図書館ベスト3


このところ集中的に未知の図書館を見てきた。
まだ限られた数だけれど、どこがよかったろうと振り返ってみた。
博物館なら、ただ1つあげるとすればパリの国立自然史博物館を迷わずにあげる。でも図書館では「この図書館こそ!」というのにはまだ出会っていない。
国会図書館と町の図書館を同列に比較してもしかたがないし、いくつか項目をたててベスト3を考えてみた。
(ベスト3とはいいながら、5つもあったり、2つしかなかったりする...)

■ 精神の図書館
■ 驚いた図書館
■ 資料に驚いた図書館
■ 円形図書館の快楽
■ 近くにあるといい図書館
■ コーヒーがおいしかった図書館


■ 精神の図書館

図書館では、精神が、深まったり、高みにのぼったり、安らいだり、活性化したりする。
図書館は精神の場であるべきと思う。
これを「もっとも美しい図書館」といってもいいと思う。

1 東京大学工学・情報理工学図書館
→ [国立国会図書館国際子ども図書館 東京大学工学・情報理工学図書館

2 国際教養大学図書館
→ [秋田の図書館 (1/3)]

3 山口市立中央図書館
→ [山口大学図書館・山口市立中央図書館(1/3)]

4 多摩美術大学図書館
→ [荒川ゆらり 多摩美の図書館から「星と天文の夕べ」

5 熊本市立図書館ホームギャラリー

→ [熊本市の図書館 (2/2) ]


■ 驚いた図書館

1 ニュ−ヨ−ク公共図書館

1週間ほどいてニューヨークをうろついていたある日、図書館にも行ってみようと軽い気持ちで寄ってみると、目の前に素晴らしい閲覧室が広がった。(あとでその閲覧室にはRose Roomという名があることを知った。)
クラシックな意匠の大きな部屋に、ずらっと机が並ぶ。机ごとの照明スタンドがつくるリズム感も心地よい。
巨大なのに、精神的な深みもたたえている。
図書館がこんなにも美しいことがあるのか!
まだこの図書館の存在の大きさを知らなかった頃のことで、知識も先入観もなしに入ったから余計に衝撃的だった。

2 茨城県立図書館
もと県議会の議事堂をリノベーションした。
階段状の議場が閲覧室になっている!!
本当にこんなものがあるのかと、目の前に見ていても、目を疑うくらい。
茨城県の議員の?図書館員の?大胆さに脱帽。
僕はかねて「空港を図書館に」という構想(妄想)をもっている。
経営不良の地方空港は、赤字を重ねるより図書館のほうがいい。
議事堂が図書館になるくらいだから、現実性がないともいえないだろう。
→[水戸の○と□の図書館へ

3 仙台メディアテーク
柱らしい柱がない。部屋を隅まで行くと、スッとガラスの壁面がさえぎるだけで、宙に浮いたふう。
ポンピドーセンターに匹敵するような図書館が、ポンピドーとは違う形で日本にもできたかという感慨があった。
(ポンピドーセンターも、建物全面にとびだしたエスカレータを上がりながら、おおおお!という感じがあった。)
→[東日本大震災後の石巻と仙台の図書館]


■ 資料に驚いた図書館

あちこちの図書館に貴重書・稀覯書があるのは、もちろんそれなりにそれぞれ驚異の対象だが、予想外のものに行きあたって驚いたことがあった。

1 近江八幡市立図書館
かつてフォークの神様といわれた岡林信康という歌手は、牧師の息子。日雇い労働者の街に入ってフォークを歌い、人気がでるとドロップアウトしたりした。そんな歌と生き方に僕は興味をもって、何度かコンサートにも行った。
その後、ブルーノ・タウトの関連からヴォーリズに興味を持って近江八幡市の図書館に行った。
郷土資料の棚を見ていたら岡林の評伝があり、なんと岡林の父はヴォーリズの宣教団にひかれて近江で牧師になった人だった。
思いがけない人どうしの結びつきが現れでてきておかしかった。
→[近江八幡市立図書館

2 国立公文書館
(図書館とはいいにくいけれど、今さらとても驚いたので。)
「日本国憲法の公布原本」とか「サンフランシスコ平和条約の公布原本」とかが展示してあった。
歴史的事項にいちいち文書があるのは思えば当然のことだが、これまで思い至ることがなかった。
なおかつ現物を見て驚いたのは、公布書に総理大臣はじめ各大臣が、ふつうの署名ではなく、「花押」を記していること。「花押」なんて、武士の時代の殿様が記すものと思っていたのに、現代まで名残りが続いているのだった。
→[国立公文書館

3 外務省外交史料館
上の2が国内版として、こちらは対外関係版で、「ミズーリ号での降伏文書」とか「日米安全保障条約の調印文書」といった外交上の基本文書が展示してあった。
→[松竹大谷図書館・外務省外交史料館


■ 円形図書館の快楽

美術館が円形に作られていると方角がわからなくなって、気分がよくない。
図書館に円形はなじむようだ。
書架が並行していると、知識は無限であり、自分は小さく無知であると、恐怖や青木まりこ現象さえ覚えるのに対し、円は閉じて有限であり、しかも1つの世界という完結した全体を思わせるし、囲まれている安心感もある。
(青木まりこ現象というのは図書館に行くとトイレに行きたくなること。そういう名称があるくらいに、覚えのある人が多いらしい。)

1 水戸市立西部図書館
→[ 水戸の○と□の図書館へ

2 新潟市立豊栄図書館
→[ 新潟で水と図書館をめぐる

3 国際教養大学図書館
→ [秋田の図書館 (1/3)]


■ 近くにあるといい図書館

1 熊取町立熊取図書館(大阪府)
全体がほぼ1室の大空間で、町の規模にふさわしい手ごろな大きさもいいし、自然の光と人口の照明のバランスもいい。
町のひとがいっしょに図書館を成り立たせていて、「この図書館があるから」と町に引っ越してくる人があるという。
図書館にとって最高の栄誉といっていいと思う。
→[大阪東部の大図書館と南部の小図書館

2 岩手県立図書館
複合ビルのなかに位置する図書館というのは、どこも似たような落ち着きなさを帯びがちだが、ここは独特で深い。駅から近いので、たまに利用するのではなく、毎日寄りたくなりそう。
→ [岩手に宮沢賢治、柳田国男、尾崎喜八をめぐる] [秋田から盛岡へ]

3 南島原市図書館(深江・有家・原城)(長崎県)
上の2つの図書館はそんなふうにもちろん魅力的なのだけど、僕にとってはほとんど非現実的な思い。
条件が整うものなら本当に近くに住んでみたいのがここ。
道筋でそれぞれ教えてもらいたいことがあり、同じ市内の3館に次々寄った。設備や蔵書は市内に3館あるにしてはたっぷりしていていいが、何よりの宝は司書さんたち。尋ねることに適度な好奇心をシンクロさせて調べてくれる。
ふつうは実務的というか、職業的というか、それが不快というわけではないけれど乾燥した対応をされることが多い。
このあたりは微妙な感覚だが、こちらの好奇心に寄り添ってくれる印象がある。かといってもちろん過剰な深入り感もない。
質問の内容から遠くから来たことがわかると、この先で迷いそうなところについてさりげなくアドバイスまで加えてくれる。
島原半島の海の明るい風光にもひかれるし、短いあいだでもすんでみたいと思う。
→[島原と天草のあかるい海]


■ コーヒーがおいしかった図書館

1 ピアポント・モ−ガン図書館
ニューヨークを散歩中、通りがかりにふらっと入った。
2つの棟に挟まれた中庭のようなところにカフェがあり、コーヒーをとった。
1方の棟の壁を背にして、狭い、細長い庭に向かって座ると、やわらかい日射しが庭の木の葉にあたって、やわらかく輝いていた。
図書館のカフェというとカジュアルな感じになりそうだが、ここではきちっと黒と白の服を着た、長身で上品でダンディなウエイターがサーブしてくれた。
ニューヨークでは毎日かなり緊張して過ごしたのだが、このコーヒーブレイクは忘れがたく甘い、懐かしい時間になった。
(今、図書館のホームページを見ると、カフェの写真がどうも違うもののように思える。The cafe is open only to ticketed visitors.とあるが、チケットを買って入った記憶がない。僕が行ったのは2000年だったが、その後に模様替えをしたのかもしれない。)

2 東近江市立八日市図書館
レンタカーで走って琵琶湖の東岸の図書館を次々に見てゆき、ちょっと疲れて、夕方、その日最後に行ったのがこの図書館だった。
2階に小さな喫茶場があり、地元の陶芸家が焼いたカップが棚に並んでいるなかから、好きなのを選んでコーヒーを飲める。
おいしくて、わずか100円。
古本を売ってたり、絵も貸し出してたり、図書館の殻を破る意欲的な姿勢にも元気づけられる。
疲れが溶けた。
→[琵琶湖東岸に鬼頭梓とヴォーリズの図書館を訪ねる

コーヒーがおいしかったというのは、単に口にしたコーヒーの味のことだけではなく、その場が懐かしく思い出されるほどにすてきだったということに、こう並べてみて気がついた。

ページ先頭へ

参考:

  • The Most Beautiful Libraries in the World(Jacques Bosser/text, Guillaume de Laubier/photo, 2003)
    この本の最後のほうに、ニューヨーク公共図書館がある。
    いちばん最初にあるのはウィーンのオーストリア国立図書館だが、ここは活きた場所のように感じられなかった。
  • フランスの国立自然史博物館Musee National d'Histoire Naturelleのホームページは http://www.mnhn.fr/
    僕の旅行記は [去りがたかった博物館:国立自然史博物館]