7月第3週 旧・江南町の建売住宅タウン 


千駄ヶ谷から南青山へ、美術と建築を見て歩く。

■ 秋山画廊『伊東孝志展 刻跡』
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-6  tel. 03-3401-9505
http://www.akiyama-g.com/

埼玉県小川町の旧カレー工場をアトリエにしている伊東孝志さんの個展を妻といっしょに見に行った。この画廊へは代々木駅から歩いたものだったが、開業してまもない地下鉄副都心線に池袋駅から初めて乗って北参道駅から歩いた。

きっかりとした直方体のギャラリーに3点だけ展示してあった。
1つは、作家がかがみこんで雨上がりの水たまりに息を吹きかけている写真作品。口からでた見えない空気の流れが、先で小さな波を起こしている。
雪の中に置かれた温かい有精卵が、雪を溶かしながらわずかずつ沈んでいく10分ほどの映像作品。これは前には静止した写真作品だった。
つきあたりの壁にも映像が投影されている。夕暮れ、さざ波が繰り返しやってくる浜辺。アーティストが水に入っていき、マッチをすると少しの間燃える。そして水から戻ってくる。
海でマッチを擦る−というのでつい文学的記憶がよみがえってしまった。
  マッチ擦るつかのま海に霧ふかし
     身捨つるほどの祖国はありや  −寺山修司

でもこれはただの連想で、伊東さんの作品には国などという不穏で不気味なものは関係がない。
水、空気、光、熱などという物理的存在・現象を表現していて、しかも(自分の)身体があるから、それらの存在や現象もある。
生きている手ざわり、小さな実感があって、自分がこの世界にある。

この展示のために伊藤さんはすてきなパンフレットを作られた。紙といい、デザインといい、とても上質なものだが、そこに僕が伊藤さんの作品に寄せて記した文章をのせていただいた。僕の文章がこういうところに使われるのは最初であり、またおそらく最後のこと。本来、伊藤さんの作品を人に薦め知らしめる役割をもっているわけだが、むしろ僕のほうで、伊藤さんのパンフレットにつかってもらったということで励まされる思いがしている。
僕の知る限りの知り合いに送ったあと、いくつか手元に残ったのをさいわいに、大切にしておこうと思う。

■ ときの忘れもの『石山修武新作版画展 電脳化石神殿』
東京都港区南青山3-3-3 青山CUBE 1階 tel. 03-3470-2631
http://www.tokinowasuremono.com/

建築家というのは、現実そのものの建物を作るのに、じつは哲学者であり、夢想家であって、固い「実」を生み出す発想のもとには、モヤモヤとした「虚」がただよっているのはふつうのことといっていい。
ところが石山修武さんの場合は虚実の混じり具合が格別で、「実」のなかに「虚」が深く入り込んだものが現実に建築として現れてしまっている。
同じ時期に、世田谷美術館で「建築がみる夢石山修武と12の物語」という展覧会が開催されていて、物語と名づけているとおり、展示されたプロジェクトは「実」に「虚」が大幅にはいりこんでいる。

石山さんの『夢のまたゆめハウス』を読んで気になっていたことがあった。
『看板の前』という一編で、埼玉県大里郡江南町に魅力的な土地が建売住宅用地として売り出されていて、本人が知らないうちに「石山修武が設計します」と広告されている。現地に大きな看板があって、週末になると幾組もの家族がやってきて、ほとんどそこに住まいがあるかのように、お茶を飲んだり、花を植え、草取りまでして、楽しそうに過ごしていく−ということが書かれていた。
どんな建売住宅群ができあがったのだろう。
江南町は、今は合併して熊谷市に含まれているが、このホームページのベースにしている寄居町から荒川を10kmほど下ったあたりで、たいした距離ではないから、所在がわかれば見に行きたいと思っていた。
それで江南に住んでいる人数人に尋ねたことがある。う〜んとしばし宙に視線を浮かせて思い当たるところがあるか考えてくれるが、誰もあそこだ!と思い当たる人がなかった。

秋山画廊で伊東さんの個展をみたあと、青山にある画廊「ときの忘れもの」に石山修武版画展のオープニングに行った。
「ときの忘れもの」を主宰する綿貫不二夫さんは、僕がしばらくオッカケをしている井上房一郎と、高崎高校以来縁があり、ときどき話を伺ったりしている。
そこで石山さんに江南町のその後を尋ねた。
すると、江南町で住宅を設計するプロジェクトがあって進んでいたが、実現しなかった、そこから空想したとのことだった。
実話があって空想物語に変形させたのだが、近頃は空想物語が実話に侵蝕しつつあって、それが世田谷美術館での展示に示されたようなプロジェクトになり、そうした虚実が合成される脳の中を版画にしたのが「ときの忘れもの」の版画展といっていいようだ。

● MOMINOKI HOUSE
東京都渋谷区神宮前2-18-5 tel. 03-3405-9144
http://www2.odn.ne.jp/mominoki_house/index.htm

創業して30年をこえるという自然食のレストランで夕飯にした。
サラダとなす焼きをとり、白ワインを飲みながら、野菜たっぷりのピザ、野菜たっぷりのパスタ、焼きおにぎりなどを食べた。おいしく、てごろにおなかがみちる。
オーガニック・コーヒーを味わってよい1日をしめくくった。

参考:

  • 『夢のまたゆめハウス』 石山修武 筑摩書房 1998