10月第5週
おやぢコンサートvol.44「セロ弾きのゴーシュ」


■ 立正大学

菅原邸のコンサートに行く前に、久しぶりに立正大学に寄り道した。正面奥にアカデミック・キューブとか、スポーツ・キューブとか、新しい校舎ができていた。
元の本館でも何か工事中だったのが意外だった。
このキャンパスは、槇文彦が槇総合計画事務所を1965年に設立して最初の大きな仕事で、1965年〜67年にかけて全体配置計画と数棟の校舎を設計した。大学の改造計画にあたり、槇事務所から保存の意向があり、本館は残るときいたように思っていた。
枠組みは残っているから、記念館のようなものに作りかえているのかもしれない。
和田吉野川の分水路に沿って見事な桜並木があるが、そのあたりに広い堀になるらしい工事も行われていた。前はあじけないコンクリートの水路だったのを、桜が映える流れにかえているみたいだ。
春が楽しみ。

[ 荒川ゆらり 2006.11月第1週(2) 立正大学のキャンパスを川が流れて荒川へ]

■ おやぢコンサートvol.44「セロ弾きのゴーシュ」

埼玉新聞に連載した『寄居日和』の1つに書かせてもらって以来、ファン(やみつき)になった菅原元彦さんの住まいでのコンサートがあった。
しかも今回はおなじみの「古民家ギャラリーかぐや」の井上正さんの一家が出演された。

だしものは宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』
主役のゴーシュを、日本フィルの首席チェリストの江原望(えはらのぞむ)さんが演じて、もちろん演奏もきかせてくれる。夢のようなぜいたくさ。音が輝く。
楽長ほかの役は、プロの俳優の一見直樹(ひとみなおき)さん。よくとおるせりふが場内に響く。(芝居の前に演じられた獅子舞で怖がってしまった子どもが、ゴーシュを叱りつける楽長の言葉におびえて、また泣き出してしまうということもあった)
ゴーシュの部屋にやってくる三毛猫や狸は、井上芙沙子さんが操る人形が演じる。ただおおざっぱな動きで物語をたどるのではない。自作の人形はそれ自体がとても可愛いのだが、手のひらがヒラヒラと舞ったり、足先がプルプル躍ったり、細かな動きまで表現されている。行き届いた可愛さ、繊細さに、おっ!わっ!とわくわくさせられる。
語り手が井上絵比奈さん。ざしき童子(わらし)が語るという設定で、「新潟から寄居に移されたこの家に住みついて、幸福が続くように見守っていますからね」と語りかける笑顔が優しくてすてき。
題材を選び、出演者を役どころに割り振る井上座長にしても会心の出来だったろうと思う。

『ゴーシュ』の前には江原さんのソロの演奏があった。
哀愁を帯びた、かすかにふるえるような日本的旋律もあって、チェロはこういう音もだすのかと聞き惚れた。
続いて、チェロの演奏にあわせた獅子舞!があった。
意外な組み合わせのようだが、少しも違和感がなかった。獅子は滑らかな動きで、とくに背中がこぶのようにふくれあがったり、へこんだりして、獅子の感情がいきいきと表現される。耳が立ったり倒れたりする動きも、ピリっときいている。
踊り終えて獅子のかぶりものをはずすと、激しい動き、怖い獅子の表情からは思いもつかない、すがすがしい美人の井上奈々星さんがさっそうと現れる。決まりすぎ!という気がするほどにみごとだった。

舞台が終わると交流会になる。みっちゃんが3日もかけて気合いをいれて準備した料理が並んで、立食パーティーになる。食材の選択といい、料理のしかたといい、テーブルへの並べ方といい、斬新さに目が驚かされる。もちろん口も喜ぶ。

前回、僕は初めてで、目についた皿のものからそこそこの量を食べてしまったら、先のほうではおなかいっぱいで十分に味わえなくなってしまった。
今回は賢くなった。1つの皿から1つかみくらいずつ、物足りないくらいに食べていって、それでもひととおりの皿のものを食べるとおなかが満ちてしまった。
なのに、ぎょうざだの、モロコの天ぷらだの、焼きたて、揚げたての新しい料理が運ばれてくると、目が欲しがってまた手をだしてしまう。

みっちゃんが1曲歌う。他の人たちが合いの手を入れる。楽しい気分が弾けるほどにあたりに充ちて、菅原さんが「人が集まると家が喜ぶ」と言われていたことが、しみじみと実感される。

菅原さんが信念をもって勧める浄化槽システムが、ベトナムでのプレゼンテーションで認められ、近く試験設置することが決まったときいた。こんなうれしいことも重なって、今日の集まりはほんとうに楽しかった。

       ◇       ◇

僕はよく+-の対抗表のことを考える。
生きているのはいいことだと思わせてくれるできごとに行き会えば+。
生きてるのがしんどくなるようなできごとは-。
-は万有引力のように広範強大だけれど、何とか+のほうを多くして、差引+に浮かせたい。
今夜の集まりは++とか+++とかにカウントしたいほどの大得点だった。
菅原さんに感謝!だし、今夜のコンサートを企画し、また菅原さんを紹介していただいた井上さんにも感謝!
なのだが、その井上さんが主宰する「古民家ギャラリーかぐや」に連れて行ってくれたのはアーティストの伊東孝志さんだった。
伊東さんと知り合ったのは、伊東さんが参加されていた展覧会を見た感想を僕がホームページに記したのを見て、伊東さんがメールを送ってくれたからだった。
さらにいえば、その展覧会は群馬県太田市にある名酒「群馬泉」を作る酒蔵が火事になり、廃業しそうになったとき、支援しようと企画された展覧会だった。
だから、「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいになるが、群馬の酒蔵の不幸な火事が、菅原さんの楽しいコンサートに導いたことになる。
「群馬泉」の酒蔵を持つ島岡酒造は展覧会の支援が実って(とばかりはいえないだろうが)復興していい酒を造り続けている。
不幸がやがて楽しいことにつながっていくこともあるし、不幸もいつまでも続くわけではない-と思う。

参考: