宝登山から埼玉県立自然の博物館



コレクションについてのいくつかのこと 


6 虫の鎮魂


動物が好きで動物を研究する学芸員になるのだけれど、博物館にいると、調査や研究で生き物を採集し、命を奪って標本にすることになる。
もちろん哺乳類や鳥類のような大きな動物を生きている状態で捕らえて標本にしたりはしない。こういう大型の動物は、山の中でケガをしたり、道路で車にはねられたり、ガラス窓にぶつかったりして、偶然に発見された遺体を引き取る。
道路や森林を管理する機関や、友の会の会員など、そうした情報が寄せられる協力体制ができている。
外観の状態のいいものは形を残して剥製にし、いたんでいるものは骨だけにして保存する。

ところがごく小さな生き物ではただ待っているわけにはいかない。地中にすむ小さな虫を研究するようなことになると、研究対象の虫だけを選んで採集することなどできなくて、たった1回採取した土の塊の中だけでさえ、ついでに数えきれないほどの生物を取り込んでしまう。
そうした研究者たち同士では、億の単位の命を奪ってるから、死後は天国には行けないよな−と話しているという。

博物館の庭のすみのほうに、動物担当の学芸員たちが自費をだしあって建てた「蟲慰霊之碑」がある。「虫」ではなく、「蟲」の字を選ぶところに、いかにも数多くの虫−という思いが読みとれる。
公有地に私費の建造物を置いていいかという意見もありうるが、虫のことだからとくに何の宗教ということもなく、虫の命を悼むささやかな慰霊碑。

思えば、博物館では、動物に限らず、植物にしても、あるいは生命のない地質資料にしても、もとあった場所から人為的に引き離し、移動し、隔離して保存していることにかわりはない。
この小さな碑に、博物館の職員たちの、草や虫や石をいとおしむ気持ちが表れているように思える。













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