Ⅱ-17 『月曜日に乾杯』-週のはじめに、こそっと旅に出てしまう
ヴァンサンはフランスの地方の工場で働いている。
溶接の技術者だが、なにかを作り出しているのではなく、パイプが切れたのをつなぐような応急処置的作業を、命じられるたび、こなしている。
家に帰ると絵を描く趣味がある。
青年期と少年期の男の子2人がいて、それぞれに何かくふうして作っている。 父は興味をもって尋ねたり、忠告したりしようとするが、うるさがられる。
父から子へ、創造的なことへの興味は継がれているかのよう。
いつものように出勤したある月曜の朝、工場の門が閉まろうとしているが、ヴァンサンは中に入らないで、工場を見おろす丘の斜面に上がり、草原に座ってゆったりタバコを吸う。
それから街でひとりで暮らす父を訪ねると、父はヴァンサンの憂いを察して、旅を勧める。
旅行に出たいとか言ってたな
お前は世界に見聞を広める必要がある
最初にナポリに行ったらいい このリラが使える
そしてカイロ コンスタンチノープル...
ヴェニスにも行くがよい
昔 話したと思うが友人がおる いい奴だ
そして金庫を開けて取り出したリラの札束を旅費に渡す。
ヴェニスに向かった列車でヴェニスに住む男と知り合い、親しくなる。
父が話していた友人を訪れたりしたあと、ヴェニスの人が高い住宅の屋根にヴァンサンを導く。
ヴェニスの街並を見おろす素晴らしい展望が開けた。
サン・ジョルジオ教会 シテッレ音楽学校 レデントーレ教会 サルーテ教会
これがヴェニスの聖なる息吹きだ この町にあふれてる
この精霊が マルコ・ポーロに旅をさせ
ティツィアーノにあの絵を描かせたんだ
観光客では感じられないものだ
君へのプレゼントだよ
ヴァンサンはヴェニスの男に連れられて大きな船に入っていき、作業服に着替える。船で溶接などの応急作業に雇われたのだった。 世界周遊の旅にはいかにもふさわしいやり方だ。
ヴァンサンは、父に言われたように世界をめぐる。
息子たちがパラグライダーを飛ばして家の近くを滑空しているときに、ちょうど父が帰ってきたのが見えた。
家に入る階段を上がると、階段の途中にある窓から妻が気づいて「 おかえり!」 と声をかけた。
とくに非難するのでもなく、無事に帰ったのを喜ぶでもなく、テーブルに向かい合いに座って、一緒にたばこを吸い、酒を飲む。
ヴァンサンは、一緒に暮らしている義母の部屋に行き、帰ったことを告げる。
・ お帰り 遅かったね
・ あっという間だった
・ 遠くまで?
・ いや
・ 楽しんだかい?
・ 旅行だからね
次の朝、ヴァンサンは旅に出る前と同じように出勤していく。
ただすっかり元に戻ったのか。
だとするとあの旅は何だったのか?
妻がかすかにやさしくなったようにもみえる。
工作好きな息子たちは、旅の前、父がよせる関心に拒否的だったのに、やわらかく受容的になったようでもある。
だとするとあの旅が何か変えたろうか。
最後のシーン。
息子がパラグライダーで飛び、その下を列車が走っていく。
移動や自由をまとっている。
そのあと結びに工場の映像があって、あいかわらず健康に害があるかもしれなそうな煙を吐き出している。
* 『月曜日に乾杯』 Lundi Matin 2002 フランス 監督オタール・イオセリアーニ