第13回図書館総合展


パシフィコ横浜で開かれた第13回 図書館総合展の2日目(2011.9.10)と3日目(9.11)に行った。
どうも電子書籍が気にかかる。つい最近の全国図書館大会でも電子書籍の分科会に参加したのだが、停滞している印象を受けた。

こちらにも、2日目に、
■ 図書館政策フォーラム「電子書籍時代の図書館−次世代の文化創造に向けて」
というのがあり、まる1日かけたフォーラムがあった。
午前中は、先の図書館大会での報告と重なるところがあり、午後から参加した。
午後の内容は以下のように組まれていた。

「電子書籍と図書館-総務省の取り組み」松田昇・剛総務省情報流通行政局情報流通振興課統括補佐
「大学図書館における電子書籍サービスの挑戦」入江伸・慶應義塾大学メディアセンター本部
「札幌市立中央図書館の電子図書館実証実験」淺野隆夫・札幌市中央図書館業務化情報化推進担当係長
「角川グループの実践とこれからの電子書籍」角川歴彦・角川グループホールディングス取締役会長
論点整理「電子書籍をめぐる諸問題−出版業界と図書館界の利害調整の必要性」湯浅俊彦・立命館大学文学部准教授
パネルディスカッション「図書館における実践的電子書籍活用法」


慶應義塾大学の入江さんの話は、電子書籍に関して先行する大学図書館の様子で、大学と一般の図書館では条件が違うとしても、電子書籍が図書館に入るとどうなるかを予想させた。
・時間帯別利用統計をみると、深夜に山がある。早朝が底になるが、ゼロではない。
・大学では電子ジャーナルが普及しても図書の貸出数は減っていない。和書は紙のままだから。
・レファレンス資料、洋雑誌が電子化され、書架があいた。
・紙の本は買えば終わり。電子書籍はあとまで契約管理などが必要になる。
・電子書籍の管理は紙と全く異なる。経験とスキルが必要。
・電子書籍の普及により利用者の志向として
 opacからdiscovery へ。
 目録データの検索から全文閲覧へ。
 図書館から室内(インターネット空間)へ。
・図書館と電子書籍は相性がいい=図書館の本は一度きり読まない、調べる、買う前に読む。
 買う本は何回も読む。

総務省の松田さんによると、韓国、アメリカで半数の図書館が電子書籍を扱っているが、電子書籍は蔵書の1〜2%、貸出数10件程度(何につきか聞き落とした)で、千代田図書館と同じくらいだという。
「ネット上にない情報は存在しない」ことになりかねない現状がある。
「公立図書館における電子書籍利活用ガイドライン」を作成中とのこと。

札幌市中央図書館の浅野さんは、「図書館が元気になるために」電子書籍の導入を考えたという。
地元の出版社にも呼び掛け、協力を求めた。
利用者からの反応として、「人にも進めたい」と好評であり、「図書館にいかなくてもいい」「時間が限定されない」「衛生的」などのメリットがあげられているという。
「読む」から「活用する」へ、「本の館を守る」のではなく「本の世界を広げる」ことへと意識変革を訴えられた。

「図書館が元気になるため」という、図書館を最終目的とするような理由はおかしいと思う。
「衛生的」というのは、僕なども図書館や古本屋の利用にあたって、ふと気がかりになることで、なるほどと思う。(新しい本でも、本屋で開いた本に向けてセキしてる人を見かけることがある。)

角川書店の角川さんは歴史の中の電子書籍のことを言われた。今あるメディアは、本、ラジオ、テレビ、映画など、すべて技術革新で生まれてきた。グーテンベルグ以来500年ぶりの発明品である電子書籍を育て上げたい。
ただ、これまでの事情もあるから時間をかけて調整していく必要はある。

聴衆席にいた丸善のおぎ(?)さんが発言された。
かつて電車に乗っている人は本を読んでいたが、携帯を使った通信に代わられた。スマートホンの登場により、本にいくらか取り戻しつつあり、ビジネスチャンスを迎えている。電子書籍が利益になることを実証していきたい。
一方で、リアルに出会う場所も必要で、本屋や図書館の重要性は変わりない。

僕個人の経験として、IT化に大きな恩恵をうけてきたという実感がある。
ワープロの登場は、僕のような文章を書くのに不器用な者でも、前よりはよほど楽に書けるようにしてくれた。
僕はすらっと文章を書き進めていくのも苦手、原稿用紙の上で推敲を重ねるのも苦手。書きたいことを箇条書きのように書き連ねていって、はさみでひとまとまりごとの文章に切り、並べ替え、糊で順に貼りつけた。つまりワープロで当たり前のカット&ペーストを手作業でしていた。
それが簡単にマウスの操作でできるようになって、この程度の文章にしても、頭の中を整理しながら、楽に書いていけるようになった。
そしてインターネットにより、知識や情報を得やすくなり、しかもネット上のことだけではなく、リアルな人間関係も格段に拡大した。

電子書籍は、単に紙の本を電子媒体に置き換えるだけではなく、知を拡大することになるものだと思う。
角川さんは当然時間がかかることと言われるが、それにしても遅い、もっと早く動いてくれないかと思う。

■ スマート・シティ時代の図書館 ネット活用の学びあい拠点、ライブラリ・カフェ
3日目の午前は、犬塚潤一郎・実践女子大学教授の講演をきいた。
次々と興味深い内容が話されるのだが、僕のなかではひとつに焦点を結んだ理解にならなかった。

       ◇       ◇

以下はついでに寄り道した記録。
かつて住んでいたあたりをうろつき、ドヤ街に泊まり、うまいものを食べ、意欲的な美術作品を見た。

● 洋食ホシ
横浜市中区石川町1-18

石川町駅の近くに宿をとった。
石川町駅を降り、宿に向かう前に、もう日が暮れて暗くなっていたが、40年近く前に住んでいた麦田町に行ってみた。
本牧方向へ向かってトンネルを抜けてすぐのあたり。
祖母の友人のおばあちゃんが一人暮らししている家の2階に間借りしていた。
その頃、学生だったが、京浜急行の追浜駅前にある精神病院に4日に1度アルバイトに行っていた。大学では加賀乙彦が講義する精神医学を受講していて、その実習のようでもあった。病院に通うのに便利な横浜に住み、都内の大学に通学するより病院の方が近かった。

住まいはバス停のすぐ前で、バスから転げ落ちても家に入れるほど。
僕が暮らしていた頃すでに古びた趣のある家だったが、驚いたことに前のままの家が今もあった。
通りの向かい側に大衆食堂があり、3,4軒となりに銭湯があり、独身間借りには便利だった。
大衆食堂はなくなっていたが、さくら湯という銭湯は健在だった。
これもすぐ近くの麦田弘集堂書店も営業していた。こういう住宅街の小さな本屋さんが長く続いていることは、たいしたことだと思う。
ついさっきまでいた桜木町の港側の大変貌に比べ、このあたりの眺めはかつてとほとんど変わっていない。
2階は1部屋だけで広かった。元町の古道具屋で買ってきた大きな両袖の木製の机と、わりと大きいスピーカー2台をゆったり間をあけて置き、布団を敷いても、まだ歩き回れるほどの広さがあった。窓から見上げると丘の上のフェリス女学院が見えた。
こんなロケーションのあんな部屋にまた暮らしてみたいと思うほどに懐かしい。

石川町に戻って、駅の近くに数軒ある洋食店のうち、いちばん小さくてレトロっぽい店に入った。
入口のドアのガラスには「洋食ホシ」と昔ふうの文字が並ぶ。
中はテーブルが2つに、数席のカウンターだけ。
テーブルの1つにはスーツの男性3人。
男3人が囲むにはテーブルが小さが、頭を寄せ合うような感じで、何か皿の料理をつまみながらビールを飲んでいる。
もう1つのテーブルには、ややうらぶれた風情の、3人より高齢の男がひとり、背中を見せて食事している。
洋食店にはミスマッチのようだが、さすが港町という感じでもある。

スープとライスつきのハンバーグ定食が1050円。

● カフェ亀の橋
横浜市中区石川町3-108 メゾン田中2F

近くにミッション系の女子高が集中していて、石川町駅は通学時間は女子高生であふれるので有名。
「洋食ホシ」のある通りが「リセンヌ小路」と名乗っているのはいつからか。
僕が暮らしていた頃は、そんな名前はなかったと思う。
その小路をさらに西に行って、カフェに入った。
ここは何かの雑誌に、もとバーテンダーだった店主が開いた店として紹介されていた。
ビルの2階に上がると、狭い手作りインテリアの室内にゆったりと音楽が流れている。
窓際の畳敷きの席で、通りを眺めながらコーヒーを一杯。
かつては、横浜橋の「クレオ」や桜川橋の「塾」で、コーヒーしたことを思い出して、またシミジミする。

コーヒー500円。

● Hostel Zen
横浜市中区松影町3-10-5第3ホテル浜松荘5階
tel. 045-342-9553 http://zen.ilee.jp/

少し戻って亀の橋を渡る。女子高生が集中する駅から数分、おしゃれな元町商店街も近いのに、一転して簡易宿泊所が並ぶ一帯に入る。
横浜の寿町あたりは東京の山谷、大阪の釜ヶ崎と並んで日本三大ドヤ街といわれるところ。
楽天で横浜のホテルを検索していたら、こういう場所の宿がでてきた。
あえて横浜に泊まらなくてもすむのだけど、この宿にひかれて泊まることにした。
で、泊まって正解だった。
おもしろい。
10月に横浜トリエンナーレに来たとき、黄金町バザールに旅館を使った作品があった。「こんなところに泊まれたら」と思ったのだが、それが実現した感じ。

全体が簡易宿泊所のビルの最上階の5階を、ふつうに泊まりやすく改装して営業しているらしい。

1階からHostel Zenのコンセプトで模様替えしてある。神奈川大学曽我部研究室が、「Hostel Zen 学校化計画」というのをデザインして、ビル全体を学校に見立ている。
階段の蹴上げに年表が記してあったり、踊り場には捕虫網を立てかけてあり、壁面に採集してきた蝶やクワガタの標本が貼りつけてあったり。
階段に年表を記す

