7月第1週(1) バス停「荒川土手」


数年前に父が亡くなった。
その少し前の時期に、生きているうちに渡しておきたいと思ったか、父の弟の写真を託された。
軍服姿で写っている。
戦艦武蔵に乗り、1944年に沈没し、戦死した。
弟が戦争中に亡くなったとは聞いていたが、そのようにはっきりと特定できる死に方をしていることは初めて知った。
今ごろになり、家族に年金だかが支払われるとかで別の親族から連絡があり、区役所に書類をとりに行った。ついでに散歩していて、田端の洋食屋で昼食にした。

● がらんす 
東京都北区田端1-15-16 tel.03-5814-8615

田端駅から南に下っていく。
電柱ごとに商店街のシンボルマークの旗をとりつけてある。芥川龍之介のカッパが笑顔で手をふっている。
京成八幡駅の近くの商店街には「荷風の散歩道」があって、永井荷風の似顔絵がかかれた旗が並んでいた。
偏屈で1人で死んだ作家も、自殺した作家も、年月がたつと商店街の景気づけの旗になるのかと、おかしいような寂しいような気分になる。

右に曲がれば赤紙仁王札不動というあたりで、左に折れた。
小さな家に入ると、すぐ左に3人ほどのカウンター。中央に数人座れる丸テーブル。右、窓よりに2人が向かい合いに座れるテーブル。
ゆったりしたピアノの曲が流れる。
ガラス戸には、楕円形に透明部分がある。
文明開化のころにワープしたようで、気持ちがしっとりする。
ハンバーグシチューが950円。シチューのなかにハンバーグをいれて煮込んであり、ふっくら、しっかりした味わいでおいしかった。

■ 荒川土手
「がらんす」に向かって「田端だいすき りゅうのすけくん」通りを歩いているときに、バスが走っていて、行き先が「荒川土手」となっていた。
荒川土手なんて何キロもあるのに、あえてバス停に名乗っているのはどんなところかひかれた。
国立国会図書館にやはりバスで向かったとき、行き先が「晴海埠頭」だったもので、図書館の用がすんだあと晴海埠頭へ行ったことがあったが、また放浪気分がよみがえってきて、食事のあと、バスに乗った。

バスは北に向かって、京浜東北線、都電荒川線、隅田川を越えた。
隅田川と荒川にはさまれて中之島のようになっているところから、江北橋で荒川も越える。

土手を下りながら左に大きく曲がったあたりに、バス停「荒川土手」があり、バスを降りた。
歩いて土手に上がる。
荒川がゆったり流れている。
高速中央環状線の江北ジャンクションの下になり、ダイナミックな構造物が交差している。

土手を降りるとまだ乗ったことがない舎人線の駅らしいのが見える。あれに乗って戻るのもいいかと行ってみたら、高架の駅と思いこんでいたのは吉野石膏の大きな工場だった。
暑い日に、この先、道が定かでないところを歩いていく気をなくしてバス停に戻った。

待っていると、向かい側の、さっき僕が降りたバス停に着いたバスから高校生の男女が降りた。階段ではない草の斜面を上がり、手をつないで歩いていった。
青春映画のようだ。

参考: