[世界を変えた書物]展


■ 金沢21世紀美術館[世界を変えた書物]展
金沢21世紀美術館 http://www.kanazawa21.jp/
金沢工業大学ライブラリーセンター http://www.kanazawa-it.ac.jp/kitlc/


日本経済新聞夕刊に2008.9.22から(たぶん)4回にわたる「図書館を遊びこなそう」という連載が掲載された。
金沢工業大学ライブラリーセンター館長の竺覚暁(ちくかくぎょう)氏へのインタビューが編集されていた。
僕には衝撃的な内容で、21世紀初頭に考えられる限りの理想の図書館かと思えた。
・システムとしてハイテクで先端的である
・その一方で、書物への敬意を持ち、「工学の曙文庫」と名づけて、工学系の稀覯書を体系的に集めている
・学生と教員の知的創造のために、図書館は自立した機関としてあり、館長が牽引して戦略的な運営をしている
図書館に関わることになる竺覚暁氏の生涯じたいが魅力的で、「町は書物に似ているんですね。町を歩くことは町を読むことです。」なんてことも言う。僕などが旅をして知らない町を歩き回るときの実感に、言葉が与えられた気がする。
「本のお守りをして、貸し借りの記録をして本が無くならないようにするというだけ」という、思想も戦略もない世の大半の図書館に駄目出しもしている。
そのライブラリーセンターをせひ見てみたいと思ったが、金沢は遠いし、利用資格が厳しい。

金沢21世紀美術館で友人の陶芸家、野口春美さんが出品されている展覧会があり、開会レセプションと野口さんの講演の日程にあわせて出かけた。すると美術館の別の会場で、金沢工業大学と北國新聞社が主催する[世界を変えた書物]展が開催されていた。「工学の曙文庫」から構成した展示で、金沢工大の貴重なコレクションの一端を思いがけず眺められた。



はじめに「建築書」の部屋があり(写真左)、ウィトルウィウスやパラーディオの書が、図が見えるようにページを開いて置かれている。
その先の広い部屋では(写真右)、”世界を変えた”書物が、項目を立てて数冊ずつ置かれている。
「ニュートン宇宙」ではケプラーやガリレイなど、「原子・核」ではレントゲンやキュリーなどの書があり、「アインシュタイン宇宙」には『一般相対性理論の基礎』など。
ニュートンの万有引力もアインシュタインの相対性理論も、抽象的なものに思えているが、世に現れた元になる書物があるということに、あらためて思い至る。
具体的なモノが存在することについ気づかずにいるのは、僕の欠陥なのか、多くの人に共通することなのかわからないが、前にも国立公文書館で日本国憲法の公布原本を見たときや、外務省外務省外交史料館で日米安保条約の原本を見たときに、ハッとしたことがある。
抽象的な記号のようだったものが、実体として目の前にある−ということはちょっとした感動だった。
それにしても、今後はハイテクと実体とがどういう関係になっていくか、まだ見えない。
たとえば50年後、100年後に、金沢工大が今回のような展覧会をすると、どんな会場構成になっているだろう。

展示では、項目ごとに総括的な短い解説がつけられていたが、専門外の者が読んでもおおよその見当はつけられるような、わかりやすい文章だった。短く数行にさりげなく書かれているが、たいしたことだと思う。

デュフィの『電気の精』というリトグラフも展示されていた。
デュフィ特有の明るい彩りで、ここに展示されているような科学者たちが描かれている。
工学一本槍でなく、こういうところまで目配りするセンスにも感心した。

(2012.4.28 no.94)
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