7月第2週 天の川の1−尾道からお化け煙突へ


尾道から帰って、小津安二郎(1903-1963)の『東京物語』(1953年)に登場した隅田川畔の煙突を見に行った。東京に住む子どもたちを訪ねて老夫婦が尾道から上京するのだが、長男は隅田川の近くで医院を開業している。土手で孫が遊び、対岸では煙突が煙を吐いている。

わりと近くに新しいプラネタリウム装置が入って話題になっている博物館がある。
3月まで、荒川の川原にある博物館にいて、ほとんど毎日、荒川が流れるのを眺めていたが、4月に、プラネタリウムと天体望遠鏡がある山の中の仕事に職場が変わった。荒川より天の川に近づいた?ので、評判のプラネタリウムにも寄り道した。
その他、高架の京成線から眺めて気になっていたお寺らしき建物にも寄ったりして、あいかわらず1つ行こうと思うとずるずるとあちこちにひっかかってしまう。

■ 葛飾区郷土と天文の博物館
東京都葛飾区白鳥3-25-1 tel.03-3838-1101
http://www.city.katsushika.lg.jp/museum/index.html

お花茶屋駅からまっすぐな道が博物館までのびている。このあたりにしては、明るく開けた道で、もとは曳舟川。暗渠の下を水が流れ、上は細長い公園になっている。
狭い市外に古めの小さな博物館があるのかと予想していたら、広い通りに新しくて、かなり大きな博物館があった。
葛飾区郷土と天文の博物館

プラネタリウムには大きくいって2つの方式がある。
光源からの光を、レンズを使って投映して星として見せる『光学式プラネタリウム』と、コンピュータグラフィックスで星空を表現する『デジタルプラネタリウム』の2種類。
光学式は、光源の光が1つ1つの星として投影されるので、くっきりと美しい星空を表現できる。
デジタル式は、コンピュータ作られた映像を映し出すから、自在な星空を描き、そのなかを飛んでいくような演出もできるが、1つ1つの星のくっきり感は光学式より薄れる。
葛飾では、その2つのシステムを組み合わせて、両方のいいとこどりのシステムを作った。

しかもデジタル式では、もとの天体データとして、『デジタル・ユニバース』という、アメリカ自然史博物館が、NASAの協力のもとに制作した全宇宙の三次元地図をもっている。地球から見た星空だけでなく、木星から太陽方向を眺めるとか、太陽系銀河の真上から銀河を眺めるとか、任意に視点を設定できる。さらに視点を移動しつづければ、リアルな星の移動を眺めながら宇宙旅行できる。

光学式プラネタリウムも高性能で、映しだす星の数が1万5千個から36万個に増えた。天の川をぼやっとした絵で描くのではなくて、1つ1つの星の集合が川に見える、という現実の星空と同じことが表現できるようになった。

見ていると土星の輪なんてきれいで、宇宙空間を移動するスピード感も心地よい。

でもそういうハードに依存するところだけが見どころではなくて、そんな映像を映しながらしゃべりどおしの解説がはいるのがすごいところだ。
地平線近くには、「ここ」から見える街の映像があり、今夜見える空の説明がある。
今夜の9時の空、どういう月が何時にどの方角からあがるか。
それから、こっちの方角を向けば、こういう星空になって、こういう星座や惑星が見える、というように説明が続く。

はるかに宇宙の果てまで飛んでいく映像を見て、すごかったねで終わらなくて、プラネタリウムを出て今夜空を見上げれば、プラネタリウムで覚えた星空を実際に確かめることができるように仕組んである。
解説の女性の話しぶりはなめらかで、微妙な観客の反応もうけとめながら、すすめていく。
新しいプラネタリウムのシステムが入って、最初のプログラム『かつしかから宇宙へ』が評判になっていて、その上映の最終日に行ったのだが、間に合ってよかった。

■ 株式会社ニッピ(おばけ煙突)
東京都足立区千住緑町1丁目1番地1
http://www.nippi-inc.co.jp/


千住大橋駅で電車を降りて、ホームから眺めるとすぐ前にニッピの広い再開発予定地が広がっている。

千住大橋駅前のニッピ敷地で再開発進行中

ニッピ(旧日本皮革)は、皮革やコラーゲンの製造を手がけている。
かつてこのあたりに立地していた工場群が減っていくなかで、今も残るが、敷地の有効利用のために再開発を進めることとして、今は更地の状態になっている。
しばらくするとすっかり眺めが変わるのだろう。
隅田川の方向に煙突が1本立っている。見る角度によって本数が違って見えるので、おばけ煙突といわれて親しまれた。その頃はもっと際立って高く見えていたはずだが、今では高い建物に埋もれるように立っている。
煙突に近づけるかわからないが、駅から出て、回りこんでいくことにする。

■ 石洞美術館
財団法人美術工藝振興佐藤基金 石洞美術館(せきどうびじゅつかん)
東京都足立区千住橋戸町23 tel.03-3888-7520
http://sekido-museum.jp/


京成線の下り電車に乗っていると、千住大橋駅付近で右側に、かわった屋根をのせた建築が見えて気になっていた。お寺か宗教施設だと思っていた。
ニッピの敷地に沿うふうに細い道を行くと、そのお寺にでた−と思ったが、お寺ではくて、「千住金属工業株式会社」という標示がでていた。それでもまだ目を疑うような気持ちだった。
銅板葺きの屋根をのせ、煉瓦タイルを貼った六角形の2つの塔が、間をつながれたツインタワーになっている。
石洞美術館

お寺ならある程度の中まで入れるかと楽しみにしていたのだが、製造業の会社だし、日曜日で休業だし、入りようがない。
ところが通り過ぎてみると美術館の看板がかかっている。
塔の1つは美術館で、展示室は塔内をらせんのスロープで上がっていくように作られていた。

美術館は2006年開館。佐藤基金という財団が運営していて、「石洞」は理事長佐藤千寿の雅号から採ったという。
コレクションは内外の陶磁器のほか、千住の地にふさわしい北斎や広重の錦絵など。
質・量ともにすぐれた古染付のコレクションもあって、この日はその企画展を開催中だった。
思いがけないものを見ることができて、得した気分だった。

* 千住金属工業株式会社
はんだで発展して、「接合」「接続」「結合」「組立」などの技術にすぐれ、コンピューターや電子・情報通信機器の基板・配線にもつかわれているという。
http://www.senju-m.co.jp/j/index.htm

■ 橋戸稲荷神社
東京都足立区千住橋戸町25

川に近づこうとして歩いていくとこじんまりした神社があった。
小さいが、周囲が人工的建造物ばかりなので、こんもりした森のような存在感がある。

拝殿の前扉には、伊豆長八(いずちょうはち1815-1889)の鏝絵(こてえ)があった。白狐の母子が描かれている。漆喰が盛り上がって流れるような線になり、きつねの体形を描いている。
こんなところでこんなものにあうのも意外だった。
伊豆長八の白狐のこて絵

■ 千住大橋

ニッピのおばけ煙突にどれだけ近づけるか歩いてきたが、隅田川左岸、ニッピ側には道がないようで、対岸から眺めるしかなさそうだ。
そこで橋にかかると、千住大橋だった。

あとで調べたら、最初に千住大橋が架橋されたのは、徳川家康が江戸に入って間もない1594年のことで、隅田川最初の橋だという。それで今の橋にも「大橋」とだけ書かれていたわけか。
たまたま渡ることになってしまった、という感じで、そんな由緒ある橋を僕は初めて渡った。左右は2007年の東京で、江戸を偲ぶような風景はない。
千住大橋

■ ふたたびニッピ本社(おばけ煙突)

渡ってからすぐのあたりでは、住居や駐車場があって、またなかなか川に近づけない。
ようやく上がれたところが、1本残る煙突の向かいにあたるところだった。
『東京物語』では、何度か数本の煙突から煙がでるのが映し出されていたが、今は1本きり。
千住大橋駅から眺めると高層住宅に埋もれるふうだったが、こちら側からは今でも際立っている。

おばけ煙突は今は1本だけ

■ 浄閑寺
東京都荒川区南千住2-1-12  tel. 03-3801-6870
http://www.jyokanji.com/index.htm


南に下り、都電荒川線の終点、三ノ輪駅付近、常磐線のガードをくぐると浄閑寺がある。

1855年の大地震のときに新吉原の遊女が投げ込むように葬られたことから「投込寺」といわれ、「吉原総霊塔」が作られている。

大きな台座部分の脇の鉄柵の窓からのぞくと白い骨壺がいく段にも積まれているのが見える。
浄閑寺の遊女の慰霊塔

永井荷風がよく散歩に訪れ、荷風の碑があり、また山谷の日雇い労働者を悼む「ひまわり地蔵尊」というものもある。

■ 行燈旅館(あんどんりょかん)
東京都台東区日本堤2-34-10 tel. 03-3873-8611
http://www.andon.co.jp/
設計:早稲田大学入江正之研究室+D.F.I  2005年


現在の街区でいうと浄閑寺のある「南千住」の南、「日本堤」に、外国人を主な対象にした旅館がある。
半透明の壁面の現代建築のなかに、オーナーが収集した骨董品が置かれているという。
下町の立地、現代建築、日本の骨董。
ロビーまで入って、英文のパンフレットをもらってきただけだが、機会があれば泊まってみたい。
行燈旅館

「吉原大門(よしわらおおもん」バス停から都バスに乗って上野駅にでた。1つずつの距離は近いが、葛飾、足立、荒川、台東の4区をめぐったことになる。