14 韓流ドラマ『水曜午後3時30分』-慶州(キョンジュ)と済州島(チェジュド)

『街道をゆく』(司馬遼太郎/著 須田剋太/画)には、2つの韓国の旅がある。
本土を旅した「韓のくに紀行」と、済州島をめぐった「耽羅紀行」の2つ。
『水曜午後3時30分』(수요일 오후 3시30분)は、「韓のくに紀行」の訪問地の1つの慶州(キョンジュ)と、「耽羅紀行」の済州島(チェジュド)を往き来する。

水曜午後3時30分は、「1週間のうちで女が一番不細工で老けて見える」時間だという。
化粧品会社の中堅職のウヌ(チン・ギジュ)は、その時間に同じ社の先輩のスンギュ(アン・ボヒョン)にふられる。 ウヌの幼なじみのジェウォン(ホンビン)は、ウヌに借りができる事情が起きて、失恋相手の関心を取り戻すことで借りを返そうとする。 その戦略は、ほかの女性が疲れてブサイクになっている水曜午後3時30分にウヌを輝かせるというもの。 毎週その時間にウヌを楽しませる企画を用意して明るい笑顔と上機嫌のコメントをSNSにのせる。

たとえば、黄色い菜の花畑で色とりどりの花束を手にしている。

またスイーツの店ではケーキとマカロンを注文し、両手にフォークをもって満ち足りた笑顔をうかべる。

風力発電の丘の柵では、いくつものかざぐるまが回る柵にもたれて、ジェウォンが経営する店の出前カフェを味わう。

普門(ポムン)湖の周囲の遊歩道は桜の名所。
ウヌをここに誘った日、ジェウォンは尊敬するコーヒー豆の生産者がいる済州島を訪ねていた。とんぼ返りしてウヌのいる湖畔に行く計画だったが、済州島特有の急な激しい雨が降りだす。とにかく空港に行ってみると、雨がやんで飛行機が飛ぶという。花見客でにぎわう湖畔の道でウヌは心細くなっていたのだが、あやうくジェウォンが現われる。

ジェウォンが済州島の空港にかけつけたところで、出発時刻表が画面に出た。
DVDをテレビ画面で見ると文字が小さく読みとりにくいのだが、慶州行きの便は多くはなさそう。ソウル・キンポ空港行きはかなりの頻度ででているようだ。
済州島-ソウルはおよそ1時間。 済州島から慶州までは距離がずっと短いから、便数が少なくても、いい時間にのれば島で用事をすませて湖畔の花見に間に合わせられるようだ。

ジェウォンの企みはうまくいって、元カレのスンギュがウヌのところに戻ってくる。
ところがウヌにはジェウォンこそが欠かせない人になっている。
ジェウォンにとっても同様。
もともと心通いあっていた幼なじみが、毎週わくわくする楽しい時間をともに過ごしていたら、それはそうだろう。
今度はウヌが元カレを捨てる。
ところがジェウォンはウヌと元カレが復活したと思いこんだまま、慶州にいるのがつらくなって、いいコーヒー豆の生産者がいる済州島に向かう。
ジェウォンが街を離れることを偶然知ったウヌは空港にかけつける。

韓流ドラマでは、去ろうとする恋人を空港に追いかけるシーンがひんぱんにあらわれる。極端なのでは、いったんハッピーエンドになったのに、一方が海外に旅立つことにして、空港に恋人が追いかけ、抱き合って、「やっぱり行くのをやめる」とか、ただ空港シーンを設定するためにだけ無理矢理話を作ってるふうなことさえある。

『水曜』では、空港で2人は行き会えないまま、離ればなれになる。
ジェウォンは済州島のカフェで働くようになり、1年が経つ。
スンギュがたまたま済州島に来て、ジェウォンがいるカフェに寄る。
そこでスンギュはウヌとは別れていることを告げる。
それをきいたジェウォンは、いつかのように慶州へ急行し、また桜が咲く湖畔の道で再会した。

韓流ドラマはOST(original soundtracサントラ、挿入歌)も魅力。 もりあがったところでスッときれいな、あるいはせつない曲が流れる。
『水曜』のOSTもよかった。
また韓流ドラマでは、しばしば財閥の後継者だとか、出生の秘密だとか、企業や宮廷の陰湿な勢力争いとかがテーマとなる。記憶喪失、人格が入れ替わる、タイムスリップなどもよくあるが、そういういかにもな作り話のための設定は僕は苦手。
『水曜』は、ほぼふつうにいそうな人の、ふつうに経験しそうな話で、親しめた。
気に入ったドラマには、とくに気に入った1つ2つのシーンがあるものだが、『水曜』では、あたたかな午後、カーテンの洗濯を終えた2人が、陽のあたる縁側で並んでまどろむところがほんのりしてよかった。
もちろんそこでも気持ちをそそるOSTが流れている。

慶州の世界遺産 石窟庵
『街道をゆく』の「韓のくに紀行」の挿絵の地をめぐったとき、慶州にも行き、挿絵が描かれている世界遺産の石窟庵(この写真)や仏国寺に行った。(→[須田剋太の旅 港町・釜山と古都慶州-「韓のくに紀行」])
『水曜午後3時30分』の慶州のロケ地は、慶州中心地から石窟庵に向かう道半ばあたりにある普門湖周辺の風景が多かったようだ。
映像で湖畔の桜、菜の花畑、風力発電の丘の風景などを楽しんだ。
ウヌが暮らす家も印象的で、広く長い坂の階段の途中に門がある。伝統家屋が多く残る地域にあるらしい。 この家と坂が映像に現われるたびにオオ...と息がもれるほどにすてきだった。

* 『水曜午後3時30分』は2017年放送。
その前年2016年には『トッケビ』があった。
『水曜』のなかで犬を手にいれた場面がある。子どものころ2人が可愛がっていた犬にそっくり。前の犬は小さくて丸いから「コン」(豆)といった。今度のはどういう名にしようとウヌが「コン」に似た名を考えているうち、「コン・ユ」がいいといい、ジェウォンが「トッケビに続いて犬とはコン・ユがかわいそうだ」という。