福島潟放水路-自然を保全する潟と、エネルギー基地の港が接続する不思議


新潟の海岸地方のおおもとの地形をごく大まかにいうと、海岸沿いに砂丘があり、その内側の低地に半ば土、半ば水面の潟がある。 阿賀野川の東に福島潟という広大な潟があったが、江戸時代から近代にいたるまで、大規模な干拓がおこなわれて、田や宅地になった。今は歴史を伝えるためにわずかに潟が残され、歴史を伝える博物館なども建っている。
福島潟からは新井郷川が北に流れて阿賀野川の東で日本海に注いでいる。 福島潟には10以上の川が流入するが、水が出ていくのは新井郷川のみ。 それで洪水が起きやすいために福島潟放水路がつくられ、新井郷川より東で日本海に流れている。

福島潟放水路 不法投棄禁止 福島潟放水路


それくらいの知識だけで河口に向かうと、太郎代という小さな集落があった。
家々の間の細い道を行くうちに、やぶがあり、看板が立っている。 不法投棄をしないようにという内容なのだが、英語とロシア語とアラビア語(?)でも表記してある。 英語とロシア語は、そうかなと思うのだが、アラビア語らしいのがなぜここにあるのか、ちょっと見当がつかない。
地図で福島潟放水路の河口を見ると、新潟東港がくっきりした図形としてあって、埋立地かと予想していた。 集落を走ってみると、人家のあいだに神社があるし、看板の周囲は藪のようなところ。 埋立地ならそんな古いものや放置箇所はないだろう。

福島潟放水路 河口
左岸から行くと、河口先端までは近づけなかった。
左岸からは長い防波堤がのびている。
対岸では、なにか長い建物を建てる工事をしていて、地図によるとその向こうはゴルフ場らしい。

福島潟放水路 タンク
左岸には大きなタンクがいくつもある。
新潟東港は貨物のみで旅客はない。
動く人を見かけたのは釣り人ひとりだけだが、本来はこのあたりは釣り禁止になっている。

福島東港 タンク
タンク群を囲うフェンスには「立入禁止」「駐車禁止」の表示があったが、別のところにはこんな危険な表示もあって、なんだか不気味だった。
「警戒標識
お願い この付近にアンモニア配管88.48があります。
1)異臭を感じたとき
2)万一ガス漏れを発見した時には 下記へご連絡下さい。
連絡先*** 電話***」

福島東港 交差点
海沿いのタンク群から内陸に向かって戻る。
ここが集落のあたりとのほぼ境になる交差点。
郵便局がある向こうの区画に集落があり、写真を撮る背の方には港とタンク群がある。
この近くの別の角では、フェンスにこんなのがかかっていた。
「密航・密輸・不審船 海の事故 あなたの声で118番 海上保安庁 新潟海上保安部」
こういう危険な感覚は、僕のような内陸県に暮らす者には縁遠い。

福島潟
これは、だいぶ前に福島潟に行ったときに撮ったもの。
福島潟は大規模に干拓され、農地や宅地になったが、残った一部を保存する動きがあり、1997年には「ビュー福島潟」という博物館施設が建ち、その頃に訪れた。


河口めぐりでは、現地で驚きたいという気持ちもあるから、おおざっぱに地図を眺めるくらいで、あまり調べずに行く。
あとで調べてみると:
 新潟東港が開港 1969年
 福島潟放水路は同じ1969年に建設が始まり、2003年に開通

新潟東港は今は福島潟放水路の河口港のようにみえるが、砂丘を堀りこんでつくった堀込港という。
ただ海沿いの先端部分には、やはり埋め立てて拡大した部分もある。
港を成因から河口港、埋立港、堀込港とする区分があるが、新潟東港は3つともに該当する珍しい港なのだった。

長い歴史のある新潟港は、今、旅客もあり、貨物では国内の自動車の移入・移出が多い。
新しい新潟東港は、海外からのLNG(液化天然ガス)の輸入量が圧倒的に多く、重要なエネルギー拠点。
それと福島潟という新潟の特徴的な歴史的地形が水路で接続しているのが、不思議な感じがする。

新潟市中心部から出て、日本海岸を北上し、胎内市で東に転じて山形・宮城を横断して福島県相馬市にいたる国道113号線が、かつて太郎代を通っていた。
福島潟放水路が開削されたのにともなって、国道113号は南に迂回し、かつての道は放水路で行き止まりになった。
太郎代の集落の中を走ったとき静かでひっそりした印象を受けたのだが、エネルギーの基幹的物流の近くにあるのに暮らすには不便なところになってしまったという事情があるようだ。
福島潟放水路の河口周辺は、いろいろな彩りの土地がとなりあっている、特異なところだった。


(2020.10)