美馬市立脇町図書館・徳島県立図書館


高松空港から出発して、徳島、淡路島、神戸、西宮とめぐった。
いつか行きたいと思っていた図書館を訪ねながら、司馬遼太郎+須田剋太の『街道をゆく』をたどる旅の第1日目。

第1日 美馬市立脇町図書館・徳島県立図書館
第2・3日 洲本市立洲本図書館
第3・4日 神戸市立中央図書館・関西学院図書館・神戸女学院図書館


『街道をゆく』阿波紀行では、図書館に関することが2つでてくる。
1つは吉野川の中流あたりにある、脇町図書館。
もう1つは、下流の徳島県立図書館長をつとめた蒲池正夫氏のこと。

1.美馬市立脇町図書館−うだつの街並み
2.徳島県立図書館−郊外の大理石の館

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 第1日 高松空港−脇町−徳島−鳴門
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初めに高松空港でレンタカーを借りて南下する。
脇町は藍製造で栄えた町で、うだつの街並みが落ち着いた風情をたたえている。

● 茶里庵 
昼時に着いたのでまず食事。そば雑炊セット1,000円。
そば雑炊は素朴な味わいで、底のほうに餅が入っていて、ちょうどおなかが満ちる。
女性店主が町の案内をしてくれる。古い芝居小屋があるとか、旧家が藍染めの展示をしているとか。

□ オデオン座
その木造の古い芝居小屋は現役で、中をのぞくと2階席が舞台と1階客席を囲んでいる。今日は親子映画鑑賞会があり、舞台の上にスクリーンが置かれていた。

■ 美馬市立脇町図書館
美馬市脇町脇町154-1 tel. 0883-53-9666

脇町は、吉野川の中流にあり、藍の生産と交易で栄えた豊かな町で、うだつが上がる家が並んでいる。
そこに混じってしっくいの白い壁に、白いしっくいで「図書館」と浮き彫りした建物があり、小路を入ると、中庭があり、それを挟んで図書館がある。
もと農協の土蔵群を、いるか設計集団独特の感覚でリノベーションしている。
土蔵時代の柱や袖壁が残っている一方では、積み木のような色とデザインの書架が配されている。
書架はうだつの家並みを模して「やなみ型家具」と名づけられている。

丸くくりぬかれた天井や、変形の窓や、みごとな曲線を描く手すりがついた階段など、目を楽しませてくれ、しかも過剰ではない。
旧建物の階段を一部だけ残してオブジェにしているのもおもしろい。(しかも下の集会室の明かり取りの機能ももたせている。)

司馬遼太郎と須田剋太が『街道をゆく』の取材時にここを訪れている。
美人の司書が大きな声を出す来館者にけなげな対応をしているが、2階の郷土資料の棚から脇町史をだして読んでいてもうるさくて頭に入らないと書かれている。2階の読書を妨げるほどの大声というのがよくわからなかったけれど、実際に来てみれば、2階というのはカウンターからはほぼ90度に方向を変えて数段の階段を上がっただけなのだった。
大きな声の主は何か不満があるのではなく、図書館ができたのがうれしくて大きな声をしているのだった。
ちょっと気になるので、今の司書さんに尋ねると、その「美人の司書が誰だったかはわからない」とのことだった。
週刊朝日が掲載されたのが1988年のことだから、もう20年以上前になる。

そのとき、須田剋太はこの図書館を2点描いている。
現・司書さんは『街道をゆく』に脇町のこと、図書館のことが記されているのはもちろんご存じだったが、週刊朝日にはこの図書館の絵は掲載されなかったので、須田剋太の図書館の絵のことは知らなかった。
『街道をゆく』は司馬遼太郎の文も須田剋太の絵もよく知られているが、週間朝日には須田剋太が現地で描いた作品全部が掲載されるのではないし、文庫本ではさらに点数が減るから、地元の風景や人がかかれていても、その地の当事者もご存じないことは他にもありそうだ。

話をきいたついでに、書庫を見せていただいた。
児童室の端にある白い漆喰が塗られた、図書館らしくない扉がアヤシイとは思ったのだが、あけて見せてもらうとやはり書庫だった。しかも内部はもとの土蔵の風情を残していて、そこに木造書架が並ぶ異質な壮観になっている。
高知県には「信用販売購買組合」の建物を転用したアンパンマン図書館があり、金庫の扉をあけると書架だったが、こういうのって楽しい。

遠くから来て初めて見た者には、図書館の新鮮な風景に驚かされたが、司書さんにきいた
「ここの人たちはこれが当たり前の図書館だと思っていて、外に出てほかの図書館を見ると驚く」
という話がおもしろかった。

こじんまりした図書館で、中にいて居心地がいい。立ち去りがたい感じ。何がいいのだろうと考えながら書架の間をウロウロと、本を見るわけでもなく行ったり来たりしていて、中も小路感覚なことにひかれていることに思い当たった。外の小路が、中まで続いているふうで、気持ちがしっとり落ち着く。 脇町図書館には細い路地を入る

*いるか設計集団の設計による図書館は、1987年に吉田五十八賞という、建築関係では重要な賞を受けている。
同じ設計者の建築をこのあと淡路島の岩屋中学校(1993)に見に行く。
九州でも緒方町立緒方町立緒方中学校(2000)の図書室を見て驚かされたことがある。
→[土佐に坂本龍馬と司馬遼太郎の足跡をたどる]
→[洲本市立洲本図書館・淡路市立岩屋中学校]
→[大分のポカポカ温泉とザンシン図書館めぐり]


