2月第3週 吉祥寺で映画『長江哀歌』 


大西暢夫さんの映画『水になった村』と大西さんの話に感銘を受け、精神病院に関しては『すべての些細な事柄』を見たのだが、さらに、ダムに沈む人々に関しては『長江哀歌』を見に行った。
これもいつか見たいと思っていたのだが、ちょうど吉祥寺で上映の機会があった。
吉祥寺はかつて僕が初めて一人暮らしをした懐かしい街でもあり、今もときおり歩く。

● 小ざさ(おざさ)
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-8 tel.0422-22-7230
http://www.ozasa.co.jp/index1.html


吉祥寺駅の北口から数分のところにある小さな、有名な和菓子屋さん。
吉祥寺・小ざさのもなか

10時の開店より前に着いたが、隣のメンチカツの店はもう開いていて、行列の客が買っていく。小ざさとは隣り合っているが、小ざさの客は、あとから開くので遠慮してか、道の反対側に並んでいる。
少し並んで待って、もなかを買った。
羊羹は、8時半に整理券をだしていて、10時にはもう売り切れている。
もなかは5個270円で、有名なのに安いし、安いのにおいしい。

■ 吉祥寺バウスシアター
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-23 tel. 0422-22-3555
http://www.baustheater.com/


北口のサンロードを歩いていって、西友が右にあり、その反対側に小規模なシネマ・コンプレックスがあった。
僕が住んでいた頃にはシネコンなんてなくて、南口に3館だったか並んだ映画館にときどき行った。
僕は映画館の裏に住んでいて、吉祥寺駅からはすぐ近く、静かな夜には駅の案内放送が聞こえてくるくらいだった。
僕が暮らした家は、建て替わったどころではなく、大きなビルと遊歩道ができて、まわりじゅうすっかり様子が変わってしまった。

□ 『長江哀歌』
監督・脚本:ジャ・ジャンクー 撮影:ユー・リクウァィ
出演:チャオ・タオ ハン・サンミン 2006年


16年前に去った妻を探しに、ダムに沈む街にやってきた男と、ダム建設に関わって2年も家に帰らない夫を探しにきた女の物語が並行する。
男は、船に乗って出ている妻が戻るのを待つ間、水に沈む建物が流れを妨げないように破壊する仕事について、たくましい腕は汗とほこりを帯びている。
男の行方をたずねる女は、水を入れたペットボトルをいつも手にしていて、女の体そのものが小さな川であるかのよう。
そういう実体感ある生身の人物がじっくりとリアルに描かれるのに、物語とは直接関係なく、非現実的な映像がいくつか挿入される。
UFOが飛ぶ
不思議な構造の建築が見えていたのが、突然、ロケットのように噴射して飛び去る。
長い日常生活の描写に非現実を挿入する点でガルシア・マルケスの『百年の孤独』を思わせる。

長江は中国を東西に横断して全長6300キロ。
下流域での洪水は多くの死者もだし、治水は古くから中国の課題で、孫文が1919年に三峡ダムの必要性を提唱したが、国共内戦で進展しなかった。
毛沢東もその構想を引き継ごうとしたが、文化大革命で止まる。
激しい賛否の議論を経て、1994年に着工し、2006年には本体ができあがり、2009年に全体が完成予定という。
環境問題、多くの住民の移転など、反対意見があってもダム建設が強行されるのには、中国が解決すべき正統な課題という意識があるかもしれない。

中国語には、白髪三千丈とか誇大な表現がよくあるが、国土が大きいから比喩にとどまらないスケールがあって、三峡ダム1個の貯水量は日本にあるダムの貯水総量のおよそ2倍。
月から見える人工物は万里の長城だけといわれるが、月から見える湖はこのダムの貯水池だけなんてことにもなるだろうか。
犠牲は大きく、130万人を移住させるという、この大きさも中国的。
『水になった村』では、水没予定地に散在する木と紙の農家を解体するシーンがあったが、こちらでは都市をまるごと破壊することさえある。
妻が帰るのを待つ間、男は小さな建物を壊す工事現場で働くのだが、遠くでは大きなビルが爆破され崩壊していく。
リアリズムの映像じたいがSF的でもあった。

● いけす無門吉祥寺
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-5-25 tel. 0422-21-1438
http://www.mumon-group.com/


