11月第1週 青空、急坂、風布(ふっぷ)のみかん 


10月下旬から12月半ばまで、寄居町の南西部、風布あたりの山の斜面では、みかん狩りができるようになる。みかん栽培の国内での北限になる。
風もない、穏やかな午後に、久しぶりにでかけてみた。
皆野寄居バイパスの寄居風布ICを出て、[7月第4週]の風布館付近から斜面を上がる道に入ると、次々にみかん園がある。週末にはずいぶん混むらしいが、平日はさっぱりしていて、休園の看板だけ立っているところもある。
開園しているところも人の姿が見えないので、何となしに入りそびれて道を上がっていくうち、庭に女性の人影がみえたところで、車を置いて入ってみた。

■ 柑峰園
(埼玉県大里郡寄居町風布494 tel.048-581-4850)

持ち帰り用に小さい袋なら500円、大きい袋なら1000円が入園料になる。
園内ではみかんは食べ放題だが、ほかにお茶とお新香と蒟蒻(こんにゃく)がふるまわれる。近くの山並みが見渡せる庭に腰掛けて、のどかで、おいしくて、これが楽しみでまた行きたくなってしまう。
蒟蒻も自家製で、ふつうに売っているものほどツルツルしていなくて、よく味がしみている。

庭のテーブルでお茶とコンニャクとお新香

たまたま入ったのだけれど、お子さんが小さいころは、よく川の博物館に連れて来られたということで、しばらく話し込んでしまった。
目の前の庭の木に、みかんを切って刺してある。メジロにあげるのだという。
地面に広げて干してあったのは小豆(あずき)で、おばあちゃんがあんこを作る。
こういう生活感がさりげなくて、落ち着く。
散歩をしていたら、立派な角がはえた鹿を見かけたり、前をいのししが猛烈な速さで横切ったりしたことがあるとのこと。
そんなふうで暮らしが不便かというと、皆野寄居バイパスができたおかげで、町に買い物に行くのも車なら10分くらい。新興郊外住宅地なんかより便利なくらい。
でも以前はもっと不便で、この地域には寄居小学校の風布分校が置かれていた時期がある。そこに勤務する先生には、へき地手当というものが支給されていた。
今はへき地どころではない。
こんな眺めのいい、自然がいっぱいの所に暮らして、しかも暮らしに不便はほとんどないのだから、ずいぶん贅沢な、うらやましいくらいの生活地だと思う。

風布という地名も、いかにも自然の中にある感じできれいだが、読み方がいろいろある。僕は初めてきいたときが「ふっぷ」で、今もふだんそう言っている。
日本郵政公社の郵便番号では「ふうぷ」。
今年の秩父鉄道のみかん狩りのパンフレットには「ふぅっぷ」とふり仮名がしてある。
地元の人は何ていってるのだろうと聞いてみたら、「私は住所を書いてフリガナをつけるときは、フウプと書いている。ほんとはどうなんだろうと思って、ウチノヒトにきいてみたことがあるけど、どっちでもいいんだよ、って。」
おおらかでいい。
僕もそのおおらかさに甘えて、このタイトルには、今までの思いこみどおり「ふっぷ」にした。

お茶したあとにみかん狩りにいった。家のすぐ裏の斜面がみかん畑で、たくさんの木があり、たくさんの実がなっている。
ここまでの道も急坂だったが、畑も急斜面。見上げると、青空を背景に、緑の葉、みかん色の実が鮮やか。
あちこち移動しながら、みかんの上の小枝をプチンと伐って、袋に入れていく。1000円の袋には、かなり重い量が入った。
中では食べ放題だけれど、遠慮がちに2つ。
かつて風布のみかんは、小ぶりで、水分が乏しくて、甘くなかった。それが風布らしくもあったのだが、今は甘い品種に植え替えられ、甘い。風布のみかんらしくなくなって物足りない気もしないではなくて、かつては甘くないことを文句いいいい食べていたのに、勝手なことだ。
みかん畑のなかは、みかんの香りも気分がいい。

青空を背景にみかんの実 風布分校。庭には草が伸びる。

風布館のほうに降りると、降りきる手前、右側にかつての分校がある。
今は「寄居町生涯学舎 やまとぴあ風布」という看板がかかっている。
今年、この地域に小学生は2人。この分校前から経費町負担のタクシーに乗って、中心部にある寄居小学校に通学している。
まだ分校が分校としてあるころに訪ねたことがある。
木部先生という方が校長でいらした。独特の風貌に、闊達な話しぶりで、短い時間お会いしただけだったが、記憶に残っている。

この日は、風布館側に降りたあと、釜伏峠、二本木峠を越えて小川にでて、[9月第5週(2)]のアーティスト、伊東孝志さんのアトリエに寄った。今月下旬には仲間を加えてグループ展を開催するということで、制作中だった。袋いっぱいのみかんからお裾分けをして、喜んでいただいた。