酒匂川-名にひかれて

小田原に行き、相模湾にそそぐ2つの川の河口を見た。
はじめに小田原駅から東海道線を東京方面に向かうとまもなく渡ることになる酒匂川(さかわがわ)。
この川の名は前からちょっと気に入っていた。 あ行の音(おん)ばかりで明瞭だし、酒が香るなんてそそられる。 でもようやく実際に近づいてみようと思いたって名の由来を調べると、諸説あるなかの1つが「お神酒(みき)を川に注いだところ酒の匂いがしばらく収まらなかった」というもの。酒の匂いが決定的なのではなくて、少しがっかりした。

酒匂川河口
左岸から河口に近づくと、西湘バイパスの西湘大橋が高いところを横切っている。 その向こうに両岸から砂州がのびていて、中央部だけ狭く途切れている。 砂州には近づけなくて、遠くから眺めるだけ。
左岸には酒匂中学校、右岸には白鴎中学校や小田原東高校など、学校が多い。

酒匂川河口
上流の眺め。 国道1号線の酒匂橋が川を越えている。 箱根のやまなみの向こうに富士山が白い姿を見せている。 富士があると、もうそれだけで「ここの風景はこれでキマリ!」という感じにおさまってしまう。


「酒が匂う川」から思い出す話があって、筒井康隆『あるいは酒でいっぱいの海』(筒井康隆 集英社 1977)。
化学好きの(たぶん)高校生が実験しているうちに、たまたま酸素O16からヘリウムを取り出す薬品を作ってしまった。その薬品が自分の仕事に役立つといって、父が持って海に行った。
ところがその薬品は残りの酸素をC12に変換してしまうはたらきをした。海水のなかのO16がC12になるとC2H5OHつまり酒になる。しかも少量で次々に連鎖反応を起こす。
海に持って出た父から電話があり、薬品を海に落としてしまったという。
「世界中の海が酒になっちまった。にがりのきいた辛口の酒だ。いや。海だけではない。海は世界中の水とつながり、陸へ触手をのばしている。だから連鎖反応を起しながら、それは水のあるところ、川をのぼり湖に入り、さらには水道に入り、すべてを酒に変えてしまったのだ。」
世界中の川が「酒匂川」になり「酒匂海」になってしまうアイデアに驚嘆したものだった。
(小田原ではこのあと早川に行った。)

(2020.2)