7月第4週 旧自動車展示場でニパフ・アジア・パフォーマンス・アート連続展  


霜田誠二さんが主宰するアジア規模のパフォーマンスの公演を見に行った。
2006年の8月にも熊谷の石上寺で公演があり、そのときは次から次へとでてくる人、演じる動きをみても、ただ茫然と眺めるばかりだった。「なんだ、これは!」といわせるものが芸術だという岡本太郎の定義からすれば、まさに芸術だった。
ところが今夜はずいぶん見えたような気がする。
僕がこういう表現に馴れたのか、パフォーマンスの質が前回と何か違ったのか、そこまではわからないが、気分がのってきた。

会場は、行田−吹上を結ぶ道と、国道17号とが交差する角で、どちらも片側2車線ずつある広い交差点に面している。
元荒川沿いにある僕の家からは自転車で10分ほどで、目には入っていたのだが、こういう使い方をできるおもしろい場があることに、はっきりとは気がついていなかった。
石上寺といい、旧自動車展示場といい、地元のアーティストが探し出しているらしいのだが、こういう発見を見るのも楽しい。
国道沿いの旧自動車工場がまつりの会場だった

とはいえ、せっかくの会場に海外からまでアーティストを招いているのに、国際的なアート展というには少し寂しい様子だった。
20人ほどの出演者、10人ほどのスタッフ、20人ほどの観客で、それも観客のほとんどアーティストの友人とか何かしらの関係者らしい。僕みたいに「これは何だろう」なんていう関心でトビコミのように来る観客はまれなようだ。
しかも3日の会期は、このあたりの最大のイベント、熊谷のうちわ祭とすっかりかぶっている。人を集めるべきイベントを、こんな時期に至近距離で開催する無謀、大胆、不思議。
ほかに東京や横浜会場での公演もあるから、ここではうちわの(団扇のではなく、内輪の)ワークショップのようなものなのかもしれない。

          ◇          ◇

パフォーマンスというものがある程度見えるようになったかと、なじんだ思いでそれぞれのアーティストの公演を見たのだが、なかでも友清ちさとさんのパフォーマンスにひきこまれた。

会場は骨組だけが残るがらんどうの大空間。
コンクリートの柱2本を白い布で結び、緑の葉のついた榊(さかき)の枝を両手にもち、白い布にそって横に動きながら、お祓いをする。
一対の柱のお祓いを終えると、あとずさっていって、次の並行する柱2本を白い布で結び祓うということを繰り返して、大空間の端までいく。
それで終わりではなくて、横に動いて祓いながらまだあとずさっていって、道を越え、白いガードレールも越えて、向こうの草むらに姿が消えた。

僕は野外の美術展が好きで、あちこちによくでかける。
友清さんのパフォーマンスをその延長上にとらえてもいいとすれば、僕にもなじみがある。
自分の表現を見せると同時に、場を見せもする。
ただ場所を借りて自分の表現の舞台にするのではなく、空間の大きさと構造と今は廃墟であることを見せ、廃墟を聖なる場所、特別な場所に仕立て、道を越えていくことで、ここの位置づけも示された。
それでいて理詰めというのではなく、白い衣裳をつけた姿が遠ざかっていくときには、あんなに遠くまで行ってしまったと、切ないような気分にさえなった。

遠ざかりはじめる前にひとことだけ言葉を叫んでいった。
僕はいくらか聴力障害があって、はっきりと聞き取れなかったのだが、「さいじょうだよ!」と言ったようにきこえた。
意味を考えてしまった。
「祭場だよ!」だろうか。
白い布と緑の榊で宗教的しつらえを用意して、ここは特別な場所だと言ったのかもしれない。
あるいは「最上だよ!」だろうか。
ここにこうして自分が演じていて、みんなが見ているこの場、この時が最上だと。

オノ・ヨーコとジョン・レノンの出会いのことを思い出した。
ヨーコの個展をジョンが見に行った。
はしごを上がった先の天井に小さな字がかいてある。
ジョンはよくないことが書いてあるのだったら帰ってしまおうと思いながら上がってみると、「YES」と書いてあって、それがヨーコとジョンの歴史の始まりになった。
僕はその話がとても好きで、さいたま新都心のジョン・レノン・ミュージアムにその展示が再現してあるのを見るたび、シンとする。

友清さんのパフォーマンスを魅入られるように見終えたあと、ひとことさけ叫んだ言葉が嫌な言葉だったらイヤだな、とジョンと同じように思い迷っていて、すべてのパフォーマンスが終わったあと、当人にたずねたら、
「愛情だよ!」
と言ったのだという。
よかった。

          ◇          ◇

鮮やかな緑色の稲のあいだを自転車で帰った。
半分の大きさの月がでていて、星もいくつか見えている。
去年プラネタリウムの上映係になって、いくらか星を覚えたつもりだったのに、今夜見えているのが何の星かわからない。
パフォーマンスがいくらかわかりかけてきて、かわりに星がわからなくなったろうかと、あやふやな知識のもちように情けなくなる。

少し離れた向こうの道を小さな小屋ほどもある大きなトラックが照明をつけて走って行った。
トトロにでてくる猫バスのようだった。
ミャンマー、光州、インドネシアのバリ、ニューヨークと、来日アーティストの国を並べてみれば現世界史のようだ。
ジョン・レノンとオノ・ヨーコの出会い。
星空。
猫バス。
線香花火のようにいろんな向きに想像がとんで、特別な一夜になった。

参考:

  • 第13回ニパフ・アジア・パフォーマンス・アート連続展
    2008.7/21-7/23 しのぶ自動車旧自動車展示場(行田市下忍4-3-8)
    7/22の出演者 
    1.オー・ヨンジュン(韓国) 2.谷口有夏 3.霜田誠二 4.イゲデマデスリャ・ダルマ(インドネシア)
    5.友清ちさと 6.野本翔平 7.タモウ・ ナイン(ミャンマー) 8.ジョン・ジョルノ(アメリカ)
  • [ 8月第1週(1) 荒川が置き去りにした庭 ]