5月第2週 畠山重篤講演「森は海の恋人」 



さいたま文学館で、牡蠣の養殖を本業とする人の講演会があった。
畠山重篤(はたけやましげあつ)さんは、宮城県のリアス式海岸にある舞根湾で牡蠣の養殖をしている。
牡蠣にはエサがいらない。自分で勝手に海から栄養をとる。
海はにそこに流れ込む川が栄養を運ぶ。
川がきれいな水とよい栄養を運ぶためには、山の森がきちんとしていなくてはならない。
そう考えて、漁師が山に木を植える運動を始めた。

その発想がすごいが、なおいちだんとすごいのは、運動を成功させるには、キャッチフレーズが必要だと考えたこと。
仲間で議論して、「ワカメもカキも森の恵み」でどうだといったが、「それじゃお経みたいで色気がない」と反論される。

そこで、縁あって、宮城県の歌人、熊谷龍子(くまがいりゅうこ)さんが詠んだ歌に行き着く。

  森は海を海は森を恋いながら悠久よりの愛紡ぎゆく

ここから「森は海の恋人」というキャッチフレーズが生まれ、みごとに人の心をつかんで、運動は成功する。

簡単には理解を得られないようなことが広まるのに、言葉が強力なアクセルになったことで、養殖の漁師が文学館で講演することになったのだった。
熊谷龍子さんの祖父・武雄は、埼玉県を代表する歌人・前田夕暮の友人であったという縁もある。

講演はダイナミックで、自然と人への愛にみち、ユーモアもあり、とても楽しかった。
畠山さんの活動に興味を持ち、畠山さんの養殖場に流れ込む川の環境測定を定期的に続けるなどして本を書いた大熊光治さんも会場にいらした。大熊さんとは、かつて同じ仕事場にいたことがあり、久しぶり。楽しく飲んで歌うのがが好きな陽気な人。
文学館の担当学芸員、田中裕子さんは、こういうおもしろい企画を立てて文学館を元気にする明るい人。
畠山さんも、地球環境のことを考えると展望は暗いのだが、負けずに取り組んでいく前向きな人。
講演の終了後も、こういう人たちが集まってにぎやかで、とても楽しかった。
僕も前から畠山さんの「海のために山に木を植える」という、はじめは常識を越えていながら、やがて常識に変えていった生き方に興味をもって、舞根湾まで行ってみたことがある。ようやくご本人にあえて、充実した講演会だった。

* 企画展「森は海の恋人」の会期の後半には、「荒川を撮る会」の写真展が同時に開催された。
寄居町で僕がしばしばお世話になっている岩田省三さんが率いる集団で、荒川を継続的に撮っている。


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参考:

  • 『歌集 森は海の恋人』 熊谷龍子 北斗出版 2000
    『森は海の恋人』 畠山重篤 文藝春秋 2006(文春文庫)
    『気仙沼湾を豊かにする大川をゆく 森は海の恋人の舞台』 大熊光治 2009
  • 『残したい・伝えたい荒川 2000~2009』 荒川を撮る会/著 埼玉県 2009
  • [11月第4週 牡蠣の1-気仙沼から石巻