Ⅱ-12 『ドライビング Miss デイジー』-老婦人を送る人


ユダヤ系の老婦人と、買い物や教会への送り迎えのために雇われた黒人運転手の物語。
高齢になっても車を運転していた女性デイジー(ジェシカ・タンディ)が、ギアを入れ違えて車を坂から落としてしまい、綿工場経営者である息子ブーリー(ダン・エイクロイド)は、運転手としてホーク(モーガン・フリーマン)を雇う。
デイジーはプライドが高く、負けん気がつよくて、自分のミスを認めない、やっかいな人。
ホークが、買い物する店にふつうに向かおうとすると、デイジーは自分が知っている遠回りの道に固執して不機嫌になったりする。

ホークは運転手をしていても、車が好きとか遠出が好きというのではない。
デイジーたちが暮らすのはジョージア州アトランタ。
あるとき隣のアラバマ州モビールに住む親族に会うために2人で車で向かうことになる。
アラバマ州に入る標識を見たところでホークが話しかける。  
H:私が初めてジョージア州を出た時を?
D:いつだい?
H:今です
 妹の亭主は大陸横断鉄道の客室係で あちこち引っ越しを
 ニューヨーク デトロイト セントルイス
 仕事で仕方ありませんが 私は旅行などご免です
 でも私は今が初めてです
 こうやって見る限り アラバマはつまらん所ですな

モビールはデイジーにとって特別な思いがある所だった。
D:初めてモビールへ行ったのはウォルターの結婚式で1888年だった
H:1888年?奥様はほんの子供だったでしょう?
D:12歳だった 汽車に乗って ワクワクしたわ
 結婚式に出るのも 海を見るのも初めて
 パパは"メキシコ湾は本当の海じゃない"って
 "海水に手を浸けていい?"とパパに尋ねた
 臆病なのでパパは笑ったわ
 指をなめると塩からかった...
 バカな事を覚えてるわね
H:すばらしい思い出です


楽しいドライブをしていたのに、PHENIX CITYの標識が見えて、道が違っていたことに気がつく。
D:フェニックス市は方向違いよ  オペライカでお前が道を間違えたのよ
H:地図を持ってたのは奥様ですよ
D:私はお弁当を食べてたのよ


おそろしくメンドウな人だが、ホークはまた相当に率直な人。
雇い主だからとか、高齢だからとか考えてインギン、無風にやり過ごすのではなく、正当にあつかうように言葉をかける。
デイジーにホークは大切な存在になっていく。
デイジーは痴呆症を発症し、ときどき認識が錯乱するようになり、介護施設に入る。
ホークもかなりな高齢になり、デイジーの息子が運転する車で面会に行く。
ホークがスプーンにのせたパイを、プライドが高かったデイジーが素直に口をあけて食べさせてもらい、あなたは私の友達だと言う。

1950年代のジョージア州アトランタでは、黒人差別に対して公民権運動が盛んになりつつあった。 そんな時代背景も織り込まれ、デイジー、その息子、運転手ホークの生きようが胸にしみた。
ホークが運転する車のナンバープレートが大写しになったとき、番号の下に「PEACH STATE」とあった。
「PEACH STATE」はジョージア州の愛称で、車のナンバープレートのような公式なところにも表示されるのをこの1場面で知った。

*『ドライビング Miss デイジー』 Driving Miss Daisy 1989 監督:ブルース・ベレスフォード