4月第1週 元荒川の桜、荒川の菜の花


4月になって、荒川の水辺にある博物館から、丘陵を上がり、金勝山という標高260mほどの小山にある野外活動施設に働き場がかわった。

最初に出勤した日、かなり急な坂をあがり、ぐんぐん展望が開けていって、川から山に移ったのだと実感した。
まわりを見渡すと新緑がとてもさわやかで、目にも心にもしみじみとやさしい。言葉でいってしまえば「淡い緑」のひとことだが、緑が薄かったり、やや濃かったり、白っぽかったり、青みがあったり、一様でない。

施設の2階の展望廊下から眺めると、寄居の街並みがわりと近くにあり、遠くに熊谷のドームまで見えた。
かんぽの宿寄居、寄居町役場が北の正面にあり、右手には六堰。
それと個別の地点が確認できなくても、あのあたりにあれがある、というふうに、昨年1年間歩き回った寄居から深谷、熊谷のあたりまで、すっかり眼下に広がっている。こういう地点があるのだなと、ちょっとした感慨があった。
春は空気がかすんだ日が多くて見えにくいけれど、地平線際には赤城や榛名や男体や筑波まで望めるはずという。

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仕事場がかわり、ほかにも大きな気がかりがあって、今年はゆっくり花見にでかける気持ちの余裕がなかった。さいわい家のすぐ前が元荒川の桜並木で、休日の夕方、晩ご飯に用意した簡単な料理を携帯用の容器にいれ、缶ビールももって、家の前の川原で妻と花見をした。
元荒川は、名前のとおり、元は荒川の本流だったけれど、今は切り離されていて、先では利根川に注ぐ。このあたりではとても細い流れで、飛び越せるほどの幅きりない。
そのぶん両側から桜の枝が覆うように伸びていて、流れのうえにも花の密度が濃い。
外で食べる食事は気持ちのいいもので、わずかに酔った気分になったところで撤収する。たちまち家に帰ってしまえる気楽さがありがたい。


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昼には、家から自転車に乗って、荒川本流の菜の花を眺めにいった。
桜は華やかだが、咲いている時期は短くて、はかなくもある。
野に咲く菜の花は、晴れた日には青空とくっきり対照する黄色い色が鮮やかで、長く咲いているので、安心感もある。
桜で花見の宴をする人は多いのに、菜の花でする人は見かけないが、子供が小さかったころ、利根川の土手に親子3人で行って菜の花を眺めながらおむすびなんか食べたことがあって、懐かしい。

荒川の広い川原では、ある一帯がすっかり菜の花になっているところがある。
土手の斜面が菜の花で埋め尽くされているところもある。
山村暮鳥(やまむらぼちょう 1884-1924)の、「いちめんのなのはな」を繰り返す『風景 純銀もざいく』という詩を思い出す。
3連のうち、まんかのはこういう。

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしやべり
いちめんのなのはな

この詩のとおり、川原の草むらから舞い上がって、ひばりが空にせわしく鳴いている。