五頭山から水の駅「ビュー福島潟」と、映画「芦沼」を探す旅
/水の駅「ビュー福島潟」


(旧)豊栄市の4 水の駅「ビュー福島潟」
   −光あふれるらせん形の塔を心ときめかせて昇る

新潟県新潟市前新田乙493
tel.025−387−1491(ヒシクイ)

       ◇       ◇

ぼくがいちばん好きなミュージアムの1つ。
まず広々とした田園地帯の中に立つロケーションがいい。越後の農村風景の美しさというのは、越後妻有アートトリエンナーレを見に行ったときに知ったのだが、ここも素晴らしい。鮮やかな日の光と緑の稲の対照。
透明な展示室のらせんのスロープを上がっていくのは心ときめく思いだし、建築の内部も色づかいがすてき。最上階から外に出ると、潟や、水田や、川の流れや、川に沿った集落が光を浴びて横たわっているのを全方向に見晴るかす。

       ◇       ◇


(写真:菜の花の時季の眺め)

きっかけは建築雑誌で、青木淳設計のこの建物の記事と写真をみて、ぜひ一度行きたいと思っていた。
そのときは「潟博物館」という名称になっていて、さあ行こうというときになってインターネットで検索しても見つからない。
ようやく水の駅「ビュー福島潟」がそうらしいと見当がついたのだが、実際に着いてみても、道の駅をもじったような名前なので、博物館では経営が苦しくて、商業施設に変わったのかもしれないと思ったりした。

のどかな風景の中で、上ほど大きくなる異様な形の建築がどんなものかと思っていたが、悪くない。外壁は透明なガラスで、重すぎず、目ざわりでなく、明るい。らせん階段が2カ所(空中廊下の反対側を含めれば3か所)とりついているが、つる植物が巻きついているような柔らかい雰囲気を作っている。

(写真右:こんな傾いたガラス壁をどう掃除するのだろう?ふつうの高いビルだと、屋上の外周のレールからゴンドラを吊るしたり、岩登りに慣れた登山家が遠征費稼ぎにアルバイトしたりする。でもこの尻すぼみの形では難しそう −と思ってきいたら、4階にゴンドラがあって、上下に長い棒状器具を伸ばして清掃するというのだった。


中に入ると
1階:ミュージアムショップ 券売機 受付の人がいる
2階:会議室 事務室 富岡惣一郎の絵 「雪、福島潟」が壁にかかっている
3階:カフェ 資料展示 ボランティアの人たちが運営している
4階:ここから上が有料で、福島潟に関する自然や歴史についての展示がある。
いちおう 「階」があるが、らせんのスロープをなだらかに上がっていくので、どこから5階になるとか、とくに気にしなければわからないうちに上がってしまう。
部屋で区切ってしまわない連続した展示を、外の景色も眺めながら見ていく。この散歩感覚の展示というのは、建築家のアイデアだという。


( 3階から1階のミュージアムショップを見下ろす)


らせんのミュージアムの先例には、フランク・ロイド・ライト設計のニューヨークのグッゲンハイム美術館(1959)がある。(写真下)


ル・コルビュジェもらせん形のミュージアムのアイデアを長い間かかえていて、インド中西部のアメダバッド美術館(1957)、東京上野の国立西洋美術館(1959)に実現している。
東京・青山にあるSPIRALも、展示部分がらせん形。(
槇文彦+槇総合計画事務所設計 1985)
いずれも閉じていて内側に光源があるのに、水の駅「ビュー福島潟」は開いていて、光が外から入ってくる。


とにかく明るい。壁が透明なら、展示も透明。
透明なアクリルに、文字と図の説明がある。透けてしまってやや読みにくい気もするが、全体としていい。
カエルや、魚や、オニバスの大きな葉などが、やはり透明なアクリルの立方体に封じ込めてある。

周囲のガラス壁から離れた中央の区画に企画展示スペースがあって、2001年夏には、「野鳥地元学チョチョズ カラカラズ」というのをやっていた。
チョチョズ、カラカラズというのは、オオヨシキリという渡り鳥の呼び名で、ほかにも、チョンチョンズ、ケケシ、ギョロ、ゲロゲロチンなど、いくつもあるという。
展示には、オオヨシキリと人々の関わりをめぐる潟地方の文化、渡り鳥をめぐる科学などがあって、地に足のついた活動をしている、やはりきちんとした博物館だった。

ただ、もともと「野外でホンモノを見る」のがいちばん大切という考え方から、ここは、そのためのきっかけづくりや、情報発信の機関と位置づけられている。
だから博物館と名乗らない。
市民公募による館名も、その考え方から選ばれている。
      
最上階は展望ホール。階段状の客席に囲まれて舞台がある。下にふくらむ円形天井は深い藍色で、宇宙的。
夏には花火大会があって、ここでビールを飲みながら眺められるという。次はそのときにしよう!