● 川田光栄堂
うだつの家並みを歩いていて、お菓子屋さんに入る。もと呉服商という店は欄間に障子が張られている。
麦だんごなどの素朴な菓子のほか、ラグビー饅頭というニッキいりの菓子があった。
ここが四国のラグビー発祥の地だとのこと。
少し西に行くと、万延元年にフットボールをした谷間の村があるから、共通の雰囲気があるのかと思った。

● 松下食品店
開け放しの店先でとうふ田楽が香ばしいので1本買って、中で食べさせてもらう。
お茶をいれてくれる。
元気なじいちゃん、ばあちゃんが数人。
「どっから来た?」「埼玉から」「よく来てくれた」というような話をしていたら、ほかに饅頭までおまけしてくれる。
表を人が通ると威勢よく声をかける。
小学生には「学割にするから寄っていけよ!」
まちを愛する人、よくしようという人があちこちにいて、景色もいいし、人もやさしく、なごませてくれる。

□ 徳島県立近代美術館
徳島市八万町向寺山1 文化の森総合公園内 tel. 088-668-1088
http://www.art.tokushima-ec.ed.jp/

吉野川に沿って東に下り、徳島市に出た。
市街地の南約5kmの小高い丘に美術館と図書館が、90度の角度で並んである。市街からバスの直行路線はなく、一度乗り換えなくてはならないようだ。ちょっと不便。
美術館では所蔵作品の人気投票のベスト100展を開催中。
「人気」という評価基準で作品を展示するのは、美術館の企画展としての位置づけはなかなか難しく、簡単なようでいて、なかなか実現しがたいもの。よく思い切ったという気がするが、やはり並んだ作品を見て、「それがどうした」という感じになった。

■ 徳島県立図書館
徳島市八万町向寺山 文化の森総合公園内 tel. 088-668-3500
http://www.library.tokushima-ec.ed.jp/

美術館と対峙する、重厚なつくりにしてある。
閲覧室は2階で、1階入口のあたりは大理石の塊が空間を狭め、やや重すぎる印象を受ける。

司馬遼太郎+須田剋太の『街道をゆく』には、徳島県立図書館長だった蒲池正夫(1907-1975)のことが書かれている。徳島新聞社論説委員から、1940年に徳島県立図書館長となり、1962年には郷里の熊本県立図書館長に移った。
図書館の枠におさまってしまわず広い文化的活動を目指したことと、1954年に日本図書館協会が「図書館の自由」宣言を定めたが、理念的なことより現実的な対応が必要という観点から、宣言に反対の立場をとったことで知られる。

県立図書館の棚に、没後編まれた『蒲池正夫選集』があり、同じ箱に『追想の蒲池正夫』という蒲池への追悼文を集めた別巻が組まれていた。
司馬遼太郎は『その豊醇さ』という文章を寄せ、蒲池の広く深い見識とユーモアの感覚をたたえている。
私は土佐人でイゴッソウを気取ったり、肥後人でモッコスを気取ったりする人がにが手だが、蒲池さんはそういうことからおよそ遠い人であった。
偏狭を厭う司馬の感性がうかがわれる文章だ。

徳島県立図書館の書架の並び

● リゾートホテル モアナコースト
徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字高砂186-16 tel. 088-687-2255
http://www.moana.co.jp/index.html

鳴門市と淡路島の間は半島と島、陸と海が複雑に入り組んでいるが、そのうちの東海岸にあるリゾートホテルに泊まった。
部屋は3層あって、中層にベッドなどが置かれている。
下の階に降りると庭に出られる。
上の階に上がると外に出て、この部屋専用のジャグジーバスがあり、海を眺めながら至福の時・・・のはずだったのだが、小雨が降り、寒くて、諦めた。
レストランで結婚披露宴があったあと、着飾った人たちが表にでてくる。ホテルの人に教えられてテラスで待っていると、まもなく花火が上がった。
はなやかで、豪華。こういう盛り上げ方をするのか!!

モアナコーストの朝の眺め 翌朝は晴れた。

(2010.10月 no.47)
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参考:

  • 『建築における場所と主体性の回復をめざして』 重村力 「新建築」1986.10月
  • 『街道をゆく 32』 司馬遼太郎/著 須田剋太/絵 朝日新聞社 1989
  • 『須田剋太『街道をゆく』挿絵原画全作品集』 木村重信/監修 社団法人近畿建設協会・大阪府生活文化部文化課学芸班/企画・編集 社団法人近畿建設協会/発行 2000
  • 『万延元年のフットボール』 大江健三郎 講談社 1967
  • 『蒲池正夫選集』 蒲池正夫/著 蒲池正夫顕彰会 1980.03
  • 『「図書館の自由宣言」成立についてのメモ―蒲池正夫の意見と図書館界への影響―』 新孝一 「地域に生きる博物館」徳島博物館研究会/編 教育出版センター 2002 所収
  • 『浪江虔ロングインタビューに載せなかったはなし 「羽仁問題」の真相』東條文規 「ず・ぼん6」 ポット出版 1999 所収