Ⅱ-2 『リストランテの夜』-アメリカでイタリア料理

『リストランテの夜』(1996)は、 イタリアからアメリカの港町に渡ってきて、イタリア料理のレストランを開いた兄弟の物語。
兄のプリモ(トニー・シャルーブ)は腕がいい。正統のイタリア料理に誇りと愛着をもっている。
弟のセコンド(スタンリー・トゥッチ)は、経営とウエイターをうけもっている。
ほかにウエイターとしてクリスチアーノが働いている。
時代は1950年代、ニュージャージーの港町ではイタリア料理がまだよく知られていなかった。
客の入りはわるく、経営は苦しい。
弟は兄に、妥協してアメリカ人にウケのいい食事を作るように言うが、兄はききいれない。

いよいよ店を続けるのがあぶなくなってきたある夜、有名なジャズ・ミュージシャンが訪れることになる。(ルイ・プリマ Louis Prima 1910-1978 実在した人)
これで評判をとって起死回生を狙い、それで原題は"BIG NIGHT"という。
セコンドは所持金のほとんどをつぎこんで材料を仕入れ、親しい人たちを招き、有名人の来店を報じてもらおうと新聞記者にも知らせた。
ところがなかなかミュージシャンは現われない。
集まった人をいつまでも待たせられず、兄は料理を始める。
メインはティンパーノという兄弟の出身地の名物料理で、手伝いにきたセコンドの恋人にプリモが説明する。
 ティンパーノはパスタの一種で 型に詰めて焼くんだ
 太鼓のような形をしている
 ティンパニーだよ
 その中に世界中で一番うまいものが詰まってる

作るときの様子が調理台の真上から撮られている。 映像で見るだけでもそそられる。

招かれた人たちがテーブルにつき、宴が始まる。
スープがスプーンで口にすくわれていくと、もうそれだけで誰の表情もうっとりしかけている。
それを見て兄弟も満足そう。
それからあのティンパーノ。
さらにさかなや豚やウサギがつぎつぎに現われる。

パーティーに来た人たちは深く満足するが、ミュージシャンはとうとう来なかった。
近くでレストランを経営する人が、兄を自分の店ではたらかせたくて、兄弟の店が続けられなくなるよう、ミュージシャンを招くといつわって仕組んでいたのだった。
兄には、叔父から「ローマで店を開いた、戻ってきて一緒に店をしよう」という誘いがかかっている。
兄はイタリアに帰りたいと思い、弟はアメリカでがんばりたいと意見がわかれ、夜の海辺ではげしい口論になる。

美食と混乱のBIG NIGHTが明けかかっている。
静かな調理室で弟のセコンドが簡単なはらごしらえにオムレツを作る。
カメラは調理室のほぼ全体を見おろして映していて、このあとわずかに左右にふれるくらいで、ほとんど画面は固定したまま。
部屋にはほかにクリスチアーノがいるだけだが、セコンドは卵を3つ割る。
卵を割るのもフライパンで焼くのも慣れた手つきで、ひとりでに体が動くふう。
焼き上がると1個分をクリスチアーノに、1個分を自分に。
まもなく兄のパスカルが、ややためらいがちに部屋に入ってくる。
セコンドが無言のままフライパンに残っていた1個分を皿にのせて、パスカルに渡す。
兄弟が並んで座ってもくもくと食べる。
弟が兄の背に手をかけ、兄もその気持ちを受けいれるように弟の肩に腕を回す。
言葉をかわさないままの、けんかのあとの和解。
2人がイタリアに帰るのか、アメリカに残るのか、別々の選択をするのかはわからない。

手の込んだみごとなパーティー料理の数々と、最後のシンプルなオムレツの対比がおもしろかった。 無言でオムレツ作りを独演する弟役のスタンリー・トゥッチは、脚本にも監督にも加わっている。 この空虚なような濃密なような、最後のノーカットの5分を映画にしたかったろうかと思った。

* 『リストランテの夜』原題'Big Night' 1996
監督 スタンリー・トゥッチ キャンベル・スコット
脚本 スタンリー・トゥッチ ジョセフ・トロピアーノ 
* 終了後の長いクレジットに謝辞があり、'Town of Keansburg' 'Town of Keyport' と、ニュージャージー州の地名がでてくる。地図を見るとニューヨークの南にある。