       ◇       ◇

建築家は、いろいろな材料を使って、色や質感を演出している。
外側はガラスと、小さくて軽そうな木片を張り合わせた壁。
室内では、中央の円筒状のコアの部分を、曲げた合板が覆っている。
黒い粒々した床は、上に行くと、やがておむすび形の白いタイルを埋め込んだものにかわる。
廊下=展示室の天井は白い、柔らかそうな、ふわふわした繊維だが、最上階で深い藍色の円形天井に至る。


そしてトイレ
トイレの手前は、サイン以外には装飾やわずかのでこぼこもなく、壁も床も天井もきっぱりと白い。
内部も基本は白。この中をまた壁とドアで仕切るのではなく、個室と用具室である黒い箱を、入れ子状に置いてある。
手洗いの前のグレーに反射する鏡
新鮮な意匠の建築でも、窓のアルミサッシや、トイレの作りなどが、あまりにありきたりでガッカリすることがあるけれど、ここではどこまでも造形の意志を貫いている。
潟の柔らかい土地に建築するという構造上の問題さえクリアすれば、広い平坦な土地なので、他にややこしい条件はなかったと思われる。建築家は、きっと楽しんで作ったに違いない。
トイレにまでデザインを貫いてこそ!

そのトイレにはオレンジ色の石鹸がおいてある。
無彩色のトイレに、くっきりとしたアクセントになっている。
いいなと思って、他の階のトイレをのぞくいてみると、やっぱり必ずオレンジ色。
建築家がここまで指定しているのかと思ったのだが、そこまではしていなかった。

館内には、余計な掲示物や、目ざわりな注意書きがない。
素晴らしい空間を目指して設計されたミュージアムでも、きれいな庭に出られるはずのガラスのドアに鍵がかかっていて、「立入禁止」とか、「締切」とかの紙が貼ってあって、夢破れる思いをする−といったことが、ときどきある。(とくに公立施設で多い。)
ところがここは違う。(そのことも、ここが市の関係する博物館ではないのかな?と思い迷った理由の1つ。)
看板、掲示などをできるだけしないこと、もしするときは、黒のほかには自然の色を使う、それにはオオヒシクイの嘴の色であるオレンジを使うという合意ができている。
オオヒシクイは雁の仲間で国の天然記念物。福島潟はその日本一の飛来地で、豊栄市の鳥に指定されている。
トイレの石鹸は清掃を委託されている会社の作業員が補充しているが、そこまで館の方針が伝わり、協力してくれてオレンジの石鹸が置かれているということらしい。

建築家と、美術館の運営者とは、意外に悪口を言い合う関係が多いみたいなのだが、ここではとてもいい関係になっている。
建築家が、設置の趣旨を生かす建築を作り、完成後、運営に関わる人たちが建築の魅力を損ねることなく、とてもいい感じで使っている。


→ [ ミュージアムのトイレ ベスト5 / 山のトイレ ]


       ◇       ◇

道を隔てて潟が広がっている。空中廊下を渡って、そちらに行く。
農家の建物を復元してあって、「潟来亭」という休憩所になっている。
( はじめ 「ヤクザな人は入れません」 という意思表示かと思ったのだが、「語らい」 が正解だろうな。)
縁側に腰掛けて無料サービスのお茶をいただく。
正面に見える山並みのほぼ中央が五頭山(ごずさん)で、この方角からは見えないが、水原というあたりからは5つの突起が見えるという。
春には、あたりは菜の花がきれいだった。
夏には、少し離れた沼にここが北限というオニバスの花を見に行った。
(右の写真。直径1mほどもある大きな葉。)

潟の遊歩道を歩いていくと、思いのほか道が長い。潟の水に、夕暮れが近づいて光が傾いている空と雲が映る。しっとりとした、心休まる時間だ。
こういう位置から見ても、建物の存在に違和感がない。

春は菜の花畑だったが、8月には一面にそばの花が咲いていた。中央の屋根が潟来亭。


建築前に、この施設の計画を考える人たちは気球に乗って潟を見下ろしたという。ふつうの目の高さでは潟の地形をよく理解するように見通すことができないので、ある程度の高さから眺めることの効果を確かめて、建物の高さを決めている。
上に広がる形については、柔らかい土地なので、建物を確保するのに長い杭が必要になる。底面積を小さくすることで杭の本数を減らし、建設費を低く抑えたという、合理的理由もある。
(写真右:水の駅「ビュー福島潟」から見下ろす春の福島潟)

水の駅「ビュー福島潟」の受付で、川の対岸にある宿泊施設菱風荘を予約できたので、橋を渡って行く。
振り返ると、下向きのガラス壁に、川の水面のゆらめきがきらきら反射してとてもきれいだった。


TOP このコースの目次に戻る次へ→