5月第3週(2)
竹林のギャラリーかぐやで竹の尺八のコンサート 


古い民家にほれこんだ井上正さんが開いた古民家ギャラリーかぐやの最初の展示は横尾龍彦さんの絵画展。
最初のイベントはクリストファー遙盟さんの尺八のコンサート。
井上さんにとって、おふたりとも長く親しいおつきあいのある方で、夢が叶ってギャラリーを開くことことができたら最初におふたりにお願いしようと思っていたという。
だから尺八のコンサートの日は、井上正さんにとって夢がそろって実現した素晴らしい日だったわけだ。

もとは土間だったところに板を張り、椅子が並べられてコンサート会場にしてある。
照明は、太い竹を斜めに割ったなかにろうそくをともしてある。
まさに「かぐや」の素敵なしつらえがされた中でコンサートが始まった。
夕暮れの古民家ギャラリーかぐや

暗いなかからクリストファー遙盟さんが尺八を吹きながら現れる。
低く、細く、かすれるような音が流れる。
幾筋かにかすれた筆の線のような音がほとんど見えてくる。

聞いているうちに「へりにひとりで立っている」感覚にいることに気がついた。
たとえば、荒れた平原をみおろす崖の先端。
あるいは岸辺にいて広い川の流れを前にしている。
ときには飛んでさえいて、陸と空のへりにいる。
ひとりでいて、ほかに人も生き物もいない。
でも不安ではなくて、寂しいことに音が保証を与えてくれていて、それでいいといってくれている。 
クリストファーさんが曲の合間で話をされ、さあ次の曲を始めようというときに、「お聞かせしよう」ではなく「連れて行こう」という言い方をされたのだが、なるほどそのとおり連れ去れられるふうで、その表現に納得した。

すっかり演奏が終わってから、かつて一時期、カルロス・カスタネダ(1931?-1998)が書いたドン・ファンの教えにひかれていたことを思い出した。
幾冊か厚い本に挑んだが、頭だけで理解してすむのではない、メキシコに行って幻覚性植物を見つけださなくては実感的に理解できない、とひきさがった。
(その後ロサンゼルスからメキシコにかけて旅したことがあったが、ただグレイハウンドのバスでウロウロしただけでは当然、何にも出会わなかった。)
そのころクリストファー遙盟さんの尺八を聞いていれば、いくらかは実感的にドン・ファンの世界に近づけたかもしれない。

コンサートが終わってから立食パーティーが開かれた。
大皿の料理は新しいギャラリーの誕生を祝う人がそれぞれに持ち寄った心づくしのものでおいしかった。
クリストファー遙盟さんに井上房一郎との出会いについて話を伺った。
井上房一郎の人脈というのは大きなもので、音楽だけでなく、板東玉三郎や磯崎新など多くの人に会わせてくれた、それがなによりの支援だったといわれる。

*クリストファー遙盟尺八コンサート
 2008.5.17(土)
 古民家ギャラリーかぐや http://g-kaguya.com/
    埼玉県比企郡滑川町福田1560 tel.0493-63-0012

写真左:尺八を吹くクリストファー遙盟さんの自画像
写真右:井上正さんの横向き自画像

クリストファー遙盟さんのサイン。尺八を吹く。 井上正さんのサイン。横からの自画像。

参考:

  • 井上房一郎とクリストファー遙盟さんの簡単な軌跡
        (井上)井上房一郎 (クリ)クリストファー遙盟
    1898 (井上)生まれる
    1951 (クリ)生まれる
    1952 (井上)高崎の自邸(現・高崎哲学堂)竣工
    1961 群馬音楽センター竣工
    1975 アントニン・レーモンド没
    1976 (クリ)小平市民会館でコンサート 井上が会場を訪れ、以後支援が始まる (井上78歳、クリ25歳)
    1993 (井上95歳)逝去
    2000 (クリ)群馬音楽センターでの高崎市制100周年式典で演奏
  • 『尺八オデッセイ 天の音色に魅せられて』 クリストファー遙盟 河出書房新社 2003
  • クリストファー遙盟さんのサイト http://www2.gol.com/users/yohmei/ 
  • 『呪術師と私 ドン・ファンの教え』 カルロス・カスタネダ 真崎義博訳 二見書房 1974 
     〜
    『無限の本質 呪術師との訣別』 カルロス・カスタネダ 結城山和夫訳 二見書房 2002
    『チベットのモーツァルト』 中沢新一 せりか書房 1983
    『気流の鳴る音 交響するコミューン』 真木悠介 筑摩書房 1977