韓国の図書館−図書館は社会のインフラ


□ 明治大学アカデミーホール「第95回全国図書館大会」

全国図書館大会に行った。
去年は神戸だったが、今年は東京で変則的に1日の日程で開催された。
午前中の全体会の会場は明治大学のアカデミー・コモン。建物の外にはみ出したような透明なエスカレータを上がる。ポンピドー・センターを思い出した。

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記念講演 柴田信
「本−ひと−街 本屋だから見える街づくり

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柴田信さんの話:
(信山社代表取締役 本の街・神保町を元気にする会理事・事務局長)

はじめ国語の教師になったが、本屋に転職し、池袋の芳林堂書店に勤めた。高度成長期で本もどんどん売れた。
やがて本の販売は衰退期に入る。
本屋も図書館も、本を仕入れる、選書に生きがいがある、本質があるはず。「いる」か「いらない」かの選択にかける。
ところが流通のシステムが発達して、仕入れのところが効率的、画一的になり、ブラックボックスに入ってしまった。本屋の志のありようが揺らいでくる。

停滞から脱するために、信山社は2005年に三省堂と在庫を開示する企てを始めた。ネットで結んで、こちらに無い本はあちらに紹介する。
型破りな試みだが、社内で諮っておもしろがるようならやろうと思って提案したら、おもしろいと言ってくれた。
大きな三省堂にのみこまれるのではないかという危惧があったが、予想に反して、こちらに紹介されてくるほうが多いくらいだった。
利用者にも好評だし、話題になった。

2006年に「神保町をげんきにする会」を始めた。
国立情報学研究所がつくった「BOOK TOWNじんぼう」や、「ナビブラ神保町」も好評で、順調に発展してきた。
でも神保町は道半ば、まだやれると思っている。
大事なことはこんなことだと考えている。
・身近なところから ・狭く ・りきまない ・おもしろがる

今回の図書館大会のスローガンは
 「図書館は力 人・本・情報・まちづくり」
としているが、私たちの会のスローガンは
 「本の底力を信じる 人が好き まちが好き」。
こういう志をもってやっていきたい。

沈滞したときは旧来のものを破ること、新しいことを進めていくときはおもしろがるノリがあるべきこと、本と人とまちへの志を持つべきことを言われて、いい話だった。

参考:

● 漢陽楼

会場で配られた神保町の案内地図にあった周恩来ゆかりの中華料理店に、昼を食べに行った。
周恩来が留学中に作ったらしい詩が壁にかかっていた。
神楽坂に住んで、この店に食べに来ていたという。
建物は当時のものとは建て替わっている。

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第10分科会 躍進する韓国の図書館に学ぶ
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昼食をとってから、午後の分科会に参加した。

・白井京氏の報告「日本と韓国―隣の国でもこんなに違う図書館」
 (国立国会図書館 調査及び立法考査局海外立法情報課 調査員)
・尹熙潤(ユン・ヒユン)氏の講演「韓国の図書館政策の軌跡と方向」
(大邱大学校文献情報学科教授、韓国図書館協会理事、大統領所属図書館情報政策委員会委員)

韓国では1963年に最初の図書館法が制定されたくらいで、図書館の整備は遅れていた。
段階的に法律は改正されたが、国家プロジェクトとして強力に推進されることとなったのは、金大中大統領が、「韓国の図書館がいかに貧弱か」という内容のドキュメンタリー番組を見て危機感をもったのがきっかけだという。
2000年には、大統領の提唱により大統領直属の「図書館情報政策推進委員会」が設置された。5年毎に「図書館発展総合計画」を作り,それに基づいて中央と地方自治体がそれぞれ年次計画を立て、実行していく。

2008年版「図書館発展総合計画」では、公共図書館を、2009年700館から2013年には900館に増やすことが計画されている。
5年で200館増!
その「図書館発展総合計画」のタイトルは「先進一流国家を先導する図書館」であり、韓国における図書館は「国の発展に直結する情報資源を統括する社会機構」であり、「国の繁栄の基盤を形成する基本的な施設」と定義されている。

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話をきいていて、またフランスのことを思った。1980年代にミッテラン大統領はパリを文化的に再生するグラン・プロジェを始めた。
僕は1987年に安田火災東郷青児美術館で開かれた「パリ都市計画グランド・プロジェクト展」を見て初めて知り、とても興奮した。歴史的文化財や観光資源がゴロゴロある都市で、さらに活性化しようとする都市創造計画を始める!
大統領が、都市を生き生きさせるのは文化だと考えて、先頭に立つ!
それがやがて新ルーブルや新凱旋門に続き、1994年の新国立図書館完成にいたる。
残念ながら日本にはミッテランや金大中のような人がいない。

「図書館はまちづくりに必須の施設」だと僕は考えている。
今「まちづくり」というと、地域の資源を生かして元気のない町を活性化することととらえられる例が多いようだ。
そういう役割を図書館が担うことも含めて、より根本的、一般的に、「図書館は社会のインフラ、図書館の経費は未来への投資」だと思う。
財政に余裕があればいくらかの金を回してもいい限定的な文化政策対策などではなく、将来の社会を担う人を育てる根幹の施設、真っ先に資金を投入すべき施設であると思う。
そういう視点をもっていなくては、図書購入費の削減にも、指定管理者導入の動きにも対抗できない。図書館評価にしても、目標が定まっていなくては評価はできない。ベストセラーを揃えて貸出数が多ければよい図書館−のような、おかしなことになる。

