6月第2週 懐かしい煙突−北清掃工場


高崎線や京浜東北線の電車に乗って赤羽付近を通ると、ときおり特徴のある煙突が目に入って気になっていた。
荒川と隅田川が分岐する岩淵水門からは、市街地の方角に見えた。
どうもただものではないと気にかかっていたのだが、ようやく思い立って地図を見ると清掃工場があって、調べてみると、これもずっと気にかかっている建築家、石山修武(いしやまおさむ)が設計している。
これはますます行かなくてはならない。
工場では日を決めて見学会を実施しているので、予約をしてでかけた。

■ 北清掃工場 東京二十三区清掃一部事務組合
  東京都北区志茂1-2-36  tel. 03-3598-5341
  http://tokyo23.seisou.or.jp/koujou/kita/index.htm

煙突の先のほうは幾度も目にしていたが、近づいてみると建物の下部がはじめて見えてきて、外壁の縞模様がバウムクーヘンみたいで、柔らかい印象がある。
隣りに北区立元気プラザがあり、その温水プールには、清掃工場の焼却熱を利用している。
北清掃工場の遠景

2階に上がって、ひととおり説明をきいてから、見学に向かう。
長い廊下が伸びていて、その左手に清掃工場の各行程が並んでいるのを、ガラス越しに眺めていけるようにできている。いわば水族館方式とでもいうか、はじめから見学がしやすいように構成されている。

まず、ごみ運搬車が運んできたごみを貯める「ごみバンカ」がある。
バンカ bunker というのは、船の石炭倉、燃料庫のことで、またゴルフコースの砂の凹地もバンカという。
毎日300台のごみが運びこまれる。深さ24メートルあって、北工場で消却するゴミの4日分を貯める大きさがある。

「ごみクレーン」がつまみ上げて焼却炉に送り出す。クレーンも大きなもので、1回に約5トン、清掃車4台分をつかまえて、運ぶ。
ごみのある方は臭いや熱気でムンムンしているのだろうが、コントロールする部屋は清潔、無臭で、涼しそうなのは、先週見た埼玉県環境整備センターと同じだ。

毎日ごみを400トン燃して、残灰80トンを出す。これ以上処理しようのない残灰は、お台場より先(南)にある新海面処分場や、中央防波堤外側埋立処分場に運ばれ、捨てられる。
やがてそれらの処分場がいっぱいになると、陸地になり、新橋からのゆりかもめ線が延伸するだろうか。

それにしても、この清掃工場の建設費は、主体工事だけで334億円。
東京23区の清掃工場の経費総額は、2006年の1年に809億円。
発電による収入などがあっていくらか埋め合わされるとしても、ごみ処理にかかる経費の大きさには、生活の後始末にこんなにかかるものかと感慨してしまう。

となりにダイエーがあるので、屋上の駐車場に上がってみると、工場の煙突が間近に見えた。
クラシックないい形をしている。
設計者、石山修武は、赤羽駅近くの市街地にあるから、高さを抑えるようにした。またこのあたりに暮らす少年がこの煙突がある景色を懐かしい風景だと思い出すように、煙突の先端をお家(うち)のイメージにしたという。

煙突の高さは120メートル。
高い建築物には、飛行機がぶつからないように航空障害灯(こうくうしょうがいとう)をつけなくてはならない。
電灯だから、とうぜんタマギレということがある。
すると、工場の職員が、内側にあるジグザグの階段を、重いランプを持って上がっていき、交換する。30メートルくらいまでは、まず楽に上がれるが、その先が長いという。
練馬の清掃工場の煙突は210メートルあって、さすがにその高さだとエレベータがあるが、ここにはない。
北清掃工場の煙突

サンテグジュペリの『星の王子さま』に、街灯をつけたり消したりする人がでてくる。規則だからと、ただつけたり消したりを繰り返している。滑稽のようだけれど、「義務を果たす人間」に対してサンテグジュペリは共感を寄せ、敬意をもっている。ここで働く人の、階段を上がる苦労に、僕も共感を覚える。

その後、北清掃工場の煙突を見るたび、ランプを持った人が、今、中を、息をきらせながら歩いているかもしれないと思うようになった。星の王子さまが、故郷の星の1本の花が特別な花だと気がついたように、街にいくつも煙突があるけれど、北清掃工場の煙突は僕にとって特別な煙突になったわけだ。
そういう想像を誘いもする形をしている。
よくあるふつうの円柱に迷彩色を施しただけの煙突では、そんな想像を誘うことはないだろう。

「今、あのなかを、ランプを持って歩いてるかな...」 北清掃工場の先端はおうちの形

● すみた 讃岐手打ちうどん
  東京都北区中十条2-5-11演芸場通り
   tel.03-3905-0099


なぜか京浜東北線の東十条駅と、埼京線の十条駅の間に、讃岐うどんの名店と評判が高い店がある。
北清掃工場の見学会は午後1時半からで、その前に昼を食べに行った。
11時半ころ着いたら十数人の行列ができていた。うどん屋さんだから、そんなに時間がかからなくて、ゆっくり間に合うだろうと思ったのだが、進むのが遅い。店の中に入るまでに1時間近くかかってしまった。

時間がかかるのは、天ぷらを、注文を受けてから揚げているからだった。天ぷらの1つ1つにそう時間がかかるのではないが、他の店でよくあるように、揚げたのが大皿に盛ってあるよりは時間がかかる。もちろんそのぶん揚げたてはおいしい。
(それで、外の提灯にも大きな字で天ぷらとかいてあった)
讃岐うどん「すみた」

うどんは、コシがあるが、ただ太くて固いのではなく、適度な弾力と、やさしい口なじみがあって、並んで待った甲斐があった。
十条駅寄りに篠原演芸場という大衆演劇の小屋があったのをさっと眺めて、もう歩いていては間に合わないので、タクシーに乗って北清掃工場に向かった。

参考: