8 武蔵水路-利根川の水を荒川へ移動させる

利根大堰
赤岩渡船から下流に、行田市域を越えて4.5kmほど行くと、埼玉県羽生市と群馬県千代田町に架かる利根大堰がある。
堰の上部は埼玉と群馬を結ぶ国道122号で、通過車両が多い。
堰の上流側には、たっぷりの水がたくわえられ、ここから取水して武蔵水路を流れて荒川に運ばれ、埼玉県と東京都に水を供給している。 東京都水道局の約4割、埼玉県企業局の約8割の給水エリアをカバーする。
堰の下流側は水を減らされて薄い流れになる。

利根大堰から取水
1枚目の写真で、利根川は取水されて右下に流れている。 そこでふりかえって眺めると、取水された水は2枚目の写真のこういう貯水池(沈砂池)に入る。
その先は3分され、埼玉用水路、武蔵水路、見沼代用水に流れていく。
こんなに水を取られて痩せていく利根川がなんだか可哀相なよう。
荒川に向かう武蔵水路は、ここから全長14.5kmを行く。

武蔵水路
武蔵水路はこういう平坦な田園地帯を流れていく。
球体が浮かしてあるのは、万一ひとが流されたときのための救命用。
水の流れが早いし、人工水路で途中に木などないから、こういうものがないと水に落ちたらひたすら流されてしまう。
コの字を立てた形の人工物を土の地面に通しているための配慮はほかにも必要で、大雨で洪水が予想されるようなとき、取水量を減らさなくてはならない。ただし水位を急に下げると、水路の底が地下水の水圧により浮いてしまうので、時間をかけて徐々に減らしていく。なかなか判断が難しいだろうと思う。
武蔵水路は東京都の深刻な水不足への対応策として1965年にできた。 新造の人工河川だから、それまでにあった別な川や、国道などと交差することがあり、そうしたところでは武蔵水路側がいったん下にもぐるサイフォンという仕組みで立体交差している。

糠田排水機場の外観
荒川に合流する手前、土手のそばに糠田排水機場がある。
武蔵水路は、大雨のとき、周囲の田畑などからの排水を受けいれる機能もあり、あふれようとする水を強制的に荒川に排水させるのがこの排水機場の役目。

糠田排水機場の内部
排水機場の内部。
写真は、2015年ころにかけて、老朽化した水路を大規模に補修する工事が行われ、それにあわせて排水機場の見学会が実施されたとき撮ったもの。
排水のための動力として、船のエンジンと同じ機構のものが6基あるとのことで、なるほど水に力を加えるからかと思ったものだった。
糠田排水機場を経由した水は、荒川の河川敷にでて、広々した畑と草原にポツポツと高圧線の鉄塔が立っていたりする間をさらに600メートルほど流れていく。

武蔵水路が荒川に合流する
合流点。
写真では、手前から向こうに荒川が流れていて、左から武蔵水路が激しく流れこんでいる。
水音が空に立ちのぼるふう。
利根川からの取水地は、国道を車が行き、広いおだやかな水面にはウインドサーフィンやカヌーを楽しむ人がいたり、なじまれている。
荒川への合流地は、無人地帯で、 人知れず大きな音を立てて、水が流れている。
写真向こうに見えるのは糠田橋。

武蔵水路が荒川に合流する
糠田橋から合流点を見おろす。
荒川の河口から64kmくらい。
この写真を撮ったのは、合流点間近で撮った先の写真とは別な日で、荒川の水量が多く、武蔵水路の水量が少なく、おとなしく合流している。

夜になっても星空の下で水の流れが休みなく続き、音と速さとエネルギーがある。 実際に夜に行ったことはないが、そんな合流点のことを思い浮かべているのは僕だけかもしれない-と感じながらその眺めと音を想像してみると、遙かな心持ちになる。