横浜トリエンナーレにあわせて、いくつかの部屋にアート作品を設置してあり、僕が泊まった523号室は塩津淳司の作品「The Tower of Babel」。
1つの面の壁に、蝶がいくつも舞っている。ふつうには黒いシルエットなのだが、部屋の照明を消して作品の照明スイッチを入れると、壁の向こうに光源があり、うしろから照らされて、蝶が貝の象嵌のように輝く。光源がランダムに点滅するので、一面の星空のようでもある。
近づいて見ると、蝶の1つ1つは、このあたりを写したと思われる風景写真なことがわかる。
おもしろいけど、タイトルと結びつかない。宿のパンフレットを見ると「描かれている蝶は人間の欲望が作り出した都市に舞う儚い命を表現しています」とあった。なるほどだけど、そういってしまっては説明的すぎる表現だし、それにしてはTowerの語感はちょっと違うのではと思ったり。

朝食つきで、飲み物はコーヒー、紅茶、牛乳、野菜ジュースから選ぶ。
トーストは好きなだけ焼いてくれて、バターと数種のジャムがある。
あと、バナナとゆで卵がついて、十分に充ちる。
これで、僕が泊まった部屋は広い方で3,800円。(狭い方は3,000円もある)。
屋上庭園があるし、シャワーやトイレもうまく配置してあるし、よくできている。

■ 神奈川県立図書館
横浜市西区紅葉ケ丘9-2 tel. 045-263-5900
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/

翌朝、図書館総合展に直行するには時間が早いので、9時開館の県立図書館に寄ることにする。
天気情報では雨だったが、まだ降っていないので、歩く。根岸線に並行していけば着くはずで、このあたりの土地勘はある。
寿町あたりでは、簡易宿泊所をねぐらにしているらしい人が通りのあちこちにいる。早くから営業している食堂は客でいっぱい。
大通り公園、伊勢佐木町商店街を横切り、橋を渡ってハモニカ型の都橋商店街に沿ってゆき、野毛を抜けて紅葉坂を上がって図書館に着いた。
新聞を見て、先日三渓園のことで調べに来たとき見落としがあるかもしれないと思って郷土資料の棚をひとまわり。
紅葉坂を降り、根岸線のガードをくぐって、パシフィコ横浜の図書館総合展に行った。

● 西洋料理 浜志
横浜市中区山下町2 産業貿易センタービルB1

図書館総合展3日目午前の講演をきいたあと、みなとみらい駅から地下鉄に乗って日本大通り駅で降りた。
雨が強く降り出していて、ビルの中を抜けようとシルクセンターに入った。地下でつながる産業貿易センターを行き、地下食堂街のすみにあるレストランに入った。
産業貿易センターには貿易、経済関係のオフィスやパスポートセンターなんかが入っている。12時半ころで、そこに勤めているらしい人たちで混んでいる。
カウンター席に座ると調理場のすぐ前。できた料理が猛烈な勢いでテーブルに運ばれていく。これはうまそうだという予感どおり、とてもうまかった。
日替わり定食は串カツとガーリックで味付けした焼肉。串カツのコロモのかりかりとした食感も、ガーリックの味付けも、とてもいい。
たまたま雨宿りにように入った店で大当たりだった。
食べ終えて支払いに向かうと、さっと770円を請求される。
悩みもためらいもしないで目指すテーブルに注文の品を次々に運んでいくのを眺めていてもスゴイ!と思ったのだが、これだけ客が動いているなかで、紙の伝票を持っているのでもないのに、すぐこの客は770円とひらめいてしまうのにも感嘆した。

■ 神奈川県民ホールギャラリー 『日常/ワケありEveryday Life / Hidden Reasons』
http://www.kanakengallery.com/index.html

「神奈川県民ホールギャラリー」なんて、ホールのついでに市民愛好家の作品を展示してるノンキな場みたいだが、実は鋭い企画をするところで、油断がならない。
半周しながら階段を降りていく吹き抜けの部屋に特徴があって、ここをうまく使うと格段に作品が生きる。

今回の展覧会には3人の作家が招かれて出品しているが、吹き抜けには田口一枝さんの作品が設置された。
銀やプラスティックやフィルムなど、光りを反射する素材を天井から吊してゆっくり回転させる。そこに光をあてるので、床や壁に光がたゆたい、ゆらめく。
床はすぐ足下にある平面なのに、反射する光が3次元的な層を作って回転し、深い宇宙の渦のように見えてくる。
吹き抜けに架かる空中の通路の下側にも光りが通り過ぎていき、天空に架かる雲のよう。

田口一枝の光りの作品

江口悟さんと播磨みどりさんの作品もそれぞれにおもしろかった。
たっぷりひたって、雨の中を来たかいがあった。

入場料700円

(2011.11月 no.84)
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