境川+親不知

境川河口
境川河口:
新潟県と富山県の境を流れる境川の河口。
礫がまじった砂州が河口にいくつかの雲形図形を成すあいだを、川が海に流れこんでいる。
新潟県の河口を北から南下しながら見てきたが、ようやく富山県との境まで来た。
古い時代から川をクニの境にすることはよくあったことで、「境川」は全国にいくつもある。 この川も古くから越後と越中の境界だった。

境川 鉄道の橋
橋:
境川の河口にいちばん近い橋は、あいの風とやま鉄道線の鉄橋。
この写真はそのすぐ上流にある国道8号線に架かる境橋の歩道から撮っている。
あいの風とやま鉄道線は、もとはJR北陸本線の一部で、2015年に北陸新幹線が長野駅から 金沢駅まで延伸開業したときに経営分離された。
富山県内をあいの風とやま鉄道、新潟県内をえちごトキめき鉄道、石川県内はIRいしかわ鉄道が継承した。
あいの風とやま鉄道線は、この橋から東が新潟県になり、1.5kmほど先の糸魚川市の市振駅までとなっている。

境川 別な流れ
前の写真を撮った位置から、もう少し左岸寄り(富山県側)に歩くと、こんなふうに別な水流がある。

北陸電力の境川第二発電所
発電所:
橋の後方(海と反対の山側)に振り返ってみると、発電所がある。 北陸電力の境川第二発電所で、ほかに上流に第一と第三とがある。
大きなダムを作って大量の水をためて発電するのではなく、川から水路をひいて発電する「流れ込み式」という発電所で、環境への負荷が小さいという。
その発電所を経由してきた水が、上の写真の水流になって海に向かっているようだ。
ふと新潟県は北陸電力の管轄内なのだろうか?と思って調べてみたら、東北電力だった。 あまり広くない川を隔てているだけだが、ここで発電された電気は川向こうの新潟へはいかない。新潟県は、大きな地域区分として、北陸とか、中部とか、甲信越とかあって、いったいどれ?と、とまどうことがあるが、東北にくくられることもあるのかと、あらためて複雑さに思い至る。
水力発電というと、山の奥深いところにダムがあって、水を大量にためて発電しているイメージがある。
こんな河口に近いところに水力発電所があるのは意外な気がする。
北陸電力境川第二発電所のデータを見ると、
 発電形式(落差を得る方法):水路式
 発電方式(水の利用方法):流込み式
とある。
川の流れの高低差を生かして、一部の水を別の水路に引きこみ、流れ落ちていく落差によって発電している。 高山から海に急勾配で流れ下るこのあたりに適した発電であるらしい。

境一里塚
境一里塚:
境川左岸=富山県側に、一里塚がある。
一里塚は、江戸時代に街道に作られたもので、ここは北陸道の加賀藩領の東の端になる。

富山湾岸サイクリングコース
富山湾岸サイクリングコース:
一里塚からさらに河口に向かって歩いていくと、こんな標識があった。
 「富山湾岸サイクリングコース 氷見まで102km」
 「ここからSTART」
堤防の内側に沿って舗装路が西に向かっている。
境川は新潟と富山の境を流れているのだが、このあたりでは、鉄道、自転車道、一里塚、それに電力とか、いろんなことがみごとに境になっている。

世阿弥『山姥』:
能『山姥』は、境川の場面が重要な契機になっている。
都で山姥を題材にした曲舞を舞って評判の百ま山姥という名の遊女が、信濃国の善光寺に詣でようと従者を連れて都を出る。
一行は、日本海に沿って進み、越中・越後の国境にある境川に着く。
従者がこの地の人に道を尋ねると、山越えの道が如来が通った道だとすすめる。
   「ことに我が住む山家の気色。山高うして海近く。谷深うして水遠し。」
ここから百ま山姥は、乗り物を降りて山道に入り、ほんとうの山姥に出会うことになる。

親不知観光ホテル
親不知観光ホテル:
境川に行く前の晩には、親不知にあるホテルに泊まった。
親不知は、山のはしの崖が海に迫っていて、通り抜けることがとても危険で親も子も互いの心配をしている余裕もないということから親不知・子不知といわれたところ。
ホテルはその崖の上部にある。
写真の左が海で、風呂も、僕が泊まった部屋も、上の階にあり、海の広い眺めがよかった。

* 親不知観光ホテル 糸魚川市市振119-1 tel.025-562-3005

親不知
親不知:
夕方早くにホテルにチェックインしたあと、散歩に出た。
ホテルのすぐ前にある道は、江戸から明治になって16年も経た1883年に開通したもと「国道」。
1966年に天険トンネルができて「国道」ではなくなった。
今は「市道天険親不知線」となり、遊歩道として整備されている。
ホテルの真下あたりで、遊歩道から親不知を見通せる。 高速道路が海にせりだして造られている。それでも陸地に通すより簡単-というほどに地形が厳しいということだろう。

ブラタモリ 糸魚川
NHK『ブラタモリ』にここで撮影された場面があった。(2021.11.27「糸魚川~君は糸魚川の本当のすごさを知っているか?」)
道の柵に、そのことを記した説明資料が架けられていた。

焼いたカサゴ
食堂で夕飯。
席についたとき、並べられたものをひと目見て、あっさりした食事なのだなと思ったのだった。
ところが、熱いものはそれから別に運ばれてきて、心づくしのおいしい料理だった。
とくに記憶に残ったのは、写真の焼きかさご。
よい香りに、適度な厚みに、ふくよかな味わい。
それと天ぷら!
野菜と小さな魚が揚げられていたのだが、どれもさくっとした歯ごたえで、うまい。 生ではなく天ぷらにするとこんなふうにおいしくなるものだと、あらためて天ぷらという調理方法の存在理由を再確認させられた思いだった。

親不知観光ホテル 夕景色
ホテルからの夕景:
日の入りの遅い時期で、窓の外はまだ明るい。
空にまだ青が残っている。
僕が泊まる部屋に戻ると、2つのベッドが変則的に置かれたツインルームで、オーシャンビュー。
海が暮れていくのをゆっくり眺めて、 いい1日をいいホテルで終えた。
あちこち旅をして素敵なホテルに出会ってきたが、ここも忘れがたく記憶に残る1つになった。


(2022.7)