が毎日自転車通勤で走っている片道距離くらいだから、たいした距離ではない。でも小さい岬ごとに道がゆるやかに坂になっているし、日射しが暑い。40分くらいかかって着くと、汗が吹き出した。
壺井栄『二十四の瞳』(1952)の大石先生が岬の分教場に通ったのと同じ道を、ほぼ同じくらいの距離を走ったことになる。

二十四の瞳の分教場 岬の分教場として有料公開されているのは、『二十四の瞳』の舞台となった学校。1954年に木下惠介監督、高峰秀子主演の映画のロケにも使われた。木造、平屋、3教室あって、2学年づつが1つの教室を使っていた。

700mほど先に、二十四の瞳映画村がある。
1987年に田中裕子主演で再映画化された。道が舗装されたりして、前の分教場では風景が時代にあわなくなっていたので、撮影用のセットが作られ、その後テーマパークになっている。

この中に、壺井栄文学館がある。生涯を紹介する展示や映像があり、『二十四の瞳』の原稿やゆかりの品が並んでいる。

□ 戎神社・郵便局
戻る途中で坂手港方面に寄り道する。
壺井栄の生家は今はないが、隣にあった戎神社は今もある。小さな家が3軒並ぶうちの、中央の家ぶんの土地に神社がある程度の、小さな神社だった。
斜め向かいくらいに、壺井栄が一時勤めた郵便局があるが、建物は建て替わっている。
栄が通った坂手小学校は、今は笛羽(のうま)小学校に統合され、建物も残っていない。

●(昼) 森國酒造 まかないカレー(900円)
小豆島唯一の酒メーカーがカフェ&ギャラリーを併設している。
のどかな島にいきなり!という感じのシャープなインテリアで、デザイナーをお聞きしたら、高松で倉庫街をリノベーションした北浜alleyのUMIEの人だという。(あとで行ってみたかったが、時間がなかった。)

□ マルキン醤油記念館
210円を払って見学すると、醤油の小瓶を1本、おみやげにくれる。ここで
●(茶) しょうゆのソフトクリーム(400円)
を食べてみたが、あまり醤油を感じなかった。

■ 小豆島町立図書館
香川県小豆郡小豆島町安田甲24-1 tel. 0879-82-0291


新しく、コンパクトに整理されて、親しみやすく、使いやすそうな図書館だった。
小豆島図書館の正面

壺井繁治と壷井栄には特別なコレクションがあった。
ガラスケースには、網野菊、上林暁、倉橋由美子、井上光晴、原田康子などという作家たちから寄贈された本が収められ、壺井家から図書館に寄贈された図書が書架をきめて公開もされている。
(道順を追って書いてきたが、実は、図書館で戎神社の場所を教えてもらって、このあと通り過ぎていた坂手港方面に引き返した。暑いのに、片道15分ほどの距離を、もう一度往復した。)

* 草壁港で自転車を返して、バスで途中下車しながら西の土庄港に向かった。

●(茶) 小豆島オリーブ公園 ハーブティー(400円)
オリーブ公園の記念館の2階にカフェは眺めがいい。
内海湾を隔てて、岬の分教場方面を望む。
このあたりが『二十四の瞳』の大石先生の家があったと想定されている位置になる。
さっき走ってきた海岸沿いの道を眺めて、暑いのによく走ってきたと、ひとりで感慨し、ハーブティーの香りで蘇生する。

□ 「瀬戸内国際芸術祭2010」小豆島地域

島の西よりの地区に芸術祭の作品が集中している。野や畑の中を、山の中腹に白い大きな小豆島観音が立っている眺めながら歩いて行く。
安岐理加(あきりか)の「森」という作品は、木の枝の間に四角い箱をセットして、大仏が額の中の絵であるかのように見せている。しかも箱の底の面は鏡なので、空にそびえる観音が、水中に逆立ちしているように映っている。愉快な着想に拍手!

『晴れた日は巨大仏を見に』という、全国の巨大仏をめぐる本があって、著者は最後に小豆島を訪れている。とりあげているのは、奈良の大仏のようなまっとうなのではなく、現代に作られた、作った人はまっとうでも、他人からはキッチュに見えかねないのばかり。
『晴れた日は図書館へいこう』という本もある。
晴れた日に大仏を見に行くか、図書館に行くか、迷うところだ。

■ 「土と生命の図書館」-廃校の図書室

栗田宏一の作品は「土と生命の図書館」と名づけられている。
栗田は、多くの地点で採取した土を並べて展示するアーティストで、博物館ならわかるけど、図書館というタイトルはズレてるように思った。
でも展示会場が旧大鐸小学校という廃校の図書室で、なるほどと納得した。

今回は瀬戸内海に流れこむ川ごとに採取していて、採取地点は中国・四国から九州にまで及ぶ。350の市町村、600種類。
茶色とか黒とかだけでなく、明るいオレンジや黄色いのもあり、色相、濃淡、明暗、さまざま。こんなに変化があるものかと目を見張る。
たくさんの"四角い紙に置かれた各地の土"

図書室の蔵書は今も書棚にあって、立派な函入りの壺井栄全集だの、大平正芳全集だのがある。(大平正芳は観音寺市の出身)
小学校の図書室としてはかわったところでは、農村歌舞伎の盛んな土地柄から、『演劇界』『名作歌舞伎全集』なんていうのがある。
今も歌舞伎の練習にここを使っているとのことで、その台本も棚にあった。

* 土庄港近くの民宿に泊まる。食後に散歩した。

□ 土淵海峡(どふちかいきょう)

ギネスブックに「世界一幅の狭い海峡」として認定されているという土淵海峡を見に行った。いちばん狭いところは幅は9.93m。
小豆島は子犬の形をしているが、頭の部分は海峡で隔てられているわけだ。
密集した都市の中を流れる隅田川は人工水路のように見えるが、この海峡も、知らなければ自然の地形のように思えないところだった。
そもそも海峡の定義が「陸地によって狭められている水域のうち、定期的な船舶の航行があるもののこと」というのであって、人為的な要素が条件に含まれている。

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第4日 男木島
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* 土庄港からいったん高松港に渡り、船を乗り継いで男木島(おぎじま)に渡る。

□ 「瀬戸内国際芸術祭2010」男木島地域

高松市に属して200人ほどが暮らす島。港近くの狭い範囲に、石垣を築いて立体的に入り組んで構成された、小さな集落がある。
中西中井が石垣に張り付かせた1/8の架空の街とか、鏡を使って公民館の内部をすっかり1枚の風景画にしたてた大岩オスカールの作品など、おもしろかった。
そうして点在する作品を見て歩くのが楽しみの半ばで、野外美術展の最大の楽しみは、歩いていくうちに集落の風景が次々に展開していくことにある。
こういうイベントでもなければ来なかったような土地、歩かなかったような路地に導かれる。
アーティストが発見する目というのはたいしたもので、その発見に助けられながら、あとから歩く人もそれぞれに新鮮な風景、新鮮な感動をえていく。
いい島だった。

* 男木島からまた船に乗って高松港に戻る。ちょうど昼どきになっている。

●(昼) 公楽食堂

『高松大衆食堂』というフリーペーパーが、讃岐うどんばかりじゃ飽きるでしょと、25もの大衆食堂を紹介していた。
そのなかから、かわった名前の店に行った。
高松駅の真正面。かつて国鉄四国総局とか旧高松駅の職員がしきりに利用していたという由緒ある店で、今も「てっちゃん」が昔をしのんで訪れるという。
ご飯とかうどんとかを注文して、あとは皿に盛った一品料理を好きなように選んでとる。
うどんと焼き魚とカボチャ煮などで600円ほどだった。結局うどんを選んでしまったが、讃岐の名店でなくてもさすがにうどんがうまい。

* 高松築港駅から2両編成のコトデンに乗り、瓦町で志度線に乗り換え、30分ほどで塩屋駅に着く。そこから徒歩5分に記念館がある。

□ ジョージ・ナカシマ記念館
香川県高松市牟礼町大町1132-1 Tel.087-870-1020
http://www.sakurashop.co.jp/nakashima/

ジョージ・ナカシマ記念館の正面玄関
1948年創業の桜製作所が運営する、家具デザイナーのジョージ・ナカシマ(1905-1990)の記念館。

軽く寄り道したつもりだったのだが、僕が久しくテーマにしている井上房一郎とレーモンドに関わりあって、驚いた。
井上房一郎の足跡をたどると各地に痕跡があり、いくら飛び回っても釈迦の指を越えられない孫悟空のような気分になることがある。

ジョージ・ナカシマはアメリカで建築を学び、1934年に、日本でレーモンドの事務所に入った。展示されているレーモンド事務所での写真には、前川國男、吉村順三などとともに写っている。見たことがある写真だが、ナカシマのことは意識していなかった。
レーモンドの事務所では、軽井沢の聖パウロ教会の仕事に関わり、椅子の製作を指揮したという。
建築から家具デザインに方向を変えたのは、ライトの建築を見て回っているうちに施工が粗いことに失望し、自分で作ることに目が向いていったからという。
1942年には、アメリカにいて、日系人キャンプに収容される。
1943年、レーモンドが身元引受人になってくれて収容所から開放された。レーモンドの農場で暮らすうち、支援者が現れ、土地を手にいれることができ、その後の活動の拠点となった。
それほどレーモンドと関係が深い人だった。

記念館の豊田洋一さんに話を伺い、いくつかの椅子に実際に腰掛けて、ナカシマのデザインにふれた。もと建築家だから構造には強いし、幼い頃から親しんだ木への感性も鋭い。暑い日だが、すっと気持ちがまっすぐになるような、すてきなデザインの椅子だった。

井上房一郎とレーモンドとタウトについて、しばらくおっかけをしているが、終わりが見えてくるどころか、ますます境界が広がっていく。道の遠さにため息がでるようでもあり、視界が拡大することが悦ばしくもある。

→[山を歩いて美術館へ]

■ 甲村記念図書館-時間切れで幻のまま

村上春樹の『海辺のカフカ』には、高松市郊外にある甲村記念図書館というとても魅力的な図書館が登場する。2両連結の電車で海沿いを走っていくとあるから、コトデン志度線のことと見当をつけていた。
記念館のあと、どんなところか行ってみようかと思っていたのだが、記念館で思いがけずゆっくりしたので時間がなくなってしまった。

* コトデン志度線で市街方面に戻り、瓦町駅で降り、中央公園の周囲を時計回りに建築ウォッチング。

□ 百十四(ひゃくじゅうし)銀行本店
http://www.114bank.co.jp/

日本を代表する現存する近代建築として、2003年に選定されたDOCOMOMO100選のひとつ。設計:日建設計、施工:竹中工務店、1966年。
緑色の外観で、風変わりな存在感がある。
中央公園の東にある。

□ 桜製作所
http://www.sakurashop.co.jp/

中央公園の南側には、ジョージ・ナカシマ記念館の運営母体である桜製作所のギャラリー兼販売所がある。
戦後まもなくに創立し、復興期の需要にこたえて成長したという。
すぐそばの香川県庁舎でも、入ってすぐ左にある棚が桜製作所製であるとうかがった。

□ 香川県庁舎
http://www.pref.kagawa.jp/

中央公園の西に少し離れて香川県庁がある。
丹下健三の1958年設計の名建築で、こちらもDOCOMOMO100選に選ばれている。
なるほど左に桜製作所の木製の棚。陶版画は猪熊弦一郎。イサム・ノグチの彫刻もあり、ご当地のオールスターが勢揃いしている。

■ 香川国際交流会館(アイパル香川)-会館でも月曜休館
http://www.i-pal.or.jp/

中央公園の西北の角にある、旧・県立図書館。
芦原義信の1963年設計で、いかにもその頃の図書館らしく、公園の中に落ち着いたたたずまいである。
今は国際交流関係の施設になっている。
中を見たかったのだが、図書館の伝統を引き継いだかのように月曜は休館で、残念ながら中に入れなかった。
元の香川県立図書館

中央公園をひとまわりして名建築めぐりをした。
1950年代から70年代にかけて、香川では集中してよい公共建築が作られた。県庁建築課の山本忠司が、郊外に瀬戸内海歴史民俗資料館というすばらしい達成を成し遂げるのも、そうした時代の盛り上がりと無縁ではないだろうと思う。

その頃と比べてみると、移転した図書館のロビーはバブル的だった。東山魁夷の版画を寄贈されて知事が美術館を建てることを約束し、本当に建ててしまったこともある。(東山魁夷は本来の版画家ではなく、その版画は本画をもとに制作された複製にすぎない。)
財政に余裕がある時代ではないのに、文化に関わるお金が有効に使われていない。かつて高い文化レベルにあった緊張感が衰退しているような気がする。

* 中央公園の東側に戻り、百十四銀行の前から高松空港行きのバスに乗った。途中で、新県立図書館への入口交差点を通過する。

高松空港からの帰路も雲が多かった。
それでも、紀伊半島から海に出ると雲がきれ、中部国際空港が見えた。知多半島は上空から見るとあんなに細いのかと思う。
直島、犬島、小豆島、男木島と、それぞれに心に残った。
高松はせわしく通りがかることが多かったが、今回はかなり歩くことができた。
よい旅だった。
いつか甲村記念図書館(のような図書館)に行き着ければと思う。

(2010.8月 no.36)
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参考:

  • 『美術手帖2010年6月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2010』美術出版社 2010
  • 『空港跡地遺跡 9(空港跡地整備事業に伴う埋蔵文化財発掘調査報告) 』香川県埋蔵文化財センター/編 香川県教育委員会 2007
  • 『晴れた日は巨大仏を見に』 宮田珠己 白水社 2004
    『晴れた日は図書館へいこう』 緑川聖司 小峰書店 2003
  • 『高松大衆食堂』 瀬戸内国際芸術祭 ZENKON実行委員会 2010
  • The Soul Of A Tree,A Woodworker's Reflections, George Nakashima, Kodansha International 1988
    『木のこころ 木匠回想記』 ジョージ・ナカシマ/著 神代雄一郎・佐藤由巳子/訳 鹿島出版会 1983
    『自伝*アントニン・レーモンド』 アントニン・レーモンド/著 三沢浩/訳 鹿島出版会 2007
    *あとでレーモンドの自伝を確かめると、聖パウロ教会の項に「この仕事には非常に有能で熱心な助手、今では有名な建築家、工芸家のジョージ・中島がついていた。」と書かれていた。
  • 『海辺のカフカ 上・下』 村上春樹 新潮社 2002
  • 交通data:
    第1日
    羽田空港7:45-9:00岡山空港
    岡山空港09:10→940岡山駅09:54-10:09茶屋町10:14-10:28宇野
    宇野港11:00-宮浦港11:20 280円
    直島島内のバス4回利用 各100円
    直島(宮浦)17:00-18:00高松港 510円
    宮脇書店までtaxi 1020 朝日町バス停からバス 180円
    第2日
    バジェットレンタカー高松駅前店 約4,900円/4h ガソリン約800円
    高松港15:00-15-30犬島港21:00-21:30 公演用チャーター船 3,500円
    第3日
    高松港7:50-8:35小豆島(草壁港) 1140円
    レンタサイクル1000/4h 芸術祭1日バス券 700円
    第4日
    土庄港6:36-7:36(670円)高松港
    高松港8:00-8:40(300円)男木島11:00-11:40高松港(300円)
    築港駅-(コトデン志度線)-塩屋駅370円
    塩屋駅-瓦町駅340円
    香川銀行前16:20-16:50高松空港 バス690円
    高松空港17:40-18:55羽田空港
    [交通費合計 約18,500円(往復の飛行機を含まない)]
  • 宿泊data:
    ・ HOTEL WAKABA 2泊
    香川県高松市内町2-20 tel. 087-823-7177  9,800円
    ・ 地魚料理の民宿マルセ 1泊
    香川県小豆郡土庄町甲5978 tel. 0879-62-2385
    6,200円(1泊2食 生ビール、冷酒を含む)
    [宿泊費合計 16,000円]
  • チケット:
    [5,930円] (芸術祭パスポート前売り4,000 高松市美640 映画村790 ジョージナカシマ記念館500)