12月第2週 金勝山/小川げんきプラザの初冬  


冬になった。
小川げんきプラザは標高264mの金勝山にある。街中では今年も寒くなったなあというくらいの時季だが、山にいると、もっと冬の姿が見えてくるということがあるようだ。

◇ 紅葉
ふだん仕事をしている本館は金勝山の山頂近くにある。朝の出勤はかなり急な上り坂。ジグザグに上がって、最後は一直線のやや長い坂になる。道の脇にイロハモミジの木が並んでいて、ほとんど水平方向からの日射しを受けて、葉が紅く光を含んでいる。
そこを車をゆっくり走らせていくと、晴れがましいような気分になる。

金勝山/小川げんきプラザ:紅葉が映える坂道

◇ 空気が澄む
空気が澄んで、風景がいちだんとよく見えるようになった。
食堂あたりからは広い展望を見晴るかすことができる。
左のほうで秩父山地がゆるやかに傾斜をさげて終わっている。
正面に寄居の市街があって、荒川が秩父山地から関東平野に出た、最初の町になる。右手にかけて、深谷、熊谷の市街がある。さらに右には埼玉南部から都心まで市街地が続いている。
深谷市と熊谷市の境あたりの荒川の姿がチラと見えるのだが、どういう加減か秋ころまでは水の流れが見つけにくかった。寒くなり、川面が空の色を映すように青くくっきりと見えるようになってきた。

それが中景で、遠景には、浅間−妙義−赤城−男体−筑波といった関東平野を囲む山々がひかえている。
浅間は生クリームのような雪をかぶっている。
赤城はうっすらと山頂付近だけ掃いたように雪が着いている。

◇ 落葉

山道を歩いていると、葉が落ちたので、木の間が透け、見通しがよくなっている。歩いて行く道が見えるし、歩いてきた道が見える。
木々の下の斜面が見えて、木の葉が積もって、印象派の点描のようになっている。
金勝山/小川げんきプラザ:木の葉が落ちて林を風が抜ける

かつて北浦和公園のなかの埼玉県立近代美術館に通っていたことがある。都市の公園でも、清掃の人たちがいったん回収しおえても、またすぐあふれるほど葉が落ちていたものだった。小さいとはいえ、山全体ではどれほどの量になることだろう。
前に、植物を専門にする人に、日本全体では、木の葉の枚数は何枚になるものだろうときいて、ただ呆れられたことがある。海の水量とか、山の木の数、木の葉の数とか、自然の物量はすごい。
池の水面も落ち葉に覆われている。
キャンプファイア用の空き地にも、厚く、びっしり落ち葉が散り敷いている。
この季節に歩くよさは、ほかに、顔にクモの糸がかからないということもあるし、マムシもいないし、スズメババチもいない。

◇ 金箔ダスト
金勝山には尖った小ピークがいくつかあって、前とか西とかをつけて区別しているが、本館の南には裏金勝山がある。
ある日、プラネタリウムの投影前にふとそちらに目がいったら、あいだの谷に、木から飛ばされた、紅葉した小さな葉がたくさん舞っていた。
下に散るのでもなく、ある方向に吹かれ去ってしまうのでもなく、谷あいの空間で舞い続けている。
山は向こうからの日射しの影になって黒く沈んでいる。
葉は日の光を浴びて金色にキラキラ輝く。
氷の結晶が降るダイアモンド・ダストという現象にならってキンパク・ダストとでもいおうか。

◇虹
朝から晴れていた日の午後3時ころ、ふと赤城方面に淡い虹がかかっているのに気がついた。短く太く、モコモコした雲の下までかかっている。
虹は雨上がりにかかるものだと思っていたので、驚いた。
金勝山/小川げんきプラザからの眺め:関東平野に虹がかかる

◇夜景
仕事を終えて帰る時間には、もう日が沈んでいる。
標高264mからでも、寄居から都心まで関東平野の夜景は魅惑的だ。灯りが密集する市街までの間に山があるから、六甲山から神戸の夜景を見おろすように一面の広がりにはならないが、荒川に沿うようにして細い帯のように輝いている。
それでも坂道を車ですーっと下っていくと、遠くからの旅の終わりに、夜、羽田に着陸するときのような感覚にとらわれる。からだは低く下ってゆき、たくさんの光の点が集積する夜景が相対的にせり上がってくる。
毎日のようにこんな気分を味わっていたら、実際に飛行機が着陸するときに感動が薄れてしまうのではないかと心配になるほどだ。

● 石窯薪焼きピザの店 のこのこ
埼玉県比企郡小川町伊勢根217-12  tel.0493-72-1990

金勝山からは少し離れるが、小川町内を車で走っていて、いい店にいきあった。
なだらかな丘陵の道で、「ランチ」の小さな木の札を見かけて細い道を入っていったら、ポツンと店があった。現れ方がなんだかいい。
ランチを頼むと、ミックスピザ+ミニパスタ+コーヒーで680円。
ピザは薄い生地でとてもなじむ味だし、パスタには野菜がたくさん入っている。
木造家屋の先端に合板の食堂をくっつけている簡素なつくりだが、光が入って軽やかで居心地がいい。
明るい奥さんに、にこやかなご主人。(関係を確認したわけではないので推量だけど...)
それに、やはり夫婦らしい先客も、みんな自転車仲間らしくて楽しそう。

小川町のこのこ:石窯焼きピザ 小川町のこのこ:ランチはピザとパスタ

● 里山
埼玉県比企郡小川町高谷202-1 tel.0493-74-1800

これも金勝山からはやや遠く、「のこのこ」にはすぐ近い。
自分の手で昔ながらのおいしいそばを作る!と思い立って会社勤めをやめて店を始めたという。1日20食限定というこだわりの作り方をされている。
そばのメニューはもりとざるのみ。大盛りにするとか2枚頼むとか、量を加減するほかには、酒、ビール、つまみとあるだけ。
大盛りを注文した。
奴豆腐がついてくる。そばもつゆも素直な味わいで香りがいい。豆腐も軽い蛋白補給になって手頃におなかがみちる。
こちらも店が構えすぎていなくて簡素なのもいい。
店のつくりから、蕎麦、つゆ、お茶の一杯にいたるまで、心がこもっている。素直にそう感じとれることにしみじみとうれしいよろこびがある。

里山:小川町の蕎麦屋 里山:そばには奴豆腐がついている

春から小川通いになり、歩いてみると小川にはすてきなところがいくつもあった。まだ、初冬になって初めてこういういい店に2つもいきあえることがある。
いい町だと思う。