十神山から和鋼博物館・足立美術館


 2  和鋼博物館 


島根県安来市安来町1058番地
tel. 0854−23−2500
http://www.wakou-museum.gr.jp/


■ 和鋼−たたら

和鋼(わこう)というのは、古い時代、原料の砂鉄を木炭の燃焼によって製錬し、鉄や鋼を得たもので、その製鉄法をたたらという。
中国山地には良質な砂鉄があり、山林も豊かで、6世紀頃から始まったとされる。

製法はかわっても、今でも安来はハガネの町で、安来駅のうしろにすぐ日立金属の工場がひかえている。
その日立金属 ( 旧日立製作所安来工場 ) は付属の展示施設 「和鋼記念館 」 ( 1946年開館 )をもっていたが、収蔵品を安来市に移管し、市では和鋼博物館を建設して、1993年に開館した。




■ 展示

展示の核心は「たたらによる製鉄」と明快。
たたらのや、炉に風を送る鞴(ふいご)が、展示室の中央に実物大で復元されている。
ビデオの映像やパネルで製法が説明され、道具類なども展示されている。
製鉄の歴史、社会的・経済的側面の説明もあり、さらに現代の新しい機能をもった鉄−さびない鉄、振動しない鉄など−まで、展望が開かれる。
石器・土器から始まって戦後の電気製品あたりまで、ひととおり全部ある博物館というのは、どこも同じふうになってしまって退屈なことがあるが、ここではテーマが1つなので、興味をそそられ、(少なくともある程度までは)わかった!という感じをもつことができた。


2階の展示室も異様で楽しめた。
天井は黒い鉄骨むきだしのドーム。照明が暗い。「エイリアン」みたいな不気味さがある。
下には炉が中央に置かれている。動くロボットと、ビデオによる解説にあわせて、炉から実際に炎が吹き上げる。(ほんものの炉のように木炭を燃しているわけではないが)
黒いドームに向けて勢いよく赤い炎が燃え上がるので、迫力がある。
じゅうぶんに制御してあるにしても、館内で火を燃す博物館なんて、他にないのではないだろうか。
(やはり設計段階で問題になり、この展示室を構造的に他から別にすることと、ここには文化財を展示しないことで解決したという。)


■ 鉄穴流し(かんなながし)

たたら製鉄の原料になる砂鉄を集めるには3通りある。
山と川と海。
砂鉄を含む母岩から直接採取するのが山砂鉄
砂鉄を含む土砂が川を流れ下るうち、自然に土砂と分離され川床などに堆積したのが川砂鉄
さらに海まで流れ出たあと、波の作用で土砂と分離され、浜に打ち上げられ堆積したのが浜砂鉄

川砂鉄の採取ががいちばん規模が大きい。
砂鉄を含む山を崩してしまう。
長い水路を作り、崩した山の土砂を流して、何段階かでしだいに土と砂鉄を分離していく。これを鉄穴流しという。
山が平地になることもあり、流されて蓄積した土は棚田を作れるほどの量になる。
中国地方の棚田は、こうしてできたものが多いという。

田部美術館
中国地方で 山林王といわれた田部家は、たたらを経営した鉄鋼王でもあり、その代々のコレクションをおさめた美術館の屋根は鋼鉄で作られている。



■ もののけ姫

安来から帰ったあとのことだが、長野県富士見町に行った。
そこに宮崎駿の山小屋があって、『もののけ姫』にたたら場がでてきたことことを思いだし、ビデオを借りてきて、見なおした。
前になんとなく見ていただけのことが、よくわかった。

たとえば、アシタカがたたら場に着いた晩、たたら場の男が、こういう科白をいう。
「俺たちの稼業は山を削るし、木を切るからな。山の主が怒ってな」
たたらで鉄を作るためには、砂鉄をえるために山を削り、燃料にするためのたくさんの木を切る。和鋼博物館に行く前は、漠然と、産業の発展のために自然破壊があるというくらいに考えていた。

女たちがふいごを踏んでいる作業場をアシタカが通りかかって、ふいご踏みに加わる場面では、そこで働く女が
「4日5晩(よっかいつばん)踏みぬくんだ」
という。
炉を築き、砂鉄を入れ、木炭を燃焼させて、炉を崩して鉄の塊を取り出す1回の作業を一代(ひとよ)という。このとき、炉の火の具合を見ながら、木炭を補給し、ふいごの風の具合を調節して、4日5晩(和鋼博物館の資料では、3昼夜)連続して炉をたく。

山を壊すために森の神と対立しているという大きな状況もよくわかったし、たたら場の場面でのあれこれの科白にも、いちいち納得しながら見直した。

『'97年鑑代表シナリオ集』シナリオ作家協会編 映人社 1998 のうち「もののけ姫」宮崎駿


■ 設計

この博物館を設計したのは宮脇檀建築研究室
(みやわきまゆみ 1936−1998)

1 たたら製鉄を含むこの地域の歴史をデザインに取り入れ、
2 建築素材としての鉄を多様につかう
という方針のようだ。

1 デザインとしては、
屋根に3つの特徴ある形をのせている。
1つはハガネ。
2つめに灯台。ハガネの積出港としてのシンボルで、夜は実際に灯りが点るらしいが、昼間行ったので残念。トップライトになっていて、その下がレストランになっている。結婚披露パーティーのために貸し切り中で入れなくて、これも残念。
3つめはゆるい3角形で、たたら製鉄の高殿と、近くにある十神山のイメージを重ねている。
上に乗っている風向板は、勾玉や雲を描いていて、風で向きが変わる。この下の展示室で実際に炎を上げている排気の機能も兼ねている。



2 素材としては、
外壁:耐候性鋼板(錆じたいが塗幕のように保護皮膜となる)
エントランスホール:鋳造鋼管の柱 H形綱の風除室 鋼管のエレベーターシャフト ステンレスパイプの竹垣風の壁 スチールメッシュの天井 

建築じたいが、現代の鉄の使い方として、とても説得力のある展示物になっている。
受付で建築のことを尋ねたら、そういうことを説明した1枚の紙をいただいたが、とくに求めないとそういうことに気づかせる工夫がないのが惜しい。

この博物館の設計は、設計者も力を抜いて(もちろん手を抜いてではなく)、楽しんでいたのではないかと思う。


■ 博物館で結婚披露

1階に市民ギャラリーがあって、僕が行った日には、写真家グループの写真展を開催中だった。三々五々という感じで人が出入りしている。

2階のレストランは貸し切りで入れなかった。盛装した若い男女が楽しそうに食事をしているのが、チラと見える。結婚披露の集まりのようだった。
ミュージアムのレストランで結婚関係を見たのは、水戸芸術館埼玉県立近代美術館につづいて3館目。(水戸芸術館では、中庭で式まであげていた。)
公共施設のレストランは芳しくないことが多いが、結婚の集まりで使われるようならほんものだ。


館名からして、なんかジミそうな博物館−と、あまり期待しないで行ったのだが、とても魅力的なところだった。
展示も明快で面白いし、市民にも気にいられ、よく使われている、しあわせな博物館という印象だった。

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