ポンポン山から遠山記念館



 2−3  遠山記念館 − コレクション


■ 美術館のコレクション

ここのコレクションには2つの核があって、1つは遠山元一が邸宅に置くことを念頭に集めたもの。
もう1つは、第2代館長の山邉知行コレクション。
東京国立博物館に在職していた頃から集めていた多数の人形と染織品で、国立博物館では、由緒ある寺に伝わる古裂や、宮廷装束など、いわゆるミュージアムピースだけを収集し、庶民の着る衣装などには関心を持たなかったことから、個人で集めていた。(館員は、埼玉県蕨市の山邉氏の住まいに置かれていたことから「蕨の正倉院」と呼んでいたという。)
ほかにも購入や寄贈により、コレクションを充実させている。

南米ペルーの紀元前のナスカ文化の色鮮やかな文様の鉢がある。
エジプトの裂(きれ)やインドネシアの布がある。
日本の人形があって、雛祭りの時期には、中棟の座敷に並べられる。
頼朝一休の書があり、紀貫之書と伝えられる寸松庵色紙(重要文化財)がある。
中近東の焼き物に日本の茶道具。

「古今東西から」とか、「時空を超えて」とかいう慣用句がぴったりあてはまってしまいそうな豊富さだが、それでいて雑多な感じはしない。
様々な文化、さまざまな芸術への目配りをして、しかも1点豪華主義ではなく、それぞれの分野で上質のものを選んでいる。
よく作られた展示室、よく考えられた展示も、じっくり落ち着いて鑑賞できる場を作っている。

ゴッホの花の絵や、ミレーの農村画や、リキテンスタインのドット絵画を持つような人にはなれなくてもいいけど、「こんなコレクションを持つような人」にはなってみたい。

そのゴッホの絵みたいな、話題(大騒ぎ)になるような作品というのはないけれど、いろいろな分野の質の高い作品を持っているので、あちらこちらの美術館や博物館の展覧会で、ここの所蔵品が貸し出され、展示されているのにいきあう。

新聞でわりと最近続けて紹介されたのが、英一蝶(はなぶさいっちょう)(1652−1724)の「布晒舞図(ぬのさらしまいず)」29.7×55.3cm。
英一蝶は江戸時代の人で、人気のあった画家。この絵は、さらし舞という、長い布を持って畳につかないように舞う、一見のんきな情景を描いている。風俗に関わることかで島流しになっていた三宅島でかいて江戸に送られた作品ということが、想像を誘う。
(英一蝶は1698年から1709年まで島流しになっていた。流罪は無期刑だが、徳川綱吉が死んで大赦になり、戻ることができた。)

 朝日新聞「名画日本史 イメージの1000年王国をゆく 布晒舞図」2000.4.2
 読売新聞「絵と人のものがたり 英一蝶1−4」2002.11.10-12.1

それから200年以上たって、やはり南の島から送られた木が家具になって記念館にある。
三宅島や御蔵島など、伊豆諸島産の桑は特別に島桑といって珍重される高級材で、島桑を使える作家は限られている。
木工界における最高位となる「桑樹匠(そうじゅしょう)」と称される前田南齋(1880−1958)は、遠山元一から経済的支援を受けながら島桑を使って邸宅のための家具を制作した。30余点あって、一部は邸宅にいつも置かれ、一部は美術館の企画展の折りに並べられ、見ることができる。
南齋の作品は、益田鈍翁ら多くの茶人、文化人に所有されていたが、多くが震災や戦火により消失したので、この家具類もいっそう貴重になっている。

この美術館では、今までいろいろなものを見せてもらった。僕にとっては、裂(きれ)とか、家具とか、ほかの美術館・博物館であまり見かけなくて知らなかったものを教えられた。
コレクションの量の大きいのに比べて、展示室が小さいので、1回あたりに見られるものは少ないのだが、それだけじっくり見られるし、来るたびに新鮮なものに出会える楽しみもある。
記念館は田園地帯にあり、夏は庭園だけ公開して美術館は休んでしまったり、どこか浮き世離れしたところがある。
そこがまたいいのだけれど、美術館の設計者、今井兼次

「不死鳥」のメダイユ型レリーフにより遠山美術館の永遠性を描出したいと思った。
(今井兼次「面影」 前掲)


というように、すばらしい建築とコレクションが永く伝えられることを願わずにいられない。


遠山元一 母の歴史 遠山記念館 1969
和風建築の粋 遠山邸 遠山記念館 1995
藤森照信 天下無双の建築学入門 筑摩新書 2001
新建築1971.2月
素顔の大建築家たち 建築資料研究社 2001
百華の宴 遠山記念館開館25周年名品展図録(根津美術館)1995
朝日新聞「名画日本史 イメージの1000年王国をゆく 布晒舞図」2000.4.2
読売新聞「絵と人のものがたり 英一蝶」2002.11.10-12.1
遠山記念館だより


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