九十九里浜3:南白亀川-ポツンポツンと高層住宅

南白亀川(なばきがわ)は、千葉県白子町で太平洋に入る。
すっとは読めない河川名だが、いわれてみれば、そういうのもありかと納得できる読みにくさではある。
川の名の由来は、4キロほど上流にある白子神社の伝承による。 平安時代、白子の海岸に白い蛇を背にのせた白い亀が南方から渡来した。居合わせた人が柄杓を差し出すと白蛇がそこに昇ったので、その人は白蛇を近くの小社に祀ったという伝承で、白蛇は白子神社の御神体になっている。

南白亀川の河口
いくつも河口を見てきたが、ここはなかなか珍しいという印象を受ける河口だった。
河口の左岸、公園になっているところに小さな丘があり、そこから眺めると低層家屋の連なりに混じって高層住宅が4棟、ポツリポツリと建っている。
河口で目立って大きな建物があると、たいていは工場とか倉庫。
それと大都市の河口では高いビルが並んでいることはある。
でもこんなふうに、海辺に広がる平たい土地にある小さな町に、高層住宅がある-というのは、ちょっと奇異な感じがする。
よほど住宅地として人気がある土地だったりするだろうか?
千葉市まで約30キロ、通える距離だし、気候は穏やかそうだし、景色は抜群。たまには海へ、ではなく、住んでしまってもいいかもしれない。

あとで町の統計をみると、1990年代半ばまで転入者が増えている。
その後は2000年に約13,000人だったのが、2020年には約10,000人と、20年で30%ほども減っている。
ある不動産会社のマンション情報では、近隣の町も含めて海岸近くにある売り物件は、13件表示されるうち、100万円台が3件、300~600万円が多く、最高が980万円だった。
それなり狭めにしても100万円台というのには驚く。
高層住宅は築30年から40年くらい経っているから、社会全般で人口が増えていた時期に建てられたのだろう。
経済成長期につくられた郊外住宅、郊外タウンが高齢化しているときくが、ここの高層住宅もそうだろうか。

南白亀川 河口の先端
河口先端では、両岸から低く短い防波堤がつきだしている。
潮が満ちてくる時間で、河口先端部より上流まで波が寄せている。
波は100mほどくらいまで上がっていくのが見え、やがて静まり、その先は静止した水面になっている。
毎年7月には、潮の流れを利用してイカダのぼり大会が開催されているという。
河口近くの砂浜では、細かく砕けた貝が散乱していた。
岩礁でもあれば貝が砕けるかもしれないが、浜辺は砂地ばかり、なぜ砕けているのか不思議な気がする。

南白亀川の河口 上流方向
上流方向の眺め。
九十九里有料道路と県道が川を越える橋が架かっている。
橋の先の右岸(この写真では左)では、海の近くにいくつものテニスコートがある。
白子町はテニスコート数日本一だそう。
僕もずいぶん前に一度テニスに来たことがあって、ああずいぶん月日が経ってから来たもの-と懐かしい。

    ◇     ◇
今夜の宿は九十九里浜でも北のほうにある旭市にとってある。
そこに向かって海岸沿いの道を北上するとき、真亀川(まがめがわ)を越えた。
河口間近にサンライズ九十九里というホテルがある。
全室オーシャンビューなうえに河口ビューでもあり、一度予約したのだが、都合でキャンセルしていた。
通りかかったついでに寄ってみたら、ひととき雨が降り、ロビーあたりだけ眺めて出てきてみたら、空に虹がかかっていた。
U字形に、切れ目なく空に架かっている。
虹の完全形を見たのは、たぶん生涯2度目だ。(前は内陸、秩父鉄道の電車の中からだった。)

亀の井ホテル九十九里
九十九里浜北部、旭市にある亀の井ホテル九十九里に泊まった。
部屋からは海を見おろせる。
朝早くには海霧が漂っているのが見え、やがてそこから日が昇った。
海に弧状に突きだしているのは、細い水路があって、その流路を確保するための防波堤のよう。
その弧に向けて静かに寄せる波がひだを描いている。

刑部岬(ぎょうぶみさき)
ホテルを出てから車で少し北に走り、刑部岬(ぎょうぶみさき)に行った。
九十九里浜の東北端であり、ここから先は屏風ヶ浦の崖が銚子まで続く、地形の転換点になる。
刑部岬じたいは高さ約60mの断崖で、さらにそこに飯岡刑部岬展望館があって、階段を上がるとすばらしい展望が開ける。
日本夜景遺産、日本の夜景100選、日本の夕陽・朝日百選、関東の富士見百景など、勲章をいっぱい首からさげているふう。
眼下に飯岡漁港があって、その先に九十九里浜がずっと遠くまで延びている。
このやや左手に飯岡灯台がある。
その先の屏風ヶ浦は、ここからは見えない。

    ◇     ◇
帰り道、古い町並みが残ることで知られる佐原に寄り道した。
前に利根川河口を見に銚子にいったときも佐原を通ったのだが、そのときは香取神宮に参拝したくらいで、街のなかには行かなかった。 →[利根川-関東と太平洋の往き来]  
水郷佐原山車会館の駐車場に車を置いて歩いた。
佐原町並み交流館に入ると、古い建物のかなり大きな復元模型がいくつもあり、みごとなものだった。
ついでに 交流館の人に昼食の店をたずねてみると、この日、水曜日は休みが多くて、と残念がられた。
利根川に向かって流れる小野川という細い川に沿って落ち着いたつくりの建物が並んで、たしかに風情がある。
昼どきだが、よさそうな店があっても交流館できいたとおりに休みばかり。
しかたなく車を置いた駐車場に戻りかけた途中に新しい店があった。

カフェ&キッチンCHOPIN(チョピン)
古い家が並ぶなかに、真新しい店があり、想像したとおり街おこしの店だった。
もとは佐原信用金庫の支店があった土地に2年ほど前にできた「佐原チャレンジショップ」で、手作りの工芸品を売る店と、食事の店が入っている。
食事の店は「カフェ&キッチンCHOPIN(チョピン)」。
船の底のような天井をした明るいインテリアが心地よい。

CHOPIN(チョピン) 豚汁+味噌焼きおにぎりセット
僕は「豚汁+味噌焼きおにぎりセット」500円に、石窯ライ麦パン150円。
豚汁は野菜などが椀からあふれて味も豊か。
おにぎりはがっしり大きく、香ばしく、美味。
同行の妻は、「Chopinのナポリタン」800円。
薄焼き卵のうえにのっていて、見た目のあれっ!!感があり、食べてもおいしいとのこと。
十分に満腹したのだけれど、チャレンジに応援したい気持ちでケーキ+コーヒー770円も加えて、100%以上に満ち足りた。
メニューにあるほかのものもみなそそられるふうで、近ければちょこちょこ通ってあれこれためしたいと思うほどだった。
(2022.12)