9月第1週 都電荒川線に乗って荒川の交響詩をききにいく


作曲家の仙道作三さんが荒川をテーマにした大曲を作っているという話を聞いていたが、完成し、9月2日に初演のコンサートがあるという。あいにくその日は都合がつかなくて、前日のリハーサルを聴きに行った。
午後のリハーサルの前に、都電の1日乗車券400円を買って、妻といっしょに都電・荒川線をうろうろした。

■ あらかわ遊園 (荒川遊園地前駅)
東京都荒川区西尾久6-35-11 tel. 03-3893-6003

http://www1.tcn-catv.ne.jp/acc/arakawa_yuen/yuuen01.html

都電でこのあたりを通るといつも気になっていたが、おとなひとりでは行きにくい。今日は妻と一緒だから、いいチャンスだ。
都電の1日乗車券で入園できる。

僕らの子どもが小さい頃、浅草の花やしきには行ったことがある。ディズニーランドのような洗練されたテーマパークとは雰囲気が違い、レトロな感じで、それなりに居心地がよくて、とても楽しかった。
あらかわ遊園もそんな期待をしていたのだが、ずっと小規模で、公園のなかの小遊園地みたいだった。
山羊や羊や猿がいる、こじんまりした動物園を眺め、観覧車に乗った。
コーヒーカップとメリーゴーラウンドには乗る気にならなくて、ジェットコースターは動いていなかった。

アリスの広場という野外舞台があって、隅田川に向かって開いている。

さらさらっとひとまわりして、つもりよりずっと短い時間だけいて、外に出た。
あらかわ遊園の野外ステージ。隅田川に面している。

● 明美 (梶原駅)
東京都北区堀船3-30-12 tel.03-3919-2354

都電の名物として有名な「都電もなか」の店に行った。
土産物屋のような店かと思っていたが、しっりした和菓子が並んでいた。
「王子の狐」158円とか、「梶原の渡し」168円なんていうのもある。
都電もなかは1個130円で、最中の広告文はこんなのだった。
都電を形どった100%糯米の最中種(皮)の中に、最高級の北海道小豆を使用した風味豊かなつぶ餡と、白玉粉で拵えた口当りの良い求肥は絶妙です。風味を逃さぬよう特殊和紙で包み、都電のミニチュアパッケージに入れました。

■ 台東区立一葉記念館 (三ノ輪駅)
東京都台東区竜泉3-18-4 tel. 03-3873-0004
http://www.taitocity.net/taito/ichiyo/


あらかわ遊園で時間を費やして、昼を食べて、コンサート、という心づもりだったが、あらかわ遊園を早く出てしまったので、都電の終点、三ノ輪駅まで行き、永井荷風が散歩によく寄った浄閑寺におまいりしてから、一葉記念館に行った。

樋口一葉(1872-1896)が『たけくらべ』(1895)を書いたのは、この近く龍泉寺町に暮らしたころのことから着想していて、小説の舞台になった寺や神社が付近に散在している。もちろん吉原も近い。
『たけくらべ』は、子どものころ、子ども向けの本で読んで、おもしろくなかった記憶がある。
おとなになって、日色ともゑが朗読したCDを聞いてみたら、リズム感、テンポのよさとあわせ、おもしろかった。作品が発表された頃、辛口の批評家であった幸田露伴がほめたということがわかる気がした。露伴の『五重の塔』と同様、難しい漢語が並んでいるにの、文章がずっと緊張感をもちながら音楽のように続いていく。

記念館の前の道には車が入れないようにしてある。向かい側は小公園で、立地にくふうがされている。
一葉はわずか24歳で結核で亡くなった人だが、しかも代表作はその終盤近くに集中していて、「奇跡の14か月」と評される。その14か月の創作で大きな記念館が作られてしまうのがすごい。

■ サンパール荒川大ホール (荒川区役所前駅)
   <荒川区制施行75周年記念事業>
   環境フェスタ2007 荒川・隅田川を謳おう!


という大イベントの前日なのだが、都電で三ノ輪駅から荒川区役所前駅まで戻って、サンパール荒川に行った。(都電の1回の乗車は160円。この日何度も行ったり来たりしたので、400円の1日券で、あらかわ遊園を含めて800円以上つかった。おトクだった。)
当日は、中学生による環境に関する研究発表、お天気キャスターの森田正光さんの講演会などがあるのだが、リハーサルは音楽だけ。ただし本演奏の前日に、本演奏そのままにするのだから、そっくり本邦初演の演奏を聴くことができる。

作曲家の仙道作三さんの作詞・作曲による交響詩「荒川173・隅田川23.5」というタイトルは、荒川と隅田川の川の長さ(キロメートル)を意味している。
全8楽章で、ソプラノの独唱(うち1楽章だけテノール)があり、最終の第8楽章には、ソプラノとテノールに、200人ほどの小学生と区民の合唱が加わった。

第1楽章 荒川の分水嶺    甲武信岳から秩父へ
第2楽章 荒川岸辺の芸術   長瀞から寄居へ
第3楽章 元荒川の脈流    熊谷から越谷へ
第4楽章 荒川支流       高麗川、越辺川、入間川
第5楽章 荒川の舟運     川越から浅草へ
第6楽章 ビオトープ・彩湖  秋ケ瀬、戸田周辺
第7楽章 荒川放水路     川口から河口へ
第8楽章 隅田川(合唱つき) 岩淵水門から東京湾へ

背景に映しだされる荒川の映像は、寄居町に住むカメラマンが中心の「荒川を撮る会」の会員が撮影したもの。 交響詩・荒川のリハーサル風景

すばらしい曲と演奏だったが、歌詞が説明的なのが惜しいと感じた。もうひとつ音楽に変換されていないと、荒川のウンチクを聞いているようで、聞き惚れる、感情移入する、覚えて口ずさむ、ということがないように思った。

● 鍵屋  (これはJR鶯谷駅)
台東区根岸3-6-23-18 tel. 03-3872-2227
 

日暮れが近づいてきて、都電を離れて、鶯谷駅から近くに有名な居酒屋があるというので、JRの線路に向かった。
言問通りから古本屋の角を入ると、まるでふつうの住宅のような構えだが、確かに「鍵屋」の看板がある。
5時開店の少し前に着くと、もう先客が2人待っていた。
5時になると、女性が現れて、のれんをかけ、花を飾る。
居酒屋・鍵屋の夕景色

中に入るとカウンターと座敷があり、古いカブトビール(なんていうのがあったんだ...)の看板などが壁を埋めて、古懐かしい風情がある。
ぽつりぽつりと客が入ってきて、ゆったり間隔をあけてだが、まもなくほぼ一杯になった。
煮豆のつきだし。常温の辛口を2本注文。
たたみいわしが香ばしい。みそおでん、卵焼き、うなぎのくりからやき、煮奴、などとすすむあいだに澗を1本追加。
9月初日にしては涼しい日で、入口はあけっぱなし、とくに冷房なしでちょうどいい加減の宵だった。
ほろ酔いになって出ても、外はまだうす明るい。
大地震もなく、ゆったりと1日が終わった。

参考:

  • 『樋口一葉 たけくらべ』 朗読:日色ともゑ 学習研究社 サウンド文学館 1995
  • 『たけくらべ』 樋口一葉 ちくま日本文学全集 筑摩書房 1992