7月第4週(2) 天の川の2 − 3人の「星のひと」


金勝山という低い山の山頂付近にプラネタリウムがあり、4月から投影に関わっているのだが、新設から10年経過して課題をかかえている。さいわい天文を専門にする友人がすごい仲間も誘って3人で見にきてくれた。 埼玉県立小川げんきプラザのプラネタリウム

茨木孝雄さんは杉並区立科学館にいて、天文民俗学というものを専門にしている。友人がそんなことをしていると教えられるまで、僕はそんな「学」を知らなかった。いちばんいい例が七夕なのだが、天文と民俗との関係を研究対象にしている。最先端の宇宙論も見すえながら、ふりかえって過去からの、天文現象と関わる人の暮らしにも目配りする。理科系でもあり文化系でもある全方位的なところがおもしろい。

同じ杉並区立科学館の伊東昌市さんは、長くプラネタリウムに関わってこられた。初期の光学式から、現在のコンピュータによるデジタル式まで、歴史にも現在の状況にも精通し、しかも海外まで視野に入っていて、プラネタリウムの第1級の専門家。

高幣俊之(たかへいとしゆき)さんは、独立行政法人理化学研究所計算宇宙物理研究室に在籍している。デジタルプラネタリウムにもっとも詳しい人で、MITAKAというプログラムの開発に関わった。
MITAKAは「天文学の観測データや理論的モデルを見るためのソフトウェア」とホームページでは説明されているが、最先端の宇宙研究の成果を基にしているのに、太陽系や銀河系の外まで飛び出して自由に宇宙旅行的感覚で眺められる、今どきのプラネタリウムの根幹にもなるようなもので、専門知識がなくても楽しめる。

僕がいるところのプラネタリウムを今後どうしたらいいかということに意見をいただいたのだが、ひととおりの話がすんでから、日が暮れて、寄居の料亭、喜楽に行った。寄居の名酒、白扇を飲みながら、それぞれの第1線にいる人たちと宇宙の話をする。
この先は秩父の山地に入っていく荒川のほとりの小さいが風情のある店に、有識の客を迎えてはるかな空の上のことを語っているのは、まるで南画の世界にいるようだ。奥深い山の苫屋に客が訪れてくる南画の状景は、そっくりそのまま絵の中に入りこみたいと思うほど、僕には憧れの場、憧れの時だ。
それが今夜はほとんど実現したようなものだった。
僕にはようやくいくつかの星や星座が見えかけてきたところなのだが、長く深く夜空を見続けて、ずっと多くのことが見えている人たちと話している。
すぐそばの崖の下を荒川が流れている。

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■ 国立天文台
東京都三鷹市大沢2-21-1 tel. 0422-34-3600
http://www.nao.ac.jp/index.html

後日、三鷹市にある国立天文台で、デジタルプラネタリウムワークショップという集まりがあって参加した。
プラネタリウムを運営している企業や自治体の人、プラネタリウムや天体の映像の開発に関わる技術者、プラネタリウムのシステムを販売している企業の人などが集まる。
僕にはこれまで無縁だった世界だが、宇宙をどう見せるかということを考えているわけだから、それに参加した僕にも、文字どおり世界が広がるようで、わくわくした。
国立天文台には小さいながらドームがあって、3次元プラネタリウムのデモンストラーションがあった。
ただでさえドームに星空が映るのは魅惑的なのに、映像が立体的にとびだして見える3D効果を加えるのだから迫力がましそうだが、実用的に使えるものにするにはまだもう1歩のようだ。3D用のメガネがゴツイもので、ふちが視野を狭くしているし、メガネは使いまわすので、清掃・消毒の手間がかかってしまう。

天文台の中も見てまわった。
三鷹の天文台は、もとは麻布にあったが、関東大震災で被災して三鷹に移転して、80年以上がたっている。
久しぶりに訪れた天文台は、前に来たときより公開の見学場所が増えていた。
暑いが、日射しが建物にきれいな影を作っていた。
高さ20メートルの塔全体が望遠鏡の筒になっているアインシュタイン塔なんていう奇妙なものがあり、第一赤道儀室だとかレプソルド子午儀だとかいう名前からは、先端の科学に関わっているものなのになぜか郷愁をさそわれる。

国立天文台:アインシュタイン塔 国立天文台:自動光電子午環の収容庫
アインシュタイン塔の上部 自動光電子午環の収容庫

■ 三鷹天命反転住宅 
東京都三鷹市大沢2-2-8
http://www.architectural-body.com/mitaka/

天文台には三鷹駅からバスに乗って行ったのだが、その前に1つ手前のバス停で降りて「三鷹天命反転住宅」に寄り道した。
現代美術の作家、荒川修作と、詩人マドリン・ギンズが作った9戸からなる共同住宅で、2005年に竣工した。
身体も精神も安定しない場において揺さぶれば、定まった運命がよいほうに変わっていく、転んでいくという。
岐阜県養老市には養老天命反転地というテーマパークがあり、斜面ばかりで平衡感覚を乱されて転んでけがすることがあるので話題になった。
その住宅版だからまともに人が住めるだろうかと心配になるが、ふつうの意味で暮らしやすいかどうかはともかく、家の中で転んでけがをしたという話はきかないようだ。
なにやらアヤシイ建築だから、住宅街の奥まったあたりに、秘密のように埋もれているのかと勝手に思っていたが、片側2車線の交通量の多い道に面して、堂々と目立っていた。

立方体や円柱など、幾何学的立体を組み合わせていて、しかも立体ごとに鮮やかな色をしている。
今ではコンピュータを設計につかうことで不定形な建築も作りやすくなっているのに、芸術家と詩人が組んだのに、フリーハンド的ではなく、定規とコンパス的なのが意外な感じがする。
三鷹天命反転住宅:幾何学的でカラフル

三鷹にはほかに三鷹の森ジブリ美術館もあり、非現実と現実、想像と実体、虚と実がふれあい、重なろうとするような所がいくつもあって、おもしろい。

参考: