Ⅱ-8 『トランザム7000』 ビールを運ぶ人-快速の快楽1

ジョージア州アトランタのトラックレース場で、いかがわしげな富豪が、高速ドライバーとして知られる男に、「テキサス州テクサーカナでクアーズのビールを積んで28時間で戻れば成功報酬8万ドル」という仕事をもちかける。
クアーズビールは、アメリカ大陸の西寄りコロラド州で、ロッキー山脈の水から製造されていた。低温殺菌されず防腐剤が含まれていないためミシシッピ川より東へ持ち出すことを禁じるきまりがあり、川を越えて移動させれば密輸になった。

引き受けたのは速く胸のすく運転をするのでトラック仲間から伝説のバンディット(=山賊、無法者)として知られている男。
ざっと3000キロを28時間といったら、平均時速100キロほどで走り通さなくてはならない。 輸送契約というより、ほとんど不可能を前提にした賭けだが、バンディットは「やってやろう!」というノリで引き受ける。
チームを組むのは古くからの相棒で愛称スノーマン。
1台のトラックを2人で交替で運転するのではなく、バンディットは別な高速車で走って目くらましをしてパトカーをかわそうという策略。
バンディットが乗るのは 黒いトランザム。
スノーマンの車は18輪もあるトレーラーで、ここにクアーズを400ケース積む。 側面には、無法者(バンディット)が駅馬車に銃を向けている西部劇のような場面が描かれている。

トレーラーにビールを積んでアトランタへ戻るとき、バンディットは白いウェディングドレスを着たキャリーを拾う。
キャリーは結婚式から考え直して逃げてきたところで、相手はテキサス州の保安官の息子。
父のジャスティスも保安官で、その親子と、アーカンソー州・ミシシッピ州・アラバマ州・ジョージア州の各州警察が追ってくるのをかわしながら、快速車と大型トレーラーがゴールのジョージア州アトランタに向かう。

バンディットは運転技術は抜群だし、度胸があり、運転手仲間や道沿いのレストランなどに、男も女も信奉者が大勢いる。
その信奉者たちが、バンディットとスノーマンが警察の追求から逃れて走り抜けていくことに協力する。
バンディットを知る運転手の大型トラックが何台か連なっている間に、バンディットの乗用車がひょいと隠れる。
パトカーが追ってくるが、1台のトラックがパトカーを左の路肩に押し出すように走る。
そのままトラックはバンディットの車が見えないようにパトカーと並んで走って、バンディットの車を追い越させてしまう。
はじめてこの映画を見たとき、おもしろいことをする!と、このシーンがいちばん記憶に残った。

この映画の公開は1977年。
日本では高速道路が全国に拡大している頃だった。
1965年に名神高速道路が全通、その後、1969年東名、1982年中央、1985年関越の各道路が全通している。
まだ高速で走る車に目が慣れていない頃に、この映画を見て、スピード感に魅惑されたのだったと思う。

1977年といえば、僕はその年の暮れに初めてアメリカに旅した。
ロサンゼルスから入って、西海岸からメキシコあたりを、ほとんどバスで移動して、自動車の国ということを実感した。
一度だけサンタバーバラからロサンゼルスまで120キロほどの区間を鉄道に乗った。
本数は少ないし、時間におそろしく遅れてくる。その夜のホテルを予約してないから明るいうちに着くつもりだったのに、すっかり暗くなってから着いた。
バスにしてたら明るいうちに着いてたろう。

バンディット役のバート・レイノルズが、ぴったりはまっていた。
自在でこだわりがなく、やさしく、憎めないいたずらっ子みたいな笑顔をあふれさせていた。

2013年公開の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』では、老人がモンタナ州からネブラスカ州に向かう。
立ち寄ったバーで「クアーズ」と注文し、ないといわれると「じゃバドワイザー」とかえていた。
クアーズが広く好まれているのか、それともたまたまだろうか。
→[Ⅱ-2 映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』-老いるとは自由に移動できなくなること]

* 『トランザム7000』Smokey and the Bandit 監督ハル・ニーダム 1977