2011年7月第3週 小川の醤油工場再生お披露目会


2か月ほど前から、旧知の美術家・伊東孝志さんが、小川町の旧・醤油工場をリノベーションしていた。
完成して、ご近所の人に見てもらうお披露目会が7月13日にあった。

日野清商店跡は、醤油の製造・販売をやめてから、一部は駐車場やマンションになったが、本宅部分が残ってしばらく空き家のまま放置されていた。
『小川町史』に、明治35年の小川町中心部の商店が一覧表にまとめられているのだが、今スーパーマーケットになっているヤオコーの発祥の八百屋である八百幸などと並んで、味噌醤油製造のこの日野清商店ものっている。それほど歴史の古い店になる。

伊東さんが借り受けてギャラリーに改装を始めると、しばしば通りかかる近所の人から声をかけられた。
「いよいよ壊しますか?」と残念そうにきかれて、
「いいえ再生しています。」とこたえる。
中には昔ここで働いていたという人がいて、
「この大黒柱を磨いたものだった」
と懐かしがられたという。

そんなふうにして改装の間に知り合った人たちが大勢あり、お披露目の集まりには50人ほどの人がいらしていた。正直なところ、僕はもう少しこじんまりした集まりを想像していた。これほどの人が集まるのは、伊東さんの人柄でもあり、近所の人たちに古い建物がよみがえることへの期待もあったのだろうと思う。
町家は間口が狭く、奥に長い。
閉じていた間に積もった埃や、改築された部分が取り除かれ、すっきりと風通しのいいたたずまいになっていた。

家が新しく使われることになったのを寿(ことほ)いで、伊東さんの友人の大塚幸穂(さちほ)さんのチェロの演奏があった。
演奏のあいまの大塚さんの話によると、
「木の楽器は木の家になじむ。練習をし始めたときには、しっくりしなかったが、時間が経つうちに楽器と家がなじんできた。とくに床が、チェロにあわさってきた」という。(こういうプロの感覚ってすごいと思う。)

演奏された曲は、
 エルガー:愛の挨拶
 瀧廉太郎:荒城の月
 バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番よりブーレ
 バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード
 シューマン:トロイメライ
家を使い始めるあいさつの曲や、埋もれていた楽譜が再発見されてよみがえった曲や、懐かしい子どもの情景の曲。
曲の選択は大塚さんにすっかりまかされたそうなのだが、演奏もすばらしかったし、曲の選択もみごとだった。

ステージになった板の間のうしろの壁には、その床板の1枚をフロッタージュした伊東さんの作品が架かっている。
伊東さんはもともとこの醤油工場から近いカレー工場をやはり改装してアトリエにされている。
そのアトリエにしろ、庭にしろ、展示会場にしろ、伊東さんの空間構成のセンスにはいつもうっとり、ため息なのだが、今日の舞台も、しつらえも照明もさすがのできばえで、たんのうした。
演奏の合間には、隣の牛乳販売店の牛乳が配られた。久しぶりに飲んだ瓶入りの牛乳が冷たくておいしかった。

家が生き返り、楽器が生き、演奏が生き、集まった人たちの気持ちも生き生きしてきて、とてもいい集まりだった。


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