17 韓流映画『チャンス商会 初恋を探して』-水踰(スユ)からソウル

ひとり暮らしをしている老人ソンチル(パク・クニョン)は偏屈で気が短い。
スーパーマーケット「チャンス商会」で働いている。
ソンチルが住んでいるのは、ソウル中心部より北の水踰(スユ)。
水踰駅はソウル駅から北へ向かう地下鉄4号線で12番目の駅。
映画では冒頭に、ちょっと昔の田園風景のなかを水踰洞とソウル駅を結ぶバスが走ってくるところが映る。若かったころのソンチルが、初恋の人が降りてくるのを待っていた。

地下鉄4号線の途中には明洞(ミョンドン)とか南大門(ナムデムン)とか、繁華な街をかかえる駅があり、そこに近い水踰には開発圧力がかかっている。 ソンチルの家あたりでも古い住宅を壊して高層ビルを建てる計画があり、周囲の住民はみな賛成したのに、ソンチルだけが家を離れることを拒否している。
向かいの家に老婦人グンニム(ユン・ヨジョン)が引っ越してきて、自然なふるまいとやさしさにソンチルは惹かれていく。住民たちはソンチルが軟化するように、ふたりの仲を応援する。
『トッケビ』で、トッケビがウンタクと、死神がサニーと連絡するために、スマホを入手するのだが、高齢で頑固なソンチルもグンニムと連絡するために初めてスマホを持ち、住民たちが操作を手伝う。

えっと驚かされる展開を経て、ソンチルは再開発に同意して、グンニムとともに老人ホームに移る。
頑固な老人が再開発のためにアパートから移動を迫られる映画をいくつか見た気がする。その後の展開をはっきり覚えていなくて、あやふやだが、老人ホームにおさまるような映画はほかになかったのでは。

ソンチルは認知症が進んでいるが、グンニムは初恋の人だったことがわかる。
ラストは冒頭の田園のなかのバスシーンのつづきになる。
少女がバスから降りたあと、たがいに名前を名乗りあう。
少年は「僕の名前はキム・ソンチル "星七つ"と書きます」という。
「ソン」が星、「チル」が7。
(韓国語では日本語と発音が似ているものが多くあり、数字の「7シチ 8ハチ 9キュウorク」は「7チル 8パル 9ク」という。それでたとえば「七夕」は「チルソク」といい、プサンと下関を舞台にした『チルソクの夏』(칠석의 여름 2014)という映画があった。)
少女は「グンニムといいます イム・グンニム」という。
「グンニム」は「王さま」の意味で、若い女子高生だったグンニムは気恥ずかしい思いをしている。
でもソンチルがさわやかな笑顔で「立派な名前を付けてもらったね」というので、ほっとうれしそうな表情になる。
少女が「私の名前 忘れないわよね」といい、少年ソンチルと、老人ホームのソンチルが「絶対に忘れないよ」とこたえる。

映画の半ばにこんなシーンがあった。
ベンチに並んで腰かけて、グンニムが言う。
 ソンチルさん 今幸せでしょう?違う?私だけかしら
 残りの人生はできる限り幸せに過ごしたい
 楽しいことだけを考えて言葉にしたいの

ともに年をとって、こんなふうに過ごせたら、いい人生だと思う。

映画では再開発が進行するが、水踰には今でも古い街並やにぎわいのある市場があり、ロケも水踰で行われたらしい。

* 『チャンス商会〜初恋を探して〜』 장수상회 2015