午前中の全体会では、日本図書館協会建築賞の表彰があった。受賞した図書館の1つ、あきる野市東部図書館エルは、秋川市と五日市町が合併して誕生したあきる野市に作られた。その館長が受賞のあいさつで「新市の都市計画で’図書館はまちづくりの必須の事業’と位置づけられた」と言われていた。こういうまちが増え、国もそういう方針に立ってくれるといいと思う。
政権が交代して「モノからヒトへ」と転換するのだという。でも政策は薄いバラマキで、それなら税金を安くすればすむだけのこと。税を集めて大きな額にして将来をみすえた政策を実行するのが政治がすべきことだと思う。

質疑では、尹(ユン)さんから「委託」のことと、「200館増のための実際の予算確保」の2つが、最大の難関としてあるとのことだった。委託に関しては、日本の指定管理者制度が知れて韓国に移入されることも危惧されている。

韓国が軍事独裁政治だったころ、岩波の雑誌『世界』に『韓国からの通信』が連載されていた。思想と生活への厳しいしめつけの中でも、ひそかに、したたかに、民主制の実現を志す人の動きがあることが伝えられていた。その文章を読んでいると、自分は安全なところにいるのに息を潜めるような気分にさえなったが、またこうした人たちがいるということにうっすらと希望を感じていた。いつか韓国で状況が変われば、たなぼた式に民主制を実現した日本と違って、しっかり民主制が根づいた国になるなるだろうとも思った。
その独裁制に抵抗し、のちに大統領になった金大中が、図書館を国の基幹に据えようとする政策を始めたことに、正統で自然な流れを感じる。
韓国での図書館政策を、文言についてだけみると国家主義的な匂いが気にならないでもない。でも、自由な言論を封じられていた時代を生きた−それも直接に自身の口を封じられようとした−政治家の、自由な思想表現への希求があるのだろうと思う。
日本から韓国に指定管理者制度を輸出するのではなく、日本が韓国から「図書館がよい社会を作る」という信念を輸入すべきと考える。

今回の図書館大会のスローガンは「図書館は力 人・本・情報・まちづくり」だが、神保町で開催され、ゲストに神保町のまちづくりの人を招いてはいるが、分科会には「まちづくり」に関する内容はなかった。
韓国の状況を紹介する第10分科会だけが、図書館が社会の基盤形成に関わるという視点をもっているが、国内でどう図書館がまちづくりに関わるのかをテーマにしたものはなかった。

図書館が地域と生きた関係をもっているか。
人がここでよりよく暮らしていくのに、図書館が欠かせない場所となっているか。
社会に図書館が必須の存在と認知されているか。
そのためにはどのような図書館でなくてはならないか。
どうすべきか。
図書館大会では、こういうテーマの議論があってもいいのではないかと思った。

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□ 東京都現代美術館「レベッカ・ホルン展」+「ラグジュアリー・ファッションの欲望」「Swedish Fashion」+「井上雄彦 エントランス・スペース・プロジェクト」
http://www.mot-art-museum.jp/

などと大言壮語的なことを思いつつ、お茶の水−錦糸町と総武線に乗り、バスに乗り継いで東京都現代美術館に行った。
ちょうど明日から始まる展覧会2つのレセプションの招待状を受け取っていた。
18時には3階でレベッカ展のオープニング。
18時30分には、1階でファッション展のオープニング。
2つ重なったうえに、ファッション展の参加者は、ふだんの美術展では見かけないような業界関係者らしききらびやかな人たちまで大勢いてにぎやかだった。
(レセプションの軽食はすぐになくなってしまった。)

レベッカ・ホルンのあいさつ:
日本には1978年に初めて来た。今回はそのときの思い出を持って、やって来た。
皆さんを旅にお連れしたい。私の30年にわたる作品を見て回る旅です。
今日はたくさんいらしていただきましたが、またぜひ一人で静かなときに見てください。

ところが映像作品が多く、4室で映写されている。リストを見ると8本あって、合計が7時間ほど。完全制覇するには、もう1日美術館にひたりきる覚悟がいりそうだ。
(が、そんな余裕はないな...)

「井上雄彦 エントランス・スペース・プロジェクト」は、『スラムダンク』などの漫画家、井上雄彦が、和紙を貼った高さ7mの巨大な壁面に、『バガボンド』の人物を墨で描いたもの。
僕は原作に馴染みがないせいか、大きなイメージを見ても響いてくるものがない。
(『天才バカボン』だったら感動したかも...)

図書館大会の資料はたくさんあるし、レセプションでは重い図録を2つもらえるだろうから、ありがたいけれどとても重くなりそう。気をきかせたつもりでリュックを持ってきていた。ところが図書館大会は1日になったのでやや資料が少なかったし、図録は20%の割引券を手渡されただけだった。(さすがの都の美術館も厳しくなっているようだ。)
軽いリュックを背負って帰った。

(2009.10月 no.11)
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