映画を見終えて、新しいギャラリーができたのを見に行こうと北に歩いて五日市街道を横切る。
エスニックの店が多いが、和食の店があって、昼食に入った。
焼き魚定食が850円。
うまいし、みそ汁も漬物もおざなりではないし、店の人もいい感じで、すっと茶を足してくれたりする。
正解だった。
他の人が注文した刺身定食が運ばれていくのがチラっと目に入ったら、新鮮でうまそうだった。次はあれにしてみようか。

■ アートセンター・オンゴーイング
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-7
tel.0422-26-8454
http://ongoing.jp


Ongoingという、ギャラリーというのか美術団体というのか、組織体が、2002年から5回の企画展示を経て、2008年1月に常設の拠点を作った。
木造二階建の家屋を、縁のあるアーティストや建築家がリノベーションして、1階がカフェと美術資料室、2階がギャラリーになっている。
オンゴーイング 吉祥寺 民家を改造したギャラリー

□ 和田昌宏展『L.D.K.』
開所の最初の企画で和田昌宏展『L.D.K.』を開催中だった。
タイトルは住宅の間取りをあらわす略語のことだろうけれど、誰かの1室という設定で派手な造形物が雑多に配されている。
てづくり感覚でリノベーションした民家に、模擬室内を作ってあるから、どこまでがリノベーションで、どこからが作品か迷うような、奇妙な状態になっていた。
日常の続きのようで、なにかしらツンと立ち上がる感覚がなくて、少しわびしかった。

■ 中村研一記念小金井市立はけの森美術館
東京都小金井市中町1-11-3 tel. 042-384-9800

吉祥寺駅から中央線を西に向かって、武蔵小金井駅で降り、はけの森美術館まで歩いた。
もとは中村研一美術館といって財団が運営していたが、今は小金井市立になり、「はけの森」と冠している。
中村研一記念小金井市立はけの森美術館

多摩川の流れがつくった河岸段丘である国分寺崖線のへりにあり、「はけ」というのはその崖の斜面のことで、清水が湧いている。

(美術館を出てから、少し南にある野川沿いの道を散策して東小金井駅に向かった。河岸段丘の坂には「ムジナ坂」の名がついていた。)
ムジナ坂 小金井・はけの道は河岸段丘

□ 『CIRCULATION 天から地から 多田正美×柴田敏雄』
2人のアーティストの展示を、天と地にたとえている。
天は、多田正美で、美術館には珍しい音大卒で、雲の写真に自分の体の形を線でかきこんでいる。
地は、柴田敏雄で、自然と、その中に作られた人工物との対比を写真に撮っている。
地球上で、上を眺める/水平方向を見る−という景観を対比しているのだが、今ちょうど読んでいる本には、それらを総合する視点のことが書いてあった。

僕はアメリカの宇宙飛行士とロシアの宇宙飛行士、両方あわせて30人くらいインタビューしているんですが、彼らが宇宙から地球を見たときに、どういう意識の変化があったかを聞いたところ(中略)すべての宇宙飛行士が共通してあげたことが実は2つあります。
 1つは、宇宙から地球を見ると、どこにも国境なんて見えないということ。だから、この地球のあちこちで人びとが対立して、戦争や紛争を起こすことがいかにバカげているかが、宇宙から地球を見ていると、本当に実感できるということ。
 それからもう1つは、地球というのは宇宙の中で本当にひ弱な存在であり、人類が少しでも誤った選択をすると、この星は死んでしまうということがすぐにわかるということです。
(『[立花隆・対話篇]宇宙を語る』 立花隆 書籍情報社 1995 )

■ 藤屋画廊 六朝会展
東京都中央区銀座2-6-5 藤屋ビル tel.03-3564-1361

一度西へ移動したのに、また中央線でずーっと東へ向かい、終点の東京駅まで乗って、銀座の画廊で友人たちのグループ展を見た。
六朝会は、長瀞から熊谷まで、荒川流域に住む画家たちの集まりで、内田清一、野口市郎、浜島義雄、原田二郎、松島達夫、渡辺公志の6人。
銀座・藤屋画廊 六朝会 今年から旗までできた

毎年このころに定期的に開くので、別の友人やその妻たちまでが集まってきて、銀座で飲むのを楽しみにしている。僕には鑑賞と飲食と、どちらが主目的かわからなくなっているくらいだが、歩き回っていろいろなことを思いもした1日の終わりが、めでたしめでたしの昔話ように楽しかった。

参考: