5月第4週
川口のギャラリーを見て、新荒川大橋を赤羽に渡る


川口のギャラリーで開催されているクローデルの展覧会を見に行った。
「二人のクローデル展」といって、彫刻家の姉、カミーユ・クローデル(1864-1943)と、詩人で外交官の弟、ポール・クローデル(1868-1955)に焦点をあてていた。

前の週、前の前の週のこととも関わるが、僕はここ数年、1930年代あたりに日本に来た建築家(フランク・ロイド・ライト、アントニン・レーモンド、ブルーノ・タウト)の足跡をたどっている。その人たちの結び目に井上房一郎という群馬の実業家がいて、さらにそのもとには、日本の資本主義を育てた渋沢栄一(1840-1931)が文化の面で遺した業績をまとめてみたいと思っていたことがある。
そういう関連のなかにはクローデルなんて入ってなかったのだが、今日の展示を見ていたら、接点があるのだった。
ポール・クローデルは1921年から1927年にかけてフランス大使として日本にいて、日仏の文化交流の拠点として日仏会館を建てようとしたのだが、その実現に協力したのが渋沢栄一で、1924年に開館した。
また、ライト設計の帝国ホテルで、クローデルと日本の文化人たちとの交流の集まりがあったときにとられた写真には、レーモンドも並んで写っていた。
寄居関連でいえば、クローデルがかいた歌舞伎の脚本により帝国劇場での公演に主演したのは、寄居に別荘をもっていた松本幸四郎だった。
というようなことがあって、ほう!とか、はあ!とか思いながら見ていった。

カミーユについては、僕は、その実人生についてのいたましい思いが先にきてしまい、つらくなる。
彫刻の師であるロダン(1840-1917)への激しい愛とその破綻。
精神に変調をきたして精神病院に入院したが、家族から見捨てられ、死にいたるまで30年もの長い苦しい時間を生きたこと。
ロダンへの思いから生まれた大きな作品がよく知られているが、今回の展示では、こぶし大ほどの頭部がいくつも並んでいるのが印象に残った。
男は人生を刻んだように凛として、若い女は夢見るような目をして、暗いブロンズの塊の表面にはカミーユの手の痕跡が残っている。このような美しく凝縮した作品を作る人が、精神を乱していった−とまた、実人生に思いがいって、胸が苦しくなる。
(でも映画『カミーユ・クローデル』でカミーユ役だったイザベル・アジャーニはとても魅力的だった。)

川口市立アートギャラリー・アトリア

会場となった川口市立アートギャラリー・アトリアは、サッポロビールの工場跡地に建った。
大規模なショッピングセンターや、大きな芝生の広場なども整備されている。
ギャラリーは単純な長方形をした簡潔な建築で、すっきりしている。バブル期には無駄に金をかけた美術館・博物館ができて、むしろ精神がゆるんでいるような不快感を覚えるものがあったが、これでいいと思う。
「クローデル展」は開館1周年記念だという。開館をきいていつか行こうと思ったまま1年たってしまっていた。
かつて川口には斎藤記念川口現代美術館という美術館があった。マネキンをあつかう会社が関わっていて、すばらしい現代美術のコレクションをもっていたし、いくつもの意欲的な企画展を楽しませてもらった。
その頃僕は埼玉県立近代美術館にいて、アーティスト・イン・レジデンスの事業を川口市と組んで実施して、その美術館にもいろいろな協力をしていただいた。
1999年に「無期休館」ということで活動をとめていて、2006年にようやく川口は市の自前の美術施設をもったことになった。

「クローデル展」は、ギャラリーのほかに旧田中家住宅も会場にしていた。専用バスが2つの会場間を運んでくれるのだが、大きなバスが満員になる盛況だった。
旧田中家住宅は、味噌で財をなし、国会議員や川口市長にもなった人をだした家で、国登録有形文化財になっている。
旧田中家住宅・国登録有形文化財

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バスで駅に戻ることもできるが、荒川に向かった。
旧田中家住宅の前の国道122号を西へ歩く。交通量が多い。川口元郷駅の脇を通る。
途中で昼食を調達して川を渡った先の土手ででも食べようというつもりだったのだが、大きな車が通りすぎていく道にはそんな店はない。
新荒川大橋にでてしまって、そのまま橋にかかる。

左に赤と青の水門が見えるのは、ほぼ1年前、[2006年5月第1週]に行った岩淵水門。
右には東北線の鉄橋が並行している。電車のほうからは幾度もこの橋を見かけたことがあって、時折今日は車が混んでいるなとか意識することもあったのだが、渡るのは初めて。

新荒川大橋を川口から赤羽に渡る

川口に向かう高校生など自転車の人には数人行き会ったが、さすがにこの長い橋を歩いて渡る人はいないのだなと思っていたら、赤羽側近くになって数人すれ違った。ただ運動のために歩いているふうではなく、いったいどういう用で歩いて渡るのか聞いてみたいようだった。

セブンイレブンでコロッケパン、鮭のおむすび、発泡酒を買って、岩淵水門の先の島で川を眺めながら昼にした。
埼玉県行田市にある、ものつくり大学の学生たちが設計した四阿が建っている。
岩淵水門の四阿・ものつくり大学が作った

参考:

  • 『カミーユ・クローデル』 監督:ブルーノ・ニュイッテン 主演:イザベル・アジャーニ 1989
  • 『カミーユ・クローデル 天才は鏡のごとく』 レーヌ=マリー・パリス エレーヌ・ピネ 湯原かの子監修 南條郁子訳 創元社 2005
  • 川口現代美術館スタジオ/サイト http://kawaguchi.site.ne.jp/
  • ものつくり大学 http://www.iot.ac.jp/