5月第1週 信濃川−またまた雨の河口ウォッチング


荒川173kmの源流は秩父山地のなかの甲武信岳(標高2475m)にある。
この山は、名前のとおり、甲州、武州、信州の境だが、また、甲州へは笛吹川〜富士川(128km)、信州へは千曲川〜信濃川(214km)が流れ出す分水嶺でもある。(参照 [ 2006年5月第4週 ] )

信濃川は 北西に流れて信州では千曲川、北東に向きをかえて新潟に入ると信濃川となって、新潟市で日本海に注ぐ。
途中、十日町市付近では越後妻有アートトリエンナーレという美術関係の催しがあり、僕にはなじみのところになっている。(参照 [ 2006年8月第3週 ] )
荒川めぐりを始めてから川に関心が強くなっていて、旅先の街に河口があれば眺めに行くようになったのだが、思いがけない機会があって、信濃川の河口に行った。

          ◇          ◇

文化庁の企画で、人それぞれに思いをこめた日本の旅を求める「わたしの旅」という事業があり、僕が応募した『20世紀初頭、外国人建築家が見た日本をめぐる旅』が、10の特別賞のうちの1つに選ばれた。
群馬県高崎市に井上房一郎(1898-1993)という実業家がいて、群馬・高崎の芸術振興に尽くした人だが、また建築家アントニン・レーモンド、ブルーノ・タウトと縁が深かった。
井上房一郎に関することというのは、次々に興味が広がっていく、とても面白いものなので、その足跡をたどる旅を日帰りか短い泊で繰り返していたのだが、文化庁の企画にあたり、代表的な見どころを1周する一筆書きコースに構成してみた。
レーモンドもタウトも船で来日したし、井上房一郎も欧州への遊学に船で往復していて、この人たちの旅には船/港が重要な役割を果たしていた。企画案のうちの1区間に船をつかうと、一筆書きのつながりもよくなるし、当時の船旅をしのぶことにもなるので、新潟から敦賀までフェリーで行くことにしてみた。
3人が関わった高崎・軽井沢を見たあと、新潟にでて、フェリーに乗って、敦賀に行く。
敦賀は、遊学から帰る井上房一郎が着いた港であり、ドイツを逃れてきたタウトもここに入った。タウトは翌日桂離宮に案内され、感激し、絶賛する文章を書いて、よく日本美の再発見といわれる評価を与えられることとなった。
井上もタウトも、ウラジオストックから国際線で来たわけだが、この旅の企画案では、国内フェリー航路で代行することを考えてみた。

特別賞に選ばれ、格調高い表彰式があった。僕は晴れがましいことにはずっと縁がない人生を過ごしてきたので、こんなこともあるかと感慨だった。
でも、この旅を実施してみようという旅行社もないし、僕個人としてもいつか実現したいと思ってはいても、なかなか機会がなかった。

ところが、特別賞10編のうちから2つを選んでNHKのテレビ番組として放送する、その1つとして僕の提案をとりあげたいという申し出をいただいた。しかも提案者が実際にそのコースをたどって旅をし、その様子を撮影して番組にするというのだった。
思い描いていた旅が思いがけない形で実現することになってとても嬉しかったのだが、また、新潟港は信濃川の河口にあり、思いがけず河口ウォッチングの機会が訪れたのだった。

          ◇          ◇

新幹線で新潟駅に着き、タクシーで新潟港に向かった。
アナウンサー、ディレクター、カメラ、音声、照明、僕の5人で、タクシー2台に分乗。

港の待合室で待っていると、苫小牧発、秋田を経由してきたフェリーが入港してきたが、大きいのに驚いた。岸壁が近づくと方向転換して、バックして接岸するのだが、いったん横向きの状態になったときには、ほとんど水路をいっぱいにふさいでしまうようだった。
3階建ての待合室のビルの前に接岸すると、こちらよりまだ高い。長さも200m近くもあって、ほとんどビルが立ちふさがっているふうで、見とれてしまった。
あざれあ号:新潟から敦賀行きのフェリー

撮影されながら乗船。
ホテルのフロントふうのところでチェックインする。見回すとかなり広いラウンジの中央には螺旋階段があって上の階につながり、きらびやかな照明があり、夜の社交場といった雰囲気だった。

出航。
甲板は高い位置にあるので、港付近の低い建物群をみおろしながら河口に向かっていく。
河口近くに橋がかけられ、横断道路が河口をまたいでいるのを幾度か見かけたことがあるが、ここでは「新潟みなとトンネル」といって、地下に横断道路があるという。両側にある排気筒が展望塔にもなっていて、おもしろそうなのだが、今回は自分だけの好きに見に行くわけにはいかなかった。
こんな下を道が通っているのかなと想像だけしながら眺めているうちに川が終わり、ゆるゆると海に出ていく。

それしにても小雨。
僕の河口ウォッチングはいつも天気が悪い。
 青森湾に流れる堤川(上流を荒川という) 2006年10月第1週
 石巻湾に流れる旧北上川2006年11月第4週
 遠州灘に流れる天竜川 2006年11月第2週
いずれも風が吹き、雨が降る、荒れ模様だった。
荒川や隅田川の河口に行くときはいつも好天だったが、近いからいい日を選んで行ってるので、これは参考にならない。
信濃川河口も雨。
船は16:30に出航していて、5月のそんな時間だったら、晴れていればまだ日が高いのだが、空も海もどんよりして、夕暮れのようだった。

海にでたあたりで河口を振り返る。細い防波堤がのびていて、その向こうにはおぼろに新潟市街。 信濃川河口をフェリーから振り返る

それでも翌早朝、敦賀港に着くころは、雨が上がり、雲も切れて、その後、伊勢−熱海と残りの3日間は暑いくらいの好天に恵まれた。

参考: