8月第2週 
熊谷に森をつくる話を聞いて、花火を見る


■ 宮脇昭さんが、荒川の中流(寄居からは約20km下流)の熊谷市内にも森を植えた。1月ほどたって、隣の行田市で講演会が開かれたのを聞きに行った。

宮脇さんの森づくりの特徴・手順は、
・その土地にあった樹種を選ぶ。
・種をプラスチック製ポットにまく。
 2、3年たち、内部には根が密生し、高さは30〜50cmに育った苗木をつかう。
・苗木がある程度は競争しながら共生するように、樹種を混ぜ、密に植える。
 乾燥を防ぎ、雑草を抑えるために、苗木の周囲の土をワラで覆う。
 ワラが風で飛ばされるのを防ぐため、ワラ縄をワラの上に張り巡らせる。
・苗木を植えてから3年間は雑草を取る作業などをするが、その後は自然に任せる。
・10年もすると、こんもりとした森に育つ。

今回の熊谷の森づくりは、社会奉仕団体「熊谷明るい社会づくりの会」のメンバーが、後世に残る森を育てたいと思い立ったのが発端だった。
簡単なことではなさそうだが、願いはもつもの、願ったら動いてみるもので、短期間で実現してしまった。
埼玉県が、植樹地として熊谷スポーツ文化公園の土地を提供した。(公園側でも、グランドの北側に赤城おろしから守る防風林を作りたいと考えていた。)
毎日新聞社が、創刊135年記念事業のキャンペーンで、モデル植樹事業を各地で展開していて、苗木を提供した。
埼玉県建設業協会大里支部の加盟事業所が、ワラ縄を固定するために必要な1200本の木ぐいを打つ労力奉仕を申し出た。
植樹当日には、市内の衛生会社が給水車やごみ収集車を派遣し、スーパーマーケット2店が軽食を用意し、市医師会が救護施設を開設した。
そのほかに、森づくりの費用に目標を超える募金が集まりもした。

今年の7月2日に「彩の国まごころ国体記念ふるさとの森づくり」植樹祭が開かれ、小中学生を交えた市民2000人が、3000uの範囲に、1万本のシラカシやタブノキなど32種類の苗木を植えた。ヤマザクラも混じっていて、春には桜の花も咲く。

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熊谷での植樹のことを知らなかったので、講演会のあと、現地に行ってみた。
1988年のさいたま博覧会の会場跡地にラグビー場がつくられ、その後、2004年の国体開催時に陸上競技場なども加わって、広い公園になっている。
ラグビー場の正面に向かう通りの左手に、小中学生のサッカーや野球のグランドを数面とれるほどの芝の広場があって、その北側、道路との境に、幅4mくらいの小さな土手に植えてあった。ある程度広がりのある面の土地と思いこんでいたのだが、細い帯状の土地。
講演会でも、幅1mあれば森はできると強調されていたのだった。
さまざまな種類の苗木が並び、土はワラで覆われていた。
芝生では少年のサッカー試合がいくつも行われていたのだが、やがて森が育てば北風から守られるようになるのだろう。
ここのラグビー場には、秋から冬にかけてラグビー見物に来るのが、僕には楽しみの1つだ。年に1回か2回きり機会がとれないのだが、芝の斜面に座って、傾くのが早い秋の日を受けて、大学や社会人のラグビー試合をのんびり見物するのは、とてもいい時間だ。
これから、ラグビーを見にくるたびに、森が育っていくのを見る楽しみもふえた。

公園のへりを縁どるように植樹された。冬には写真右(北)から赤城おろしが吹くので、森が育てば左のグランドへの風が弱まることになる。 熊谷スポーツ文化公園の植樹地

寄居にはホンダが新工場をつくることが決まっている。
ホンダは宮脇さんの指導で1976年からふるさとの森づくりを各工場ですすめているから、寄居にも新しい森が作られることになるかもしれない。

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僕は森を作ることに特別な関わりがあるわけではなく、森づくりについては3人の方だけ名前を知っている。
1人は宮脇昭さん。
1人は速水亨さん。
三重県海山町で山林を育てている。厳しい基準にパスして、日本で初めてFSC(森林管理協議会)認証というものを取得したことで知られる。「最も美しい森は、最も収穫多き森である」という考え方で、環境に配慮した森づくりは、美しい森を作り、経営的にも成立することを実証している。
宮脇さんが、その土地にもともとあった(あるはずの)樹種を植えようとするのに対し、速水さんの森は檜の人工林が広い。
もう1人は、畠山重篤さん。気仙沼の牡蠣の漁師だが、「森が海を豊かにする」と、湾に注ぐ川の上流の山に植林をしている。

宮脇さんの講演は、とても力強いもので、自然破壊が進んでいても、私が森を作って地球を守る!というほどの意気込みが感じられた。
ホンモノの、命を守る森を育てることが大事です。大きく育ちすぎて枝が伸びてしまったらどうしようとか、困難な事情ばかりを思い悩んでいるだけでは事態はよくなりません。とにかく1本の木を植えて動きだしなさい。動きながら考えるんだ。
私は68歳になるが、あと30年生きて、森を作ります。皆さんのところで森を作る気持ちがあれば、どこにでも行くから、声をかけてください!

宮脇さんが思いがけず近くで森づくりを指導され、講演を聴くことができたのだが、速水さんとも思いがけないところでお会いしたことがある。
三重県鳥羽にコンセプトもコレクションも建築もすてきな「海の博物館」があり、設計者、内藤廣の講演会が開催されたときに出かけたことがある。
展示にも講演にも満足して、鳥羽駅に戻ろうというときになると、バス停までちょっと距離があるうえ、バスの本数も少ないし、ゆっくり走るので時間もかかるしで、少し憂鬱になっていた。
しかたなく歩き出してまもなく、車が脇にとまり、駅まで行くのなら通り道だから乗っていくといいと声をかけてくれたのが、速水さんだった。
よく知られ、経営者でもある人が、自分で車を運転し、困ってそうな人には気軽に声をかけてのせようとされるのが驚きだった。駅まで楽をして、お話も伺えて、とても幸運だった。

3人目に関わる気仙沼にも行きたいと思っている。
牡蠣は食べたいし、リアス・アーク美術館というのがあって、しばらく前から行きたいと思い続けているのに機会がない。
いつか気仙沼行きが実現して、畠山さんにお会いする偶然が起きたら楽しい。

● 田舎っぺ さきたま古墳店
(埼玉県行田市佐間1502
tel.048-559-2610 )

田舎っぺ−店の外観

行田市教育文化センターみらいで宮脇さんの講演が終わると、ちょうど昼どきで、一緒にきいていた柿沼さんと、近くにある店にうどんを食べに行った。
熊谷と行田の間、市街地から外れたところにあったのが元祖の店だと思うのだが、今は熊谷駅前にあり、熊谷市役所前にもあり、5店に増えている。
この日行った店は、さきたま資料館にも近い。前はセブンイレブンがあったところで、ある日、コンビニがうどん屋に置き換わってしまっていて驚いた。

ここでの本命は、きのこ汁うどん630円に、きんぴらごぼう210円。
麺は、歯の弱い人、胃腸の弱い人は申し出てくださいというくらいにコシがある。きのこ汁の椎茸も負けずに肉厚で歯ごたえがある。
近くにあって何度も食べているので、僕にとってはうどんを食べるときの基準になっている。
ここよりコシがあれば、たしかにコシがある(滅多にない。)
ここよりおいしければ、たしかにおいしい(なかなかない。)
しばらく食べずにいて、ふと思い出したりすると、とてもいきたくなる。

■ 熊谷の花火を見に行った。

宮脇さんの講演会が開かれたのは、熊谷の花火大会の日だった。
ところが、昼ころから短い雷雨が通りすぎるような、荒れ模様の日で、1日延びた。
で、次の日、夜になって、妻と車に乗って花火見物に向かった。
今年は熊谷市街地から荒川を渡って対岸に行き、久下橋の上から見た。
ちょっと遠いが、それでもあちこちから、おおーっと声があがるほど鮮やかなのが展開することもあった。

久下橋から熊谷花火大会を遠望する

熊谷の花火には、いろんな思い出がある。
子どものころ、熊谷に住むいとこの家に遊びに行って、夜になり、大勢で見にいった。花火のことより、ふだんと違う異様な雰囲気が記憶にある。
大人になり、友人とビールを飲んでから出かけたこともある。このときは気合いが入っていて、打ち上げ時間より前から至近距離で待ちかまえたのだが、トイレに行きたくなり、離れてしまった。するともうひどい混雑になっていて、元のところになんか戻れなかった。
自転車に乗り、自転車でないと走りにくい道を向かったこともあるが、そうとう離れたところから混んできて、やはり近づけなかった。
去年の熊谷の花火の日は、昼間、川の博物館に出勤していた。
帰り道、玉淀大橋から下流に小さく花火が見えた。
上熊谷駅で電車を降り、熊谷駅まで花火を見ながら歩いた。
ビルのとビルの間に尺玉が開くと、比較になるものがあるので、とても大きく見える。広いところで真っ黒な空だけを背景に見るのとは、また違う迫力があった。

熊谷の花火ではなかなか中心に近づけなくて、まるでカフカの『城』みたいだと、よく思う。
同じ日に、東京湾大華火祭も、1日順延されて開催されていた。熊谷のずっと下流でも大勢の人が花火を見上げていたことだろう。

参考:

  • 『ふるさとの木によるふるさとの森づくり講演会』 講師・宮脇昭 行田市教育文化センターみらい 2006.08.12
  • 『内藤廣建築展「海の博物館」以後+フォーラム「木と海と暮らしと」』 海の博物館 2001.7.21
  • 『この人この世界 日本一多くの木を植えた男 宮脇昭』 NHK「知るを楽しむ」テキスト 2005年6-7月
  • 海の博物館 三重県鳥羽市浦村町大吉1731-68 tel.0599-32-6006
  • リアス・アーク美術館 宮城県気仙沼市赤岩牧沢138-5  tel. 0226-24-1611