Ⅱ-19 『グース』-空を飛ぶ少女の冒険1

14歳の少女エイミーは、ミュージシャンの母とニュージーランドで暮らしていたが、母が交通事故で亡くなり、カナダに住む父と暮らすことになった。 父は、母とは異質な工学系のアーティストで(それで摩擦が起きて離婚することになったらしい)、草原のようなところで生活して、広い工房で博物館に納入する月着陸船の原寸模型を作っているところだった。
エイミーは新しい暮らしになじめずにいた。
ある春の日、住まいの近くで開発業者が木を倒し、その跡地でエイミーは数個のグースの卵を見つけた。
親鳥が追われて卵だけ残っていたのだった。
エイミーは持ち帰って引き出しに隠し、父がもつ熱器具で仕掛けを作って卵をあたためた。
ヒナが殻を破って生まれると、はじめて見たエイミーを親と認識した。
幼いヒナたちを育てるうち、エイミーはカナダでの暮らしになじんでいった。

やがて冬が近づくと、グースは越冬のために南下しなくてはならない。
でも、みなしごグースたちには、導いていくべき親鳥がいない。
そこでエイミーと父がそれぞれ一人乗りの軽量飛行機に乗り、親鳥の代わりに先導することになる。
カナダのオンタリオ州から、アメリカのノースカロライナ州まで、およそ800キロの飛行になる。
自然保護官の職務的義務感にもとづく妨害をだしぬいて(この場面が痛快!)旅を始める。

霧のなかを飛んでいるうち、視界が晴れてみればボルチモアの高層ビル群に入りこんでいて、高層階のオフィスで働く人たちを驚かせる。
日が暮れて空軍基地に近づいたときには、未確認物体が現われたとして戦闘機が緊急発進しかけ、報道されて注目を浴びることとなる。
そんな映画的エピソードが愉快なうえ、軽量飛行機とグースが空を飛ぶ姿がとてもいい。
快適な速度感。
速度もサイズも日乗の身体感覚からかけ離れていない。
それでかえって飛行感、浮遊感、高度感が身近にリアルに感じられて、ときめく。
空から見おろすカナダの景色もすてきだった。
整然と屋根が並ぶ街、木々が紅葉している森、空を映す水の輝き。
エイミーは、ひなを育てているころ孤独な少女だったが、南へ飛び立つときには少しおしゃれな服を着ていて、イアリングもつけている。
報道陣や大勢の人が待ち構える地点に降りるときには、そんななかで輝くひとになっている。
少女の変身もさりげなく織り交ぜた飛行映画をたっぷり堪能した。

* 『グース』 Fly Away Home 1996 監督キャロル・バラード 主演アンナ